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Chord DAVEと他のDAC試聴してきました


2016年9月 購入後のレビューあっぷしました

久しぶりにオーディオ試聴をしてきました。御茶ノ水オーディオユニオンでChord DAVEの展示があったので、厳密比較のため自分のヘッドフォン+音源を持参できいてきました。ショップさまには高額機器を快く試聴をさせていただき感謝いたします。

結論から言えばDAVEは予想よりすごかったです。価格はとても高いのですがさすがにHugoとは次元が違いました。Hugoでは前回の厳密試聴の結果、自作AK4495S-DACのほうが概ね良かったわけですが、多分ですけどDAVEと比較したら情報量とか解像度については自作DACのほうが不利そうでした。いままでこの部分について集中的に取り組んできたのですが今回はやられている感じがします。

そして単なる解像度以上に、いくつか印象的だったことがあったので、それについて詳しく書きたいとおもいます。DAVEについてはまだまだネットの情報では突っ込んだ試聴レビューが少ないですので、少しでも参考になればと思うところです。とはいえ一個人の感想でしかないですから、いつもどおり内容の信憑性については話半分にてお願いします。

DAVE独自の音質の特徴

  • 空間の奥行き、分離の良さは過去最高の領域。自作機でも追求してきた方向性なのだが、さらに上を行っているように感じた。
  • 個性的な音がする。Hugoの時と同じ見えてはいけないものが見えている感じがある。Hugoのときは高音にしか感じなかった癖が、DAVEでは高音だけではなくて全帯域にわたってある。Hugoの音の印象から推測すると、DAVEでも設計で取りきれない癖(スイッチング電源によるもの?)が残っていてそれが常時明瞭に見えすぎている。解像度は少し落ちるが自作AK4495S-DACではこのような粗は見えない。
  • 古い録音のノイズの聞こえ方が異次元。質の悪いDACでは背景に溶け込み、質の良いDACでは背景にノイズが見える感じだったものが、DAVEでは空中にノイズを散りばめたような見え方をする。録音ノイズをこのように感じたことはかつてない=音質がかつてない到達領域にある可能性が高い。
  • 音同士の分離と距離感について。いままでは一音一音が地に足がついていて地面から上に生えているイメージだったのに対して、DAVEではそれぞれが完全に宙に浮き、空中で舞っているようだった。これはノイズの印象と似ていて、おそらくS/Nが極めてよくノイズフロアから完全に音が浮かび上がっており、今まで地下にあった舞台裏が見えてしまっている状態ではないか。
  • 古い録音が異様に鮮明なのは自作機と同じだが、DAVEでは新しい録音のように蘇るわけではなくて別の何か聞いたことのない音。決して生っぽい音じゃなくて欠落したものを欠落したまま綺麗に磨き上げた人工加工物のよう。おそらく録音で削ぎ落とされている情報も欠落した状態のまま異様に鮮明に見えている。凄いと思ったが違和感もあった。

以上です。普段は気になる低音の伸びとか出方については解像度の方に耳を取られてちゃんとチェックできませんでした。もうちょっといろいろな音源を聞きたかったのですが、お店にあった音源がこちらの手持ちと趣向が違うのであまり詳細には確認ができませんでした。

DAVEの解像度は確かに素晴らしかったですが、残念なのは16bitのCD音源では自作機から良くなった領域にはもう有効な情報は何も記録されてなさそうということです。上記の「空中に浮かぶ音」というのはおそらくですが、16bitのノイズフロア以下に録音されている情報が何も存在しなかったために浮いて感じるのではないかと思っています。

これが24bit以上のハイレゾ音源ならDAVEのノイズフロア付近まで情報が記録されていますから、より音源やDACの違いもはっきりするかもしれません。このレベルの機材を持ってきてようやくハイレゾの意義があるということでしょうか。ということで160万円という価格はあまり現実的ではありませんが、DAVEはかなり突出したDACには間違いなさそうです。

DAVEについては以上です。

他のDACの試聴

場所を移動して現実的な価格帯のDACも聞いてきました。DAVEだけですと評価軸が異次元すぎるので、普通の市販DACを聞いてどう感じたかも参考として書いておきたいと思います。場所はダイナ5555の1Fですが、ここではおもに大体15万以内のDAC/HPAを聞いてきました。試聴条件はヘッドフォン直結ですのでDAVEと共通条件です。このような評価ですとDACのみではなくHPAとしての評価も含まれてしまうのですが、条件は全て同じですので参考なる部分もあるかと思います。

それでは感じたことを機種ごとに書いてみたいと思います。

Luxman DA-250

中域がまさに塊。低音に量感がありますが底の方までは伸びません。ちょうどダンピングファクターが低いか小さいトランスのパワーアンプと同じ傾向です。高音は色付け系で、色付けの品は良いもののその分全体的に分離が悪くにごっています。この音質は例えるなら不透明でコクのある牛乳サウンドというイメージでしょうか。ただメーカーの主張はわかりやすいので、好みがハッキリ出る傾向と思います。

Oppo HA-1

どこかの帯域に塊があるような見通しの悪い印象はこのなかでは最も抑えられていますが、そのかわり高音がやけに目立っていて言い方は悪いですがキツ目の高音に聞こえます。ハイが強めですから、分かりやすい解像感はあるのですが、これは真の解像度ではありません。ハイの強調は本物の解像度とは別ものだからです。しかしこういう音を好む人がいるのも事実で、時にわかりやすい強調は必要とされます。

マランツ HD-DAC1

このなかでは最も主張の薄い音で、目立った特徴や特筆するべき音質傾向を感じませんでした。同時比較のとき主張が薄いとか音が遠いと感じる場合には総合的なクオリティが劣っている場合が多く、他2機種と比べてHD-DAC1はクラスが1段落ちる可能性が高いです。特徴をあえて挙げるとしたら低音が若干塊気味で高音も相変わらずオーディオ的なキラキラ系ですが、よくある音でもあります。

この3機種を聞いて感じたこと

共通しているのはまずどこかしら癖のある高音、途中で切れる伸びない低音、そして塊気味の帯域があることです。低音が切れる最大の理由は電源の物量です。次に、塊のある帯域は電源インピーダンスの特性に偏りがあることを示しているように思います。限られたレギュレータの性能やコンデンサ等によるPSRR曲線のうねりがこのような癖を出しやすいです。高音の音質については音声信号または電源に残留ノイズが多いことが理由と考えられます。

あくまで経験からの想像でしかありませんが、このような問題によって同じような音質傾向になることはありえるという話です。このうち低音の伸びについては物量を投入するだけで解決可能ですが、他の部分は基本的な設計段階で決まります。

ということで個人的には残念ながらどれも良い製品だとは思えませんでした。価格帯は少し上がりますがHugoのほうがこれらの据え置きDACと比較したら圧倒的に音質は良いと感じます。Mojoは未視聴ですがHugoと比べて若干劣る程度で大差がないとしたら、もうこの価格帯の据え置きDACはすべてMojo以下の音質かもしれません。

念のための注意点として、ここで言う音質とは分離の良さのことを指しています。とにかく音を細部まで明瞭に描写して欲しいとか、一音一音を解析的に聞く場合の評価です。もしあなたが全体の雰囲気で音楽を聞いている場合、特定の楽器や音色を追求される聞き方をする場合には全く参考にならない評価軸と思います。

自分自身の評価軸の話と少し関係する話なのですが、この価格帯の据え置きがあまりにも悪かった理由について思ったことがありましたので後でまとめて書きます。多分ですが自分はこの価格帯の製品ターゲットには最初から入っていないです。

次にもう少し価格帯が上の製品を聞いてみました。

ラックスP1-u+デノンDCD-SX1

P-1u_front

見た目の物量の割に低音が意外と伸びず量感重視です。この部分ではDA-250と比べて著しく向上している感じはありませんでした。高音はあいかわらずの脚色系ですが、上記3機種のような何処かの帯域が塊になっていて見通しが悪くなっているというようなことはありませんでした。ただしDACがセパレートかつ高額品ですのでDACの性能差がそのまま塊のなさ、分離の良さの理由になっている可能性も高いです。低価格帯の製品よりは明らかな向上を感じました。

フォステクスHP-V8+デノンDCD-SX11

DACはP1-uの試聴時より格が下がっているもののトータルではずっとハイレベルでこの日ではDAVEの次に良い音でした。これは完全にアンプの実力なのでしょう。真空管なので厚みがあってやわらかい音がします。でも分離が悪いとは感じませんでした。これはいいです。低音はこの日の試聴で多分一番余裕があったし、高音も嫌な音がしません。分離もDAVEとは比較はできませんがまずまずです。

ぜんぶ聞いて思ったこと

上位の価格帯ではさすがに価格なりの向上を感じたところです。しかし真空管HPAを除いて性能向上は限定的のように思いました。真空管のHPAだけは確かに良かったですが、HPAだけで88万円という価格は低収入層にはかなり厳しい価格です。

上にも書きましたが、15万程度の価格帯の製品に問題がある理由はパターン設計含めた電源の設計に問題があるからではないかと思っています。事実、大手製品の内部写真を見ると電源に平凡な性能のICレギュレータを使っているものがいまだにあります。だから同じような傾向の音質にとどまるのも仕方のない部分なのでしょう。現代の技術ではアンプ部分では大した差はでませんので、見逃されがちな電源の部分のノイズ性能の低さがDACの音質そのものを制約している要因になります。しかしここに良い部品や物量を投入することは即コストアップになりますので高価格帯の製品以外ではなかなか採用できないか、ひどい場合にはハイエンドに近い高級機でも採用されていません。

逆の実例を上げるとしたら、小規模メーカであるAIT DACが非常に高評価なのは公開画像と評判からの推測ではパターン含めたレギュレータ設計がよく出来ているからだと思っています。MSBのPlatinum DACも間近で基板をみたことがありますがレギュレータ設計には相当の気を使っていました。ほかにはResonessence Labs、CH presicionのDACも同様です。当然ながら自作機でもこの部分には最大限の工夫と努力を払っています。ということで一線を越えるには電源設計の工夫が重要というのはこれらの実例が良い例ではないかと思います。搭載DACチップがES9018云々が全く音質と関係ないのはOppo HA1の試聴からも明らかですね。

このように大手製品が平凡な設計にとどまっている中で、セオリーに反してChord社の製品が超小型かつ低価格であのような音質を実現できている理由は、FPGA内部で多大なデジタル処理を行うことで出力回路を極端に簡素化し、電源への性能要求自体を設計上の工夫で無くしているからだと思っています。だから小型化してもあのような音質を出すことが可能で、まさにFPGAの大規模化と集積化によるチップのコストダウンがもたらした現代ならではの新しい発想のDACといえそうです。

HugoやMojoのような野心的な製品が出てしかもヒットしてしまった以上、これからはこの価格帯の据え置き製品ももっと競争力をつけていかないと将来はないのではないかと思いました。ユーザの嗜好はいつまでも同じではなく、時代とともに変化&進化している可能性があります。

Hugoを従来のDAC-ICを使って上回るためには(あくまで個人的な実験では)必要十分な物量投入+徹底的なノイズ対策設計が必要です。しかしそれは簡単ではないものの個人レベルの研究で十分達成が可能であり、決して不可能ではないように思います。大手なら当方と同じまたはそれ以上の設備や人員もあって、さらに低価格で実現できる企業としての体力も実力もあるはずですので、今後は宣伝用のわかりやすい訴求箇所への物量投入ではなく真のクオリティのための物量を投入していただいて、将来の大きな進化に期待をしたいと思っています。

市場ニーズの変化とヘッドフォンの進化

オーディオの市場ニーズについては詳しくはないので、ここから先はもしかしたら?の勝手な想定話として読んでください。

以前であればChord Hugoのような音質が評価される土壌は20万クラスという「低価格帯」の製品では存在しなかったのかもしれません。一般的に20万クラスは決して低価格ではないと思われるでしょうが、ここでいう低価格というのは業務用やハイエンドオーディオから見た視点の話です。

真の高音質という特殊ニーズがあったのはそれを低価格と感じる層、おそらくピュアのハイエンド、またはマスタリングスタジオ向けのようなプロ用位でしょう。このような音質を必要とするのは音楽制作の現場や、一線を越えた経験豊富かつ設備の整っているピュアオーディオファンのうちのさらに一部だけなのではないかという想定です。

Hugoのような真の高音質=高精細な音質は良さを把握できるまでにある程度の耳の訓練を必要としますので、まず一般的な評価軸では理解されにくいと思われます。ちょっと聞いてすぐにわかるような、大衆受けをするわかりやすい音ではないことは、ネットのレビューで今でもHugoより上記のような大衆モデルを好む層が一定数いるということからもわかります。

そういう一般層のニーズを良く理解しているからこそ、大手からそのような製品が出なかったのではないかと思いました。そのような部分にコストを掛けても「売れない、評価されない」という理由からです。商売を再優先にするなら顧客ニーズに完全に迎合することは全く正しいでしょう。おそらく価格帯ごとにユーザー層を明確に想定した上で音作りをやっているのではないかと思います。例えばローエンドスピーカと数千円のアンプでセッティングも何もやっていない環境を用意して、ハイエンドDACを持ち込んでもほとんど違いはわからないことでしょう。そういう環境ではむしろわかりやすい脚色された大げさな音のほうがハッキリとした違いを感じることができ評価も高くなりやすいというのはありえなくもない話です。低価格帯の製品の音質がハイエンドとは異なる傾向にあるのはこのような客層の違いが理由かもしれません。

もちろん自分自身も若いころはそれこそ酷い環境で音を聞いていたものです。しかしそのような環境ではいつまでも価値観や耳も変化しませんでした。自分で良い環境へアップグレードしてさらに時間がたってから、ようやく振り返った時に問題や違いに気づくことが出来るものでした。

しかしここにきてそのような状況は変わってきているように思いました。その根拠はHugoやMojoの音質が低価格帯でありながらも多くの人に評価されたという実績です。これは状況の変化の兆しを示しているように思います。ではなぜ今そのような変化が突然訪れたのでしょうか?

その理由として考えられるのがヘッドフォン市場の進化です。

現在はヘッドフォンの性能が以前よりかなり向上し、高級ヘッドフォンを購入するだけでかつては専用の部屋とハイエンドクラスのスピーカ、アンプなどを用意しなければ体験できなかったような音が、高級ヘッドフォンを購入するだけでそのようなハイエンドの背中が見えるような、雰囲気の片鱗を感じられるレベルにまでヘッドフォンの音質が良くなってきていると思います。

それはスピーカで実現するよりもずっと低価格で、です。

もしそのような最高の設備を持っていてその音を長く聞いていたら耳はその音を基準に判断するようになり価値観も変わっていきます。環境が人を育てるのと同じように、良いヘッドフォンを持っていて日頃から耳をその環境に晒していれば、次第に据え置きのハイエンドユーザーやプロ達と価値観に大差はなくなってくるかもしれません。

そのような背景があったからこそ従来の「低価格帯」であってもそれが高級ヘッドフォンのユーザーならば必然的に求める音質レベルも向上し、よりハイエンド志向の音質傾向について理解を示す、評価する、このような土壌が育ちつつあるということかもしれません。

HugoもMojoも外見から明らかにヘッドフォンをターゲットとしたモデルなので、同じような価格帯のスピーカの再生用に据え置きDACとして購入した層はあまりいなかったと思われます。これはある意味幸運なことでヘッドフォンユーザーのハイエンド志向の顧客層が出会ったHugoは、ハイエンドヘッドフォンユーザーの価値観が育ちつつあるところにタイミングよく、必要とされる音質を持つ製品として投入されたことによるヒット、という見方もできるように思いました。

とはいえ上記はあくまでそのような見方もできるのではないか?という一つの見方、考えでしかないですので、超個人的意見として捉えていただけますと幸いです。