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音楽制作的観点によるヘッドフォン比較

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先日こちらの作品でミックス2曲とマスタリングで参加したのですが、いままでのAudeze LCD-2にFocal UtopiaとFinal D8000を加えた作業は始めてでした。

「Twin Crew Star」の画像検索結果

http://lovelicot.com/twin_crew_star/

特にマスタリング時はより絶対的な基準が重要視されますので、公正なバランスの視聴環境は必須だと思っています。なぜなら絶対基準がもしずれていたら、最終的にリスナーにお届けするデータは「あるべきバランス」からズレたものになってしまうからです。相対的なバランスが良ければ(マスタリングで補正できるので)問題にならないミックスとはここが違います。マスタリングは最終工程なので、音源として良いバランスになっていなければならないです。

今回はマスタリングを通して各ヘッドフォンの良いところと悪いところがオーディオとは別の視点でわかりましたのでここにまとめておきたいと思います。

Final D8000

「Final D8000」の画像検索結果

http://snext-final.com/products/detail/D8000

低周波領域にピークまたは共振帯域が複数分布しています。なのでマスタリング作業でピーク除去のEQ作業=細かく被っている帯域除去をする作業にはあまり適さないヘッドフォンです。この特性はアンプを良くしても改善しませんでした。

具体的には200-400Hz帯域に2つくらい共振?があって、その上にそれらの高調波と思われるいくつかの癖のある帯域があります。

このヘッドフォンで作業していると上記帯域をどうしても削りたくなりますが、気になるところをすべて削った音源をモニターSP、スペクトルアナライザーでチェックすると中低域が痩せ過ぎた結果となります。なのでこのヘッドフォンでこの帯域は触れません。作業をしていて別の曲を触っても同じような帯域ばかり気になるときはシステムに問題がある可能性が高いです。今回もそういう感じでした。

逆にD8000が良いのは超低域の量感バランスのチェック、ダイナミクスのチェックです。このヘッドフォンは低域がちゃんと出ています。普通のヘッドフォンのような響くだけの低音じゃなく低周波をユニットが駆動しているからです。なのでヘッドフォンにありがちな低音バランスを取りにくいという問題は緩和されています。小型モニターではなかなか見にくいところまで手が届く感じです。低音が強い割に高音のうるささもちゃんとうるさく聞き取れるヘッドフォンなので全体のバランス調整ならEQ作業もOKだと思います。

またアンプ次第なのですがアンプさえ良ければコンプレッサーによる音の速度変化は見えやすいのでEQよりコンプの調整に向くヘッドフォンだと思いました。余韻や中高域のディテールの描写力はFocalのUtopiaには負けます。

Focal Utopia

Utopia high-fidelity headphones

https://www.focal.com/jp/headphones/utopia/utopia

UtopiaもD8000と別の帯域ですがやはり共振帯域がありますのでEQでの被り帯域の除去には向かないヘッドフォンです。

Utopiaの場合は1k-6kくらいの広い帯域に細かく癖のある帯域が分散しているような印象です。具体的にどの帯域とは言いにくいのですが聴き比べると中高域に明らかなピーク感があってそこの帯域はあまり触れない印象です。これもアンプを良くしても改善しません。そのためこのヘッドフォンでもEQで細かく被っている帯域除去をする作業は向かないと感じました。

ダイナミクス系の処理はやりやすいです。D8000に対して特に優位性があるのが減衰の描写力が非常に高いことです。なのでダイナミクス系のなかでも微細領域の変化、スレッショルドの深いところでの変化がD8000よりチェックしやすいです。この特性は例えばミックスでリバーブのかかり具合、減衰の重なり具合等を調整するときに向く性能です。

高域のディテール描写力もD8000より高いので、例えばプラグインの種類ごとによる質、触ったときの質感の変化、音色の微調整、これらの作業にも向くヘッドフォンと思います。低音はD8000のほうが輪郭がはっきり明瞭な音です。

Audeze LCD-2

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https://www.audeze.com/products/lcd-collection/lcd2

古いモデルでこの中では最も価格は低いですが、意外と健闘していたのがこれです。実はEQでの細かい作業はこれが一番です。特に共振帯域がこの中では最も目立たないので帯域除去作業はこのヘッドフォンが一番良いです。どの帯域も癖が少なく音源の課題が見えやすいですし、除去したときの変化も見えやすいです。

EQ処理でひとつだけ問題があるのが2k以上の中高音が「うるさく聞こえないこと」です。これの何が問題になるかというと、モニターSPや他のヘッドホンで聞いたときに高域の上げすぎ、うるさいと感じられるバランスにまで突入しがちなことです。なので高域のバランスが出すぎていないか他のヘッドフォン、モニターSPでのチェック必須です。

もう一つ問題はダイナミクス性能に限界があることです。低域のスピードがとても遅いので中域くらいまでの微細な描写がユニットの駆動にマスクされやすいです。アンプでかなりの改善が可能ですが、基本性能の問題ですので上記二機種のようなハイエンドヘッドフォンに比べるとそのような微細領域の減衰ディテール、一定以上の速度のダイナミクス変化を見るのは苦手です。

うちのモニターSPもこの変化に若干弱いところがあるので、LCD-2と合わせて長いことダイナミクス調整を苦手としていましたが、このようなリスニング環境の制約が弱点を作っていた側面は否めません。

結論

ということで各種特徴があって複数使い分けることが効果的というとてもお金のかかる結論です。ハイエンドクラスのヘッドフォンを一つ持っていてもそれで完全になるわけではなく、弱点を補い合うような組み合わせにしなければならないということです。ハイエンドクラスでも思っていたよりも性能に限界があるというのが事実でした。

また注意したのはヘッドフォンだと木を見て森を見ない調整になりやすいということです。これはマスタリングよりミックスでより深刻だと思っています。特定の音を聴くくせがついてしまうと作業中でも客観的なバランスで音楽を見にくくなります。個人的にはこれは作業時間が長くなるほど顕著だと思っています。そうなると変なバランスになっていても気づかないです。こうなるとある部分が良くてもある部分がアンバランスということになりやすく、最終的に俯瞰的なバランスをモニターSPでチェックすることはとても大事だと思っています。

しかし上記のような3機種を使いわけるとモニターSPの出番はかなり減らすことが出来ると感じました。今まではヘッドフォン作業はLCD2だったので、ヘッドフォンで聞いてモニターで聞いて、またヘッドホンで聞いて、というやり直しがとても多かったのですが、今回は3機種で音を詰めてからモニターSPで聞いても違和感が殆どなかったからです。

一般的にはヘッドフォンでのミックス、マスタリングは駄目だとよく言われますが、このような高性能な機種を複数使い分けて最適化することで高性能モニターを用意しなくてもある程度のバランスに持っていけそうな手応えは感じました。とはいえ上記機種を揃えると相当高額なモニターSPが買えますので音出しできる環境があるなら実はあまり参考になる内容ではないと思います…。

まぁモニターSPはモニターSPで完璧な音を出すのは簡単ではないので、モニターSPメインの人でもある程度以上のヘッドフォン環境を補助用に持っていても良いのかなと思ったりもしています。