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マスタリングリミッターの比較


yohineです。ここのところは(すごく珍しいことに)外注依頼の締め切りが近いのでずっとその作業中でした。作ってるのはいわゆる電波ソングなんですが、先月集中的にやったEDM系強化期間のおかげで時代遅れではない最新っぽいオケが出来ました。周りで言うとARMさんとかかめりあさんとか、その辺の方向性ですね。とりあえず目標だった自分自身の今までの弱点の克服や限界は確実に超えることができたかなと思っています。もちろん付け焼き刃ですし、作るのに仕事ではあり得ないくらい時間もかかってますし、最先端の背中が見えた程度ですけれども…。今はオケ制作が終わってボーカルテイク待ちなのですが、この製作中の楽曲についてはそのうち情報公開できると思います。

 

では本題ですが、今日はリミッターについて書きたいと思います。個人的にここ6-7年くらいはずっとWavesのL3-16を使っていて特に不満もないのですが、最近Slate Digital FG-Xというプラグインが評判みたいなので試してみました。しかしこれがちょっと問題というか、個人的にあまりいい印象じゃなかったので、具体的にどうまずいのか実例とあわせて他のプラグインとの比較も音声付きで公開したいと思います。

 

テスト方法

今回の比較楽曲はIK-06の世界樹アレンジCDから1トラック目です。この曲のマスタリング前の24bitデータを使って比較をします。以前にmp3で公開してる曲ですので、24bitデータも公開します。

[24bit音源データ]

「さぁ冒険を始めたまえ! 〜 伝承の詩、勇敢なる者達」
世界樹の迷宮1&2からのOP+ボツ曲のメドレー
作曲:古代祐三 編曲:yohine

今回は単純にリミッターとしての能力を比較するため24bitデータに対してきっちり+12dBに設定します。この数字はこの楽曲の場合で言えば、限界をやや超えている数字ですので、何も調整なしでは破綻しやすいレベルのスレッショルド設定にしました。楽曲に適した音量を超えていることは最初に断っておきます。あくまで必要以上に音量を突っ込んだ時にどれだけまともな音が出ているのかという部分を見ているテストです。なのでこのテストでダメだからといって全く使えないプラグインだということとは違います。

ディザもリミッター内蔵のものは使わずにCubaseのUV22HRを使っています。また出力レベルは赤い表示の付かない-0.1dBです。

1.Waves L3-16

L3-16-Multimaximizer

L3-16はあまり評判が高くないように思うのですが、多分これはデフォルト設定の問題だと思っています。L3-16はリリースキャラクターの設定が非常に重要で、これを曲に合わせて設定しないと他の設定をいくらいじっても限界があります。特にデフォルトだとL3と余り変わらない上に同じような弱点を持っていて、このままでは大抵の楽曲で良さが発揮できません。これが評判の悪い原因だと思います。

L3-16はリリースの設定もたくさんありますし、それに加えて帯域ごとの圧縮のかかりやすさ、帯域ごとのレベル設定もついているので、大抵の楽曲に合わせることが出来ます。なのである程度使いこなせれば音のコントロールに自由のあるプラグインです。そのかわり初めて使うとどこをいじったら分からないし、下手にいじると破綻しやすくそこが問題になりそうです。特に慣れないうちは黄色のライン(プライオリティ)はいじらない方がいいです。気づかないうちに変な帯域バランスになっていたということになりやすいので。

玄人向けにはリリースキャラクターをユーザー側で作れれば大幅に可能性が上がりそうなのですが、その分使い勝手としては更に難解になってしまいそうです。

それでは実際の音声です。

・リリース Default

中低域が薄くなってしまう傾向があります。特にレベルを多めに突っ込むと顕著です。1:09あたりの低音が引っ込む感じなどどうしようもありません。音割れは比較的しにくいのですが低音域と中音域のコントロールが非常に難しいです。音数が少なめで瞬間的にピークが出る程度の使い方なら問題ないのですが、常にピークを押さえ続けるような使い方は向きません。すごい上手いMixなら破綻なくいい音に出来ると思うのですがなかなかそこまでのMixは出来ませんね。

・リリース Warm Classical

透明感があり低域も残るので個人的には一押しなのですが、やや音割れしやすいのが難点です。音割れなしで音圧を稼ぐのは難しい設定ですが、これで音圧を稼げた時は自然と良い結果になりやすい印象です。この設定は普段から一番よく使います。ただしこのテストではギリギリ音割れしていますのであまりよい結果ではありません。

・リリース Drums Punch

最も破綻しにくい設定です。どうしても他の設定で音割れしてしまう時などはこの設定を使っています。これは何が何でも音圧稼ぎたい時に適した設定なので、もしこれがデフォルトだったら評価が変わっていたのではと思います。デフォルトと違って低音がしっかり残ります。ただし高域には弱めで中域あたりに音が固まる印象です。Mixが悪いとこもりやすい設定ですが音が破綻しにくいので使いやすいです。

・リリース Vocal Priority 2

これも音割れしにくい設定です。これも結構レベル入れても破綻しません。使い勝手もバランスもいいと思います。使えます。

・その他のリリース設定

他にもたくさんあるのですが、音作りの要素が強すぎるものも多く、なんでも使えるリリース設定は上記以外ではあまりありません。特にL3マルチ時代のプリセットはどれもイマイチで帯域の偏りや癖が出やすいです。これらは本当に合う楽曲以外では使えません。そして合う合わないは実際にやってみないとわからないです。でもハマれば面白いニュアンスが出せるプリセットもあります。細かいパラメータを選ぶことで音楽的な意味で調整が効くのはいい部分です。

2.Waves L3 UltraMaximizer

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L3-16のデフォルトを若干荒くしたような音です。ニュアンスは近くて弱点も似ています。1:09の引っ込むところもL316のデフォルトと同じです。これを使うならL2のほうが癖がなくていいと思います。出た当時はこのかかり方が気に入らなくてずっとL2を使っていたのを思い出します。L3マルチは帯域のコントロールができるのでこの問題の対策ができますが、今ならL3-16のほうが限界が高いし音質もいいので価格以外で選ぶメリットがありません。

3.Waves L2

L2-Ultramaximizer

L3より音楽として破綻しにくいのでとても長い間お世話になっていました。L3-16より以前はこれを使ってました。今ではさすがに時代を感じる音の荒さ、音割れの限界の低さですが時代を考えるとそんなに悪くありません。しかし今から買うのはオススメできません。特にこの世代よりも前のWavesのプラグインはCPUが弱い時代の産物なので余り使えるものはないです。特にEQやコンプは結構いまだと厳しいクオリティのものも多いのでWAVESというブランドにだまされないようにしたいものです。

 4.Slate Digital FG-X

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評判がいいので試してみました。が、いきなりオーケストラのところで音割れしています。2:05あたりもプチプチ言っています。凄く重いのにL2より音割れしやすいのはいかがかと思うのですが…。他の曲でも試してみたのですがやっぱり音割れしやすいのは変わりありませんでした。むしろこのプラグインで音割れしない程度のスレッショルドで攻めるなら他のプラグインでも十分きれいな音にできると思いました。

ちなみに設定はコンプもディザもオフで、FGレベルの部分だけしかいじっていません。ITPをスムーズにすると多少マシですが根本的な音割れは回避できなかったので限界はかなり低いプラグイン(L2以下)だと思いました。これで音圧を稼いでいる人は意外と気づかないところで音割れを起こしているかもしれません。自分の曲が悪いのでしょうか?個人的にはオススメできませんでした。

※shibayanさんからコメントにてFG-Xについて補足いただきました。コメント欄も是非御覧ください

5.Fabfilter Pro L

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このまえEQで紹介したFabFilterのプラグインです。ここは本当にいいもの作ってますね。仕上がりのバランスがいいです。逆に言えば特徴もないのですが、どの曲に使っても無難に仕上がりますし破綻もしません。L3-16より遊び心はなくてもリミッターという仕事を真面目にこなしているという印象です。ただL3-16を持っていたらわざわざ買う価値はないような気も。プロクオリティのプラグインとしては安い方なので新規ならおすすめ出来ます。基本性能はL3-16並かそれ以上ですし、FG-Xを買うならもう少し頑張ってこっちのほうが絶対いいように思うのですが…。

2015/1/20追記

冬のCDのマスタリングで初めて本格的にFabfilterのリミッターを使ってみました。とりあえずL3-16より明確な優位点を見つけたので紹介しておきます。バスドラムのアタック感を維持して音圧をあげる時の限界の高さです。ここのページのサンプルではジャンル的にわかりにくいのですが2014冬のCDでは今までなかなか出せなかった音圧を維持しながらバスドラムのリズミカルなアタックを維持することができたように感じています。

L3-16は全体的に綺麗目な音ですがアタックの鋭さは鈍りやすいので、この点はFabfilterのほうが限界が高いように思いました。もちろんやりすぎると音割れしますが、そのような限界はパラメータ調整することで楽曲に最適なギリギリの設定を狙うことも出来ました。ちょっと荒さが出てくる音割れ寸前の設定も意外と迫力があっていい場合もありますね。ということで正直最初の印象よりもこのリミッターは使い込むごとに良さが見つかっているところです。奥が深いです。

2016/01/06追記

オーバーサンプリングをリミッターに搭載する意義について去年の後半に気付きました。オーバーサンプリングとは44.1kだったら88.2とか176.4とかにアップサンプリングして処理をするということです。何故これがリミッターについていて意義があるのか、以前は分かっていませんでしたがDACの開発をやっていてある日重要な問題に気づきました。

それは44.1kで処理をした場合にはレベルオーバーが生じなくてもDAC側でオーバーサンプリングを行った時に0dBを超える場合があることです。インターサンプルピークとか言うみたいです。これは44.1kのみで処理をしているリミッターではそのような現象を予測できません。

なのでリミッターにオーバーサンプリングをつける意義は、44.1kのデータを実際のDACに送った時のオーバーサンプリング時の音割れを事前予測して防ぐことが出来る点です。これを知ってからはオーバーサンプリングのないリミッターはダメだと思うようになりました。こうなるとL3-16もオーバーサンプリング機能をつけて欲しいですね。

オーバーサンプリングをオンにした時なんとなく音がなめらかになるのは気のせいではなく、きちんと理由があったということですね。

 6.その他使ったことのあるリミッター

いろいろな理由で音声での比較ができないのですが以前に使った印象と合わせて紹介しておきます。

・ UAD Precision Limiter

もうUADはPCから外してしまったので試せませんが、L2と似たような性能でした。L2より音が少し柔らかいです。でも今から導入する価値はないと思います。

・Sonnox Oxford Limiter

キレイ系でなめらかな音。L2より明らかに上の性能で突っ込める限界もかなり高くて良かったのですが、同時期に発売されたL3-16のほうが自由度が高くてよかったので買ってません。瞬間的に強いアタックを入れるとリリースが遅いのでそこで音楽的に破綻します。これが多分このプラグインの唯一の弱点です。

・Waves L1

L2が出てから時代遅れになったプラグインです。音は荒いし突っ込める限界も低いので今は全然使えないと思います。これを買うくらいなら下のBuzzMaxiで済ませるほうがいいかもしれません。

・BuzzMaxi3

フリーのリミッターです。音は荒いのですが知っている限りフリーでは一番自然にかかると思いました。ただしだいぶ前に調査した結果なので今はもっと凄いフリーがあるかもしれません。突っ込みすぎるとやや不自然なところもあるのですが、似たようなコンセプトのW1よりずっといいです。W1は結構みかけますがすぐ音楽が破綻するしどうしようもない音なので注意しましょう。

・BuzzRizerLight

一時期話題になった音圧特化のフリープラグインです。すごい派手な音なのですがとにかく質が悪い!コンセプトは面白いですがクオリティ的にはダメでした。インパクトだけはあったので印象に残っています。フリーのリミッターは音が荒いものが多いです。

7.A.O.M Invisible Limiter 

2014/09/28 23:30 追加しました

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twitterでリツイートしてくれたAPPOさんのところで作ってるプラグインだそうです。音声は試用版なので音切れしてますが、これはいいです!この曲だけだと素性がわからないので他の楽曲でも試して見たのですが、基本限界まで嫌な音を出さない滑らかな音質で、低音も下のほうまで伸びて出ていますし音圧感もあります。程よく突っ込む場合はこれが一番いいと思います。元の音楽のニュアンスがあまり変わらない上に限界も高いです。これは忠実系ですがFabfilterよりこのテスト曲ではいいと思いました。ただ他の楽曲ではFabfilterがこのリミッターやL3-16よりも良いこともあったので楽曲によって使い分けでしょうか。でも日本でこんな凄い一線級のプラグインを作ってるなんてびっくりしました!

 

追記 音源の編集でミスを見つけました。Wavの貼り付けミスで最後のパートの頭が切れてしまいました。しかしリミッターの比較という主旨に問題はないのでそのまま掲載します。24bitのWavファイルは差し替えしておきました。

追記2 各プラグインのyohineの意見は一個人の意見であって絶対ではないので音声を耳で直接判断してください。また何か異論とかあったら是非書いてください。見てる人に有用なレビューにしたいのです。私自身マスタリング専門家ではないのでまだまだなところもあると思います!

 

※ツイッターで補足コメントが有りましたのでこちらも見てもらえると参考になるかと思います。