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マラソン試聴会とヘッドフォン祭2016

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ちょっと前の話題ですが、まとめておきたいと思います。今年のマラソン試聴会の目当てはこれです。

「ネットワーク/USB DAC 6選 注目のDAC6種を比較!」

  • Chord DAVE
  • MSB Analog DAC
  • MERIDIAN 818
  • ESOTERIC D-02X
  • LINN KLIMAX DS
  • Sforzato DSP-02+PMC03

やっぱりDACの開発をやっているのでハイエンドDACに興味がある今日このごろです。ということでほとんどこの聴き比べを目当てに会場に行きました。

ですが最初に書いておきますが、この聴き比べは非常に期待はずれの内容でした。その最大の理由はプリアンプの性能不足にあります。一応プリアンプはJeffRowland Corusという330万円の製品らしいのですがDACの真の実力差が全く見えなかったので、このプリアンプの性能不足が理由でDACの能力差はほぼマスクされていたと考えています。

もちろんプリが駄目という根拠はちゃんとあります。このプリアンプの中身はルンダールのトランス+PGA2320です。なんと330万円のプリアンプの音量調整機構がただの電子ボリュームという内容です。
http://www.6moons.com/audioreviews/jeffrowland2/3.html

当サイトは今まで散々こういう普通の電子ボリュームはダメだと書いてきました。DAVEどころか、開発途中の遥かにレベルの低い昔の自作DACを使った場合でも電子ボリュームによる劣化は致命的で音が消えると結論づけました。なので今回のイベントのDAC聴き比べも残念ながら電子ボリュームの性能によってDACごとの真の違いはほぼ隠蔽され、音の傾向と音色=キャラクターの違いの聴き比べに圧縮されていて、到底DACの実力の比較にはなっていないのでした。

さらに聴き比べ方法自体も巧妙でDACごとの違いが明確になりにくくなるような工夫が凝らされています。この日は同一の課題曲を全部のDACで順次聴き比べを一応やるのですが、間に毎回ショップの方がオススメ曲を挟み込む上にDACの仕様や曲の説明もながながと入ります。なので短時間で同じ曲を聴き比べる方法と比べてかなり比較の難易度が高い聴き比べです。

では何故わざわざこのような聞かせ方になっているのかという理由ですが、おそらくショップ側の都合による計算された演出だと考えています。

たとえば今回のDAC聞き比べのラインナップは価格帯がきれいに揃えられています。もちろん業界的には価格が似ているなら音に絶対的な格差があってしまってはあまりよろしくありません。なのであくまでDACの違いはキャラクターによる好みの差であって、どの機材も良いですね~なので好きなの買ってくださいね、というスタンスが代理店にとってもショップにとっても望ましいと判断したのではないでしょうか。実際に聴き比べてそう感じるならそれが真実のように見えますからね。実はプリアンプが足を引っ張っているのですが。でもそういうことは本当に違いが分かるごく少数の人にだけ違いがわかれば良いという話でしょうか。わかりませんが。

当日スタッフからの発言にも「それぞれの違いが明確ですね…」的な発言がありまして、これも深読みすれば上記のような意味(同じ価格帯なので個性の差ですね的な意味)に取れないこともないです。ともあれ音のキャラクターの違いについてはわかりましたのでそれについて書きます。

1、MERIDIAN 818

一番最初はこれでした。ぱっと聞いてあまり良くないなとは思ったのですが、あとから思い出してもこの中では一番曇った音でした。明らかにプリを入れてもワンランク落ちるクオリティではないかと思います。なので特に印象に残っていません。デジタル再生面では機能が充実しているらしいので、音質よりもそういう機能面が売りだと思います。個人的には音質以外に興味が無いのでそのあたりのことは詳しくは覚えていません。

2、Chord DAVE

この日のリファレンスです。基本的にこのDACの音を基準にほかのDACを相対的に評価していきます。所持しているので聞き慣れた音なのですが、この日の音は普段の音と比べてかなり抜け切らない音です。メリディアンと比べるとそれでも大分モヤが晴れた音なのですが本当の実力はこんなものではない筈です。ということでこの時点でプリアンプのクオリティに疑問符が付きました。このDACの音の特徴については別記事にまとめていますので、あえてここで長くは書きません。

3、ESOTERIC D-02X

DAVEと比べると明らかに作られた特徴のある音です(悪い音ではありません)。高音は掠れたような色が付き、低音も量感があります。ぱっと聞いて豊かな音質という印象でした。いわゆる典型的な国産らしい定番の音作りと思います。それ以外の部分はこれに限らずこれ以降のDACもすべて同じなのですが、プリアンプでマスクされているのでDAVEとの分離の基礎性能の差は全くわかりませんでした。国産大手の典型的な傾向が好きな方はこれでしょうか。

4、MSB Analog DAC

DAVEと比べておとなしい音です。これはマルチビットだからというのもあるかと思います。DAVEもかなり高音がきれいなDACですがAnalogDACの高音は質自体が違うともいえます。もっとおとなしく刺激のない音です。この高音は良いですね。しかし低音は余り伸びない上に高音もおとなしいので、ぱっと聞いた音のレンジは狭く感じてしまいます。とにかく全体的におとなしい音に感じました。かなり上品なのですがその分物足りないと感じる人もいそうです。薄口で品の良い音というイメージです。通の音質です。

5、Sforzato DSP-02+PMC03

レンジも十分に広くアタックとリリースの非常に鋭い音です。それ以外はこれと言った特徴はなくソツのない音です。典型的な国産の音作りとは全然違っていて高音も低音も相当引き締まっています。DAVEと比べたときに音のスピードに明確な個性を感じました。解像度の差はプリのせいでわからないのですが、もしかしたらSforzatoの最大の音の特徴はこの立ち上がりと立ち下がりのスピードではないかと思いました。なぜならこの日のほかのDACではこのようなスピードに優れているという印象は一切感じなかったからです。DAVEも立ち上がり、立ち下がりは早いほうだと思うのですがDSP-02は更に早いかそう感じられるような音作りをしているかどちらかです。このあたりはもっと厳密な試聴をしないと全然わかりません。ですが基礎クオリティのかなりの高さを予感させる音でありました。

6、LINN KLIMAX DS

あまり期待していなかったのでここで退室しました。もちろん悪い製品ではないのですが現代では音のキャラクター重視でクオリティ重視ではないと思っています。

ヘッドフォン祭

マラソン試聴会と同じ日にヘッドフォン祭りもあったのですが、DAC聴き比べのために時間を使ったのでほとんど時間が取れず…。一応聞けたもので音が印象的だった製品についてだけ書いておきたいと思います。

ユウさんのAK4495-DAC

自作界隈ではある意味非常に印象的な作品です。特筆すべきは市販製品のようなプリント基板中心による設計ではなく、あえて片面自作基板と丁寧な手配線で仕上げています。この辺は実際の写真を見てもらったほうがわかりやすいと思います。

これはかなり手間がかかっていますね。

見た目は整然としているので、高性能で整理された音がしそうなイメージも受けるのですが、音質は予想と全然違っていてかなり濃い目で昔ながらのアナログテイストな感じです。真空管使ってますって言われたら納得してしまいそうなくらいでした。これは現代ハイエンドの方向性とは全く違います。

ご本人にお話を聞いた限りでは出力トランスの影響が大きいとのこと。ちょっと歪が多い感じもしましたが、それ以上に濃厚で分厚いサウンドに圧倒されました。今時こういう音を意図的に出しているメーカーはほとんどないか、あっても少ないと思うので、今あえて自作にこだわる意義と言うものを音を聞いて強く感じました。

このレビューはもし製作者さま的に問題があれば取り下げますのでその場合はコメントまたはツイッターなどでご連絡ください。

ゴールドムンド THA2

これはパワーがものすごいです。繊細でも解像度が高いわけでもないですがとにかくパワーパワーパワーです。それだけで圧倒的な説得力があります。当日は自前のヘッドフォン持参したのですが、全帯域で駆動力に満ちた音です。実際にどういう音かというと、低音が張り付いて異様な安定感があります。張り付くと言っても緊張感のあるサウンドじゃなくてリラックスしています。とても力に余裕があって軽々ユニットが動いている感じです。だから低音も高音もが正確なタイミングで強制的に動いている=何かに張り付いているように感じます。この状態になるとまず膨らんだり遅い帯域もなく、絶大なパワーで正確にヘッドフォンが強制駆動されている印象です。

これはちょうどスピーカで大型のパワーアンプを繋いだときの印象と同じです。中身は相当電流供給力に余裕があるのでしょう。いままでヘッドフォンアンプは色々聞いてきていますが、これは独自の価値がありそうです。多分設計は既にSP用のパワーアンプと同じレベルなのではないかと思います。4ΩのSPも余裕でなりそうです。最初からヘッドフォンアンプという発想で作るとなかなかこうはならないと思うのですが、実はとても大事なところだと思います。

自作品のヘッドフォンアウトはやっぱりおまけなのでこういう音は全く出ません。こういう音を安く出したいなら中古の大出力パワーアンプを買ってきてヘッドホンを繋ぐほうが手っ取り早いと思います。(ヘッドフォンの破損にはご注意を…)

Focal Elear

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残念ながら辿り着いたのが遅かったのでUtopiaもReLeafのE1Rも聞くことができませんでした。この日で一番期待していただけに非常に残念です。Elearだけ聞くことができたので印象を書いておきます。

このヘッドフォンは動作が軽いように思いました。レンジは広いのに細身で繊細な音です。対極的なのは現在使用しているAudezeでこちらは鈍くて重い印象です。ユニットが重いとアンプが駄目だと低音が全然でなくなったりするのですが、Elearはそういう印象がまったくなくて軽々と動いている印象です。Elearならそれほど高級なアンプを持ってこなくても音の立ち上がりと立ち下がりの時間軸で癖が出にくい印象です。アンプ食いじゃないのは良い機器を導入しなくても良いので、リスナーなら確実な利点でしょう。

ぱっと聞いたキャラクターはHD800とかの方向に近いのですが、Elearのほうがさらに低音が深く音が出ている可能性もあります。Elearの音質は基本的に動作が軽やかで繊細で細身な方向性なのに低音がかなり深いところまで出ているのが非常に印象的でした。もともと低音の強いAudezeと比べるとHD800は高音や繊細さで勝るかわりに低音が弱い印象がありましたが、Elearは低音に不足をそれほど感じなかったので多分時代は一つ前に進化したのだなと思いました。

このような低音の伸びと繊細さの要素を両立させるのは相当難しかった気がするのですがうまいこと仕上がっている印象です。非常に良い製品です。売れているのにも納得できてしまいます。

新たなオーディオ体験とシステムの音楽性について

(画像はお借りしたもので、実際のシステムとは異なります)

最近のオーディオオフで強烈な体験をしたので、ここからはその記録です。プライバシーの関係で個人を絶対に特定できないようにシステムや詳細については伏せますが、概要だけまとめておきたいと思います。

体験したシステムはかなり古い世代のもので、新しい世代の製品はひとつもありません。録音も同様に近い世代の古いクラシック録音音源が中心です。ただし機器は音楽と時代の相性を相当神経質に選別されています。もちろんここから出てくるのは現代的なハイエンドとは無縁のサウンドです。ですが理由は不明ながらかなりの説得力のある音が出ていました!

自分が今まで追いかけていたのは現代的なハイエンドの典型ともいえる高解像度、ハイスピード、ワイドレンジな方向性だったと思うのですが、このシステムの音を聞いて今までの概念とは全く異なる音と、そこから出てくる説得力は、概念を全く変更する新しい要素に間違いありません。まさに今までの概念に存在しない要素がこの体験によって追加されることになりました。

システムから出てくる音は明らかにレンジも狭く、解像度も低く、情報量はかなり少ないのですが、不思議なことにそれが想像力を掻き立てるのです。照明を消すと舞台はオーディオルームからクラシックのホールへと移ります。広大なホールが目の前に現れて演奏者が見えるようです。そして本来レンジも定位も狭いはずが、ホールの二階席で演奏者を眺めている錯覚に陥ります。そうなると今度は音のレンジも演奏のディテールも(実際にそうではないのですが)次第に明瞭になっていきます。最後は心のしびれるような疑似コンサート体験となるわけです。この体験には本当に感動しました。自宅に帰ってからしばらくクラシックが聞けなくなったほどです。

これはなぜこのようなことになっているのかというと、当日仮想現実が現れる理由について必死に考えていたのですが、おそらく理由は想像力を掻き立てるために必要な音以外を出さないことだと思いました。特に古い録音はアラも多く新しい機材で鳴らしたときにどうしてもノイズや歪など「音楽にとって不要な要素」が見えてしまうので、そういう要素が没入感を削ぐ要因となっているようです。レコードのノイズが鳴った瞬間に現実に戻されることからも無関係ではないです。なので古い録音を豊かな音楽性で鳴らすために必要となる機材は、当時の音源にマッチングする必要十分かつ最適な情報量を持つ、音源と同時代の機材が必要となるわけです。これが音楽以外の不要な情報をカットするための最善の方法のようです。

そして同じような体験を可能とするのは、ある程度生のコンサートの経験があったり、クラシックに対する感動を覚えたことがあることが重要だと思いました。コンサートに興味も体験もない人だと全く同じ音を聞いても想像力が働かずに何が良いのか全くわからない体験で終わってしまうことでしょう。もちろん自分自身もそこまで経験豊かではありませんが、少なくとも音楽に対する感動と想像力は存在していたので、自分なりに上記のような体験ができたというお話です。自分の中にある理想があればそれが見えるし、なければ何も見えずナローなシステムの音が聞こえるだけというわけです。

ここから考えると、音楽性とは各人の心や経験のなかに秘めたバーチャルな理想であって、音楽性豊かなシステムとはその理想を見せてくれるものではないかと思いました。少なくとも今回の体験はそうでした。音楽性の他のパターンとしては現実より大げさな表現をあえて追加して強調して見せるようなシステムなども音楽性の高さに含まれると思いますが、共通しているのはありのままの音を見せるのではなく、それを超えた非現実的な何かを見せる条件が揃っていることが音楽性の条件ではないかと思いました。

しかし、それはある程度経験豊かなバックグラウンドがないと理解のできないものであり、非常に人を選ぶということです。音楽性を理解するには一定の音楽経験や感動や体験が必要だと思います。それがなければただの癖の強い音の悪いシステムでしかないでしょう。

逆に現代的なハイエンドオーディオは情報のすべてを出すことによって一つの回答を強制的に与える方向性だと思います。これは特定の音楽性に優れたシステムよりも、万人に似たような印象をもたらす可能性は高いですが、広い音楽性の解釈からみると、無数の回答のうちのほんの一つにすぎない、ということになりそうです。このような考え方は今回の体験により見えた内容です。

貴重な体験を有難うございました。