電波ソングの真面目な考察 さしみちゃんもあるよ

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今日は先日アップされた216さんの大変素晴らしい動画の裏で鳴っている曲ですが、この曲は一応電波ソングっていうジャンルになると思うのですが、今日はじゃあ電波の定義ってなんでしょう?ってところから書きたいと思います。

よくある電波ソングって?

昔このあたりについて電波ソング大好きな人と深く語り合ったことがあるのですが、まずはなんとなく一般的な電波ソングのイメージや特徴でいうとこんな感じで考えられているのではないかと思います。

  • 電子音中心、テンポ早め、明るめの曲
  • 掛け声や連打のセリフがある
  • ボーカルの声が高い、またはそれ以外の特徴的な声
  • ちょっと際どかったり、変わった題材の歌詞

とりあえずこの辺満たしていたらよくある電波ソングかなぁという風に感じるのではないかと思います。でも実は電波ソングはこのような要素だけではたりなくて自分的にはこれだけの要素だと電波って言うには弱いんじゃないかと思っています。なぜそうなのか?それを詳しく書いていきます。

ニコニコ大百科での記述

http://dic.nicovideo.jp/a/電波ソング

調べてみたらこの辺に気合の入った記事があってよくまとめられていたので、せっかくなのでリンクを貼ってこちらより一部引用します。上のページで電波ソングの特徴として書かれている内容です。

  1. 「萌え」要素が含まれ、萌えることを念頭においた「萌えソング」。
  2. リスナーに「中毒」「依存症」を引き起こすほど極めて印象的な楽曲。

上にかいた4項目に該当する曲も1に近い特徴を持っている曲が多いですね。大百科からせっかく引用したのですが個人的にはこの1のみの曲はもう今では電波と呼ぶには弱すぎると思っていて、2の要素が何らかの形で強く絡んでいることは必須条件ではないかと思うところです。とくに電波っていう名称が出始めた初期の頃みたいに1だけの楽曲すらレアだった時代と違って、今はそういう楽曲はいくらでもありふれています。現代では1だけじゃあ既に普通の曲レベルで、他に際立った何かがなければ全くインパクトもなければ記憶に残る曲にもならないです。

あくまで電波の初期時代は1の要素だけでもレア度の高さから2を感じた人がいたというのが1のみの楽曲で電波と呼ばれてしまった真相ではないかと考えます。

むしろ電波の本質に近いのは2のほうです。これはあらゆる広義の意味で考えれば印象的であればなんでも良いのでかなり幅の広い表現まで含まれます。ここが実は電波の深いところだと思うのです。そういう視線で記事の上にかいた4つの条件をみるとどれも聞き手に強く印象づけるための手段の一部でしかないとみなせます。なので実際にはこれだけじゃなくて次のような要素も必要になると思います。

  1. 繰り返しや反復は印象に残るためには非常に重要
  2. 覚えやすいオーソドックスなメロディ+それに反したイカれた編曲
  3. さらに普通ではない異様に突出した要素(歌詞、声、構成、サウンド)
  4. 従来に存在しない発想

このような手法を沢山使っていればいるほど、そして今までに誰も聞いたことがないようなものを突き抜けた表現や突飛な方法で実現すると、印象に残る可能性が高まるのではないかということです。こう考えると電波ソングとは常に飽きられないようにしなければならない、従来になかったような発想や進化が常に求められるハイエンドなジャンルだと思うのです。

そして残念ながらこの定義ではありふれてきて飽きられたらそれはもう電波ではないということです。一番上に書いたような量産型電波ソングっていうのは今では既に電波ソングというには弱くて、もうそれは電波ではなくて普通の萌系ソングじゃないでしょうか。

一番古い?電波ソング

上のニコニコ大百科では電波ソングの歴史でYMOの君に、胸キュン。が上げられていますが、個人的にはこれより古くて現代の電波ソングの文法にもうちょっと近い曲はこっちだと思っています。

OPは普通の曲です。電波該当はEDです。ひみつのアッコちゃんの「 すきすきソング」。これは1969年なので相当古いです。といっても自分が知っている範囲では、って話なので実はもっと古くてすごい曲は有るんじゃないかと思いますが。

それで、この曲の特徴で電波ソング的だなーと思うのはつぎの点です。これはフルバージョンで聞くとより顕著です。

  • 同じようなフレーズと歌詞の反復が多い
  • 掛け声、合いの手がある
  • 声、歌い方が印象的、歌詞もちょっと意味不明でヘン
  • 裏で鳴っているオルガンのプレイが曲の割に異様に激しすぎる

君に、胸キュン。はこれ系のアイドルソングみたいなのをあえて男性の有名ミュージシャンがやってるのがインパクトとしては凄いわけですが、もし女性アイドルが歌ってたらとなるといきなり平凡になるので電波ソングの特徴としてはとにかく一点突破型って思います。当時でYMOがこれをやったのが凄かったのでしょうけど今似たようなことをやってもそこまで電波度高くないでしょう。これももちろん電波曲として認められると思いますけど、電波曲のよくあるテンプレ特徴はすきすきソングのほうが多いと思います。

では現代にふさわしい電波ソングとは?

もちろん他にも色々ありますが、今回楽曲制作で参考にしたのは主にこの二曲なので、たまたまこれを抜粋していると思ってください。

あんずのうた

  • 歌詞の題材の面白さ、言葉遊び
  • 古典的なゲーム音楽を題材にしたと思われる効果音と曲。しかも展開のなかで突然切り替わって変化していく
  • 平易なメロディを基本に覚えさせる部分を作りながら、伴奏の繰り返しは少ない
  • 不安定な音程を積極的に取り入れ、タイミングや間の取り方でも意表をついてくる。明るいのに変な雰囲気が常にある
  • 全体的に理不尽すぎる構成と展開だが、きちんと秩序を保っていて同じ曲として成立している

今まで聞いたことがないような感じの部分もあってこの曲を初めて聞いた時はすごいなって素直に思いました。展開の意表の付き方、理不尽さの演出が光っていると思いますね。しかもただ理不尽に作っているんじゃなくて、覚えやすい部分を維持した上でちゃんとした展開として設計されているので、音楽的にきちんと基礎がある人が作っています。正直電波ソングの流行初期では明らかに稚拙なだけの楽曲(あえて上げません)も有名になったりしていましたが、現代ではそのようなものはまず見かけなくなりましたね。ということでこのジャンルは作りても聞き手も大分成熟してきていると感じるところです。

ではあんずのうたは何故このようなジャンルと展開なのか?おそらく明るい引きこもりが題材のようですし、普段ゲームばっかりやっている彼女が社会に対して感じている理不尽さを表現した楽曲なのかなとか深読みしてしまいました。制作側はこのようなことまでかんがえていないかもしれないですが、こういう解釈も成立する時点でよく出来ていると思うのです。

正直音楽面でこの曲はいろいろな細かい技術で成り立っているので一言で簡単に解説は不可能ですが、トータルではしばらく陳腐化しない完成度があるように思いました。似たような完成度の電波楽曲はありますけどそれほど多くない印象ですし、このレベルが普通になって飽きられる時代が来るまでのしばらくの間は現代電波ソングの筆頭格かもしれません。

音楽としての印象に残る度合いは下記のARMさんの曲のほうが個人的に上なのですが、細かい技巧的な部分はこちらのほうが手が込んでいるし手間もかかっている印象です。特にジャンルが切り替わるところの音の加工や細かい効果音の切り貼り、音色の切り替えなんかはイメージに合う音を探したり制作に時間もかかりますしバランス取るのに緻密な調整が必要な時もあります。

めうめうぺったんたん!!

  • 楽曲のフレーズと歌詞が印象的 とにかくこれ
  • いくつか他音楽ジャンルからの引用がある、展開もあんずのうたほどではないが突然の変化があって理不尽、不安定な音も効果的
  • 当たり前のように連打のセリフと掛け声、印象的な繰り返し、そしてちょっときわどいところも テンプレ電波
  • その他は従来の電波の技法の範疇

イオシスのARMさんです。さすがです。何回か聞いてめっちゃ印象に残りました。ARMさんのメロはすごい印象に残る曲が多くてこの点では天才的だなって思っています。電波としては「この印象的であること」が一番重要ですのでまず曲で印象的というのは非常に強いです。あんずのうたのほうが技巧的には手が掛かっている曲だしよく出来ていると思うのですが、個人的にこちらのほうが印象的だったので楽曲の基本的な威力の重要さを感じますね。

別エピソードですが例の魔理沙がヒットする前に同曲を初めて聞いた時もすぐに良い曲だなって思いました。東方もメロが良いですけど魔理沙で良かったサビメロの部分が原曲聞いて実はオリジナルとわかったときは驚きました。そしてなによりも歌詞じゃなくて音楽で笑わされたことがあるのはARMさんとあともう一人しかいません。こういう点でも天性の何かを感じるところです。普通は電波は頑張って作るジャンルですがARMさんはやりたいようにやっていたら何故か電波になるようなポテンシャルを感じています。

以上から、現代電波の特徴は

  1. 多様な音楽性、他音楽ジャンルからの引用、歌詞の展開に合わせた意味のある音楽の突然の変化がある(表現の誇張と最大化)
  2. 1.のような高度な伴奏と相反して、繰り返しの平易なメロディがあり覚えやすいこと(繰り返しによる刷り込み)
  3. 1.2.のような高度な基礎音楽力と計算された構成によって、強いインパクトが有ってなおかつ印象的に(すべては印象的な楽曲のために)
  4. かわった題材、連呼、きわどい歌詞、掛け声等、従来の電波技法は当たり前のように使う(技法の高度化)

文章で項目だけ書くとわかりにくいですが、このへんの項目から更に先は、作家としてどのジャンルが出来てどういう表現や発想を持っているのかという、個性を生かし切って競争の激しい音楽市場の中で、自身の強い部分を最大化して突出していくことが絶対に求められるジャンルです。そう考えると総合力も構成力も発想も多様さも求められる。現代電波はまさに理不尽なハイエンドジャンルと言えそうです。

あと自分が作り手だったので歌い手じゃなくて作り手よりな視点ですけど、もちろん歌い手さんの個性を活かすこと、作家との相性なども表現力を最大化するためには重要になってくる部分なのは言うまでもないことです。

わかさぎ印のさしみちゃんでは現代電波を再現したつもり…

もう一度PV貼り付けました。上記の電波の説明を見ながら(ZUNさんの東方アレンジですが)私の曲を聞いてみてください。

これ2014年に作成した曲です。当時既に陳腐化したダメ電波しか作れなかった自分自身を最新の電波曲に追いつくために色々現代電波やEDMを研究して作成した曲です。どうしても時代遅れの歴史のまま終わりたくなかったので既に音楽ほとんどやめていたにもかかわらず凄い時間かけて最大限頑張って作りました。リズムが鈍くさいところもありますけど当時として出来ることを全部やりました。追いついてるかは不明ですが、特徴を解析して必要な要素を取り入れたので、昔に作っていたものよりはずっと現代電波に近いはずです。

  • 複合ジャンル楽曲、歌詞に合わせた意図的な突然のジャンル変化があるが、1曲の歌として成立する
  • 反復歌詞フレーズがある。「わかさぎさぎさぎ」とか
  • 題材がちょっと変わっていて、少しだけきわどい歌詞がある
  • 効果音とかを多用し、ピコピコやベースで不安定かつ理不尽な音程を積極的に使っていく
  • 歌い手さんに「表現を最大化」するようにお願いした 大げさな抑揚とか

複合ジャンルはやっぱり自分の中で表現力の高いジャンルを選ばざるをえないのでオケ系が必然的に入りました。オケはほかのほとんどの電波系作家の人は得意としていない筈なので、ここは少しだけ個性を出せるところかなって思います。あとはもともと不協和音系の音を入れるのは好きな方なので理不尽な音は入れようと思えばそんなに苦労しないでドンドン入りました。あとはキャラクターに視点をおいて状況が変化していくのはInnocent Keyらしい展開かなって思うところです。

一番大変だったのはリズムとか最新音色の強化です。EDMをコピーしたり分析していたのもこっち系の補強がメインです。ダブステ系の音もかめりあさんの曲でいいなと思ったので取り入れたいって思ったのもありますけど。とにかくyohineの楽曲はリズムが鈍くさいのであまりノリが良くなくてこの点では常に電波曲としては弱かったと思っています。リズミカルな連呼や繰り返しフレージングって聞いていて心地よさ次第でスッて入ってくるような印象に影響があるので、その点でリズムが死んでいるとすごい不利だと思っています。今回はリズムにはかなり気を配ってハイセンスは無理でもせめて殺さないように気をつけました。それでももともとセンスが悪いのでイマイチなところもありますが。

あとはメロセンスのなさですかねえ。電波系としてはメロが印象に残りにくいです。ほとんど原曲引用しているだけなのでオリジナルで印象的なところを作ればいいのでしょうが、こういう部分は全然得意じゃないです。せめて思い通りにメロディを作る能力があればよかったのですけど音感が絶望的なので諦めています。心残りはありますけどもうこの手の曲を作ることはないでしょうね…。さしみちゃんが絶望的に古くなる頃思い出したようにまた作るかもしれませんが。

次回の2016春のM3でミックスパラデータ集を配布するのでその時にこの曲のパラデータとかMidiデータを収録します。紹介した他の先駆者の内部データは手にはいりませんけど、私は引退者ですから楽曲の内部データは全部公開しちゃいます!ちょっとだけレベル低いですが現代電波ソングの中身を研究してみたいっていう方は是非

ほかに優れた現代電波ソング

曲単位だととても多すぎて書ききれませんので、リスペクトしているのに動画で紹介できなかったかめりあさんについて書きたいと思います。個人的には最近の電波で登場した作家では最高峰じゃないかと思ってます。そして一番オススメはやっぱこれですね。

ばーさす!

もちろんうちでゲストやってくれた曲もいい曲ばっかりなのでオススメしておきますね。かめりあさんが参加しているのは次の作品です。

イノキー ザ ベストイノキー ザ ベスト2イノセントキーVS虎東方警察

かめりあさんが優れている点について書きます。

  • 作詞を本人がやっている。しかも発想が面白い。他に作詞が強い電波作家としてはMosaicの柏森さんくらい
  • 最先端のサウンド。EDM系を基礎にした圧倒的なリズムセンスと先進的な電波の融合。テクノ、トランス系音色はもう死んだと言わんばかり。
  • 現代電波をやるための他ジャンルの素養がある(EDM、ジャズ、ラウンジ、洋楽メタル?等)、現代電波に必要な不安定な音程を使いこなせる
  • 若くて才能のある作家が陥りがちなわかりにくい自己満足曲の連発ではなく、わかりやすいメロを書ける(他人に合わせられる謙虚さが必要です)
  • 誰もやっていないような曲も作っているし、新しいチャレンジを欠かさない
  • 作りこみが凄い。妥協しない、手抜きしない

べた褒めですが弱い部分もあって、多分もともとこういうわかりやすい曲を全然追いかけてきていない人だと思うので、持ち前のメロディや構成のマニアックさ難解さがたまに顔を覗かせる部分ですね。特に最近は印象的でわかりやすい曲ってところからたまに遠い時があります。あとは音が整理&選別できてない=良いオーディオ環境じゃないと何が鳴っているのかわからない時があるとかでしょうか。でもまだ若いし才能もあるしこれからまだまだ伸びるんじゃないかと個人的に思ってます。

かめりあさんはゲストでお願いしたことがありますが、ARMさんと違って個人的に面識は殆ど無いので好き勝手書いていて申し訳ないです。まぁ音屋さんとうまくいかないのは慣れているのでいいですけど…鬱