img_4213

Schiit Audio Gungnir Multibitレビュー

Pocket

Schiit AudioとYggdrasilの海外評判

海外では大変有名のようですが、国内だと代理店がないのでSchiit Audioはご存知でない方も多いと思います。自分も最近まであまり詳しくは知りませんでした。調べてみるとここのYggdrasilというDACモデルが海外での評価が大変高く、内部設計もとても特徴的なので色々と確認してみたいことがあって勢いで購入してみました。既にDACマニアになりつつありますね。

Yggdrasilは100万円オーバーのDACを打ち倒すという評判ですが全く根拠がない誇張ではない設計上の裏付けがあります。某中華DACみたいに超ハイエンドと掲示板などで投下されていても中身の写真を見ると明らかに広告のための嘘だとわかるものもありますが、これは違います!

まず内部設計ですが以前書いたハイエンドDACの記事から一部抜粋します。

ハイエンドDACの設計と、大衆オーディオの未来

最大の特徴はオーディオ用DACチップを使わずにAD5791というマルチビットDACチップを使っていることです。チップスペック的には20bitDACですが、この製品ではAD5791を片チャンネル2つ組み合わせて21bitとしているようです。

オーディオ的に優位性があるのはマルチビットという漏洩ノイズの少ないアーキテクチャ、LPF回路が不要であること、電源電圧が高いこと、これらの理由により神経質かつ高度な音質対策設計をしなくてもよいことです。

普通のオーディオ用DACでは24bit以上のスペックはありますが、最近のチップではアナログ電源が5Vか3.3Vと低く電源ノイズに対する要求スペックが厳しい割に768kHz以上のレートを受け入れるため高周波ノイズの影響は更に厳しくなっています。さらに後段にIVやLPFなど複雑で部品点数の多いアナログ回路を要求する等、周辺回路設計への要求事項が厳しくなっています。

その点AD5791を使うとLPFもIVも不要、電源電圧も高い。なので聴感SNの悪化要因が普通のオーディオ用DACよりかなり少ないです。リファレンス回路通りに作ったら自動でオペアンプレギュレータになるのも音にいいですね!これらの要因はすべて実SNだけでなく聴感SN的にも有利な設計になります。特別な対策や配慮をしなくても高額なDACに音質面で勝てた要因は上記の部分の優位性によるものだと思われます。

今回はこの推測が本当かどうか実物で検証してみたいと思います。

しかしYggdrasilは手軽に実験用購入とするにはちょっと高額なので一つ下位のGungnir Multibitにしました。といってもこれは内部設計が限りなくYggdrasilに近い内容です。Gungnirで使われているチップはAD5791ではなくAD5781ですがピン構成が完全同一で20bitと18bitという違い以外は同一設計なので、所謂AD5791の選別落ち品がAD5781だと思われます。

Schiitマルチビットはこれ以下のモデルになるとチップの内部設計自体が別物になりますのでYggdrasilに限りなく近い音が出るのはGungnirだけだと予想しています(海外の評判でも実際にそうなっています)。ビット数が少ない分Yggdrasilに比べて荒さはあると思いますがむしろマルチビットの特徴は強く出て傾向はわかりやすいでしょう。

Gungnir Multibit、その音質的特徴

前置きが長くて音質レビューがいつまでも出てこないBlogがよくありますが、個人的にああいうのは好きじゃないのですが、うちも前置きが長くなってしまいました。反省しなければ、ということで音質です。

Gungnirの音質では静寂感が最も特筆すべき部分で、深い闇の中からズバッと音が立ち上がってくる印象があります。静寂感についてはとてもハイレベルです。実際に測定もしてみましたが、この部分の性能は超ハイエンド級で間違いない結果です。10万円台としては驚異的なノイズ性能で静寂感だけならこれ以上のDACなど価格問わずほとんど存在しないのではないかと思うくらいです。測定値から推測してこれを確実に超えているのはMSBのダイヤモンド以上という異常事態です。

しかし音の余韻は急に消失する感じがあります。このあたりはビット精度が18bitしかないことで下位ビットの情報自体が存在しないことが理由だと思います。デバイスの性能限界なので設計上の宿命でしょう。たとえば普通の質の悪いDACだとモヤの中に余韻が埋もれて消えていくイメージですが、Gungnirは余韻が明瞭のまま突然消えるような感じです。よく出来ている24bit以上のDACはこのあたり綺麗に減衰していきます。余韻の空気感はSchiitはあまり得意ではありません

もうひとつの弱点としては高音の質感に違和感があります。どこまでも滑らかではなく荒削りで毛羽立ちのある高音という印象です。これはSoekrisでもMSBモジュールでも感じたので普通に作られたマルチビットの限界だと思います。ビット精度が高いYggdrasilではこの違和感は軽減されていると思いますが20bitでは24bitのようななめらかな音は出ないと思います。24bit-DACから見たら常にビット欠けしているのと同じ状態ですからね。

良くマルチビットはデルタシグマのような癖が無くストレートな音と言われますが、現実はマルチビットも完璧ではなく静寂感から浮き立つざわざわした質感があります。デルタシグマも帯域外ノイズさえ押さえ込めばよく言われるデルタシグマらしいハイに特徴のある音ではなくなりますから、このへんは正直DACの対策レベル次第で変わると言えるでしょう。どちらも方式上の弱点なので対策が難しいわけですが。

とはいえGungnirの高域は質の悪いデルタシグマみたいなハイがうるさい音でもきつい音でもないので問題ない範囲です。ただし余韻と質感の自然さが重要なオーケストラとかはあまり合わない印象です。これはエージングでも変わりませんでしたので素性による音質です。このあたりは音楽的にどういった部分を重要視するかの問題なので、空気感とか余韻よりも静寂感やそこから立ち上がる歯切れがよくハキハキした音を重視するならこのDACはとても合うと思います。

最後にとても重要な注意点ですが、XLR出力から音声を取らないとまともな音が出ません。RCA出力は測定上も聴感上もかなりノイジーなのでGungnirのRCA出力は絶対に使ってはいけません。暖色系って言ってるレビューはおそらくこのRCA出力を使ったレビューだと思います。RCAから取ると粗悪DACと大して変わらないモコった音になります。これならRCA出力など無い方が良かったのではと思います。

ローレベルのDAC音質差を録音してみました

これは普通はADCのノイズに埋もれて録音できないDACのローレベルの挙動をmp3でも比較できるように録音するための方法です。

  1. デジタルで-30dBほど絞って再生
  2. ローノイズプリアンプで+40dB増幅
  3. 高性能ADC(Lynx Hilo)の24ビットで録音
  4. DAWでリミッターを限界まで掛け16ビットで細部が見えるようにする

このようにすることで普通は録音できない部分を見ることが出来ます。ローノイズなアナログアンプで増幅するのがポイントです。また1のデジタルで絞る具体的な数字はDACの出力レベルによって変わります。DAVEのように最大出力が大きいDACはより多く絞ることになります。これによってローノイズプリアンプに入力される信号とADCに入力されるレベルは同一なので平等な条件での比較になります。

録音データを紹介しますのでみなさんも実際に音を聞いて比較してみてください。いままでDACの音質差はまともに録音できないと思っていましたが、これは大分現実に近い音です。今までの録音は音質差の1%以下しか取れていませんでしたがこれは3割位取れてると思います。ハイエンドスピーカだとこれ以上の違いが現場で良くわかります。

当たり前ですがこのテストではDACの出力駆動力、帯域外ノイズの影響は正しく評価されていないのでこれが音質差の全てではないことは注意が必要です。ですが目安としては今までの録音より違いが大分わかりやすくなっていると思います!

Gungnir XLR direct

ビット落ちを覚悟でデジタルで絞ってローノイズプリアンプに直結したものです。18bitDACなので量子化ノイズが明瞭に聞こえますが静寂感が素晴らしいですね。その部分はこの中で一番優秀だと思います。とはいえこの使い方は良い部分と悪い部分が極端すぎてバランス感覚に欠けています。

Gungnir RCA direct

量子化ノイズより残留ノイズが大きくて論外です。GungnirのRCA出力は駄目です。ちなみにノイズの定位が中央定位なので原因は左右で別となる抵抗や半導体起因じゃなくて、左右のチャンネルで共通の要素たとえば電源起因のノイズかもしれません。

Gungnir FullBit + CS3318PreAmp

デジタルではなくアナログで絞った録音です。量子化ノイズは目立たなくなりますがそれでも質感は弦の艶をまだ表現できていないと思います。直結と比較するとやや静寂感は減退しています。静寂感はもっと良いプリアンプを用意すれば改善できると思いますが、そこまで良いプリは希少です。ここではこちらの記事で書いた自作CS3318プリを使っています。普通に性能は良いプリですがGungnirの性能は100%引き出せてないです。90%くらいです。

Chord DAVE

意外とノイズが多いですね。でもノイズに埋もれながらも音の潜在的な描写力はとても高く細部ディテールは鮮明です。実SNではなく聴感SNが優れている為と思います。ノイズが無くなったらもっと良いと思うのですが、ホワイトノイズって設計上の課題だと思われるので改善は難しいと思います。簡単に対策できるならこの状態で製品はリリースしてないでしょう。DAVEはフルレベルで出して良いプリで絞ったほうが良いと言うことになりそうです。

自作AK4497

自分の作品なのでコメントしません。

Fidelix Caprice RCA + 内蔵Vol

参考比較用です。SNは良いですが立ち上がりが緩く、全体的にソフトタッチです。音量は完璧に合わせてありますが何故かちょっと音が小さく聞こえます。このあたりはDACの個性で実際に生で聞いてもまったく同じ印象です。設計者の中川さんの好みだと思います。ポリシーを明確に感じるのは良い機材です。

録音は以上です。本当はもっとローエンドなDACがないと違いがわからないのですが正直ここでアップした音はRCA以外どれもハイレベルです。普及価格帯の国産大手のDACが一台あると比較用として多分面白いですけど音が悪い機材は全部売ってしまったので手元にありません。

今回比較に使用した音源はこちらです。

Skrowaczewski: Concerto Nicolo

「Skrowaczewski: Concerto Nicolo RR-103」の画像検索結果

この曲は何故かとても落ち着きますね。普通の感性じゃない自覚はありますが、第二の故郷的なものを感じますw

Gungnir Multibitの使いこなし

この製品は1250ドルと10万円前後のDACでありながら上記の通り高いポテンシャルを持つ製品ですが、本当に低コストで良い音が出せるのかというと疑問です。この点ではSonica DACのような手軽さには欠けます。

その理由としてはRCA出力の音が悪いこと、内蔵ボリュームがないため事実上外部プリアンプ必須なこと、これらの理由によって組み合わせや使いこなしにコツが必要でぱっと買ってきてすぐにいい音が出るとは限らないのです。

このDACは残留ノイズが非常に少ないですがビット数が18bitなのでデジタルボリュームを使うことは出来ません。基本フルビットで受け取ってそのまま出力し、あとからアナログで絞るようにしないとデジタル領域のビット欠けによって音のディテールが即削がれてしまいます。このあたりは現代の32bitDACとは全く違う部分です。安易にデジタルボリューム化が出来ないことは低ビット数のチップを使った設計上の欠点ですね。

そしてプリアンプではアナログボリューム=抵抗とアンプを使う性質上ノイズを減らすことがとても難しく、Gungnirの持つ残留ノイズの低さを100%引き出せるプリアンプなど、ほとんど存在しないのではないかと思われます。しかもXLRフルバランスを受けられるローノイズプリアンプとなるとあまり低コストでは済まないと思います。

GungnirのXLR出力ノイズ測定値を見たところ普通のよくあるオーディオ用FETオペアンプが持つ残留ノイズと同じくらいです。オペアンプ一個通過しただけで性能がでなくなるって考えてもらえればプリアンプ設計の難易度が分かると思います!

90dbsine1k_100k_20klpf

-90dB 1kHz sine XLRout

この-160dBVという値は10nV/rtHzに近いレベル(誤差があるので目安)ですから、抵抗アッテネータでも安易に挟めません。1kΩの抵抗が4nV/rtHzなので数kΩの抵抗でもGungnirの実力は抑えられてしまうということです。Schiitがオペアンプを使わずJFETのディスクリートを使った理由もこの部分にあるかもしれません。市販FETオペアンプをこの部分に挟むとローノイズな出力はなかなか得られません。当方のCS3318プリも-150dB位の実力でCS3318のチップスペック限界ですが、それでもやや性能が足りません。

一応Schiit本家にもプリアンプの取扱はありますが、残留ノイズの情報や詳しい設計上の工夫について記載がありませんので、そこまで高性能なプリアンプを作っているのかは大変疑問です。もし本当に性能上で優位性があるならノイズのスペックも出ていると思います。そもそもGungnirはRCAの出力ノイズがあまりにも酷いので、同社プリアンプも設計に問題がある可能性を考えておいたほうが良いです。同じメーカーだからといって一か八かで購入してハズレを引く可能性を考えるとあまり冒険はオススメできないです。

もし選ぶならローノイズに注力したきちんと設計上の工夫や強みを紹介している製品を購入するのが良いと思います。少ないですが測定値などを公開しているメーカーのものが望ましいです。

正直そこまでやっているメーカーはあまり思い当たりませんが、設計で万全そうなのはSAYA辺りでしょうか…。価格が100万円近いのが難点ですが。AITプリも発想は良いですがDACの残留ノイズを測定した限りは-145dB付近(普通は十分ハイレベルですが)ので設計レベルが怪しいです。

ということで現時点でYggdrasilやGungnirの真の実力を発揮できているユーザーはDACの価格帯を考えると殆どいないのかもしれません。もちろんプリが万全じゃなくてもDACの良さはわかりますが真の実力、潜在力は発揮できてないということです。

まとめますとGungnirの海外での圧倒的な評価の高さはきちんとデータで裏付けが出来る結果のように見えるということです。特にデータ上でDAVEより直結Gungnirのほうがノイズ性能が良いという結果はとても重要な部分です。実際に背景の静寂感はDAVEよりGungnirのほうが良いです。

Gungnirはビット解像度不足による音の粗さという設計上最大の弱点がありますが、万が一ADから24bitのチップが出てきたら総合力でもSchiitのマルチビットはDAVE以上の音質になってしまうと思います。しかしそのようなチップは存在しませんし、出来たとしてもとんでもない価格のICになる筈なので現実的には難しいと思いますが。

最後にGungnirのRCA出力の酷い測定値も置いておきます。上の画像と同じスケールですが別物のDACのようにノイズが多いです。RCA出力は音が出るだけで音質的には使いものにならないと思ったほうがいいです。

90dbsine1k_rcaout_100k_20klpf

USB gen 5について

あまりDDCには興味が無いのでテストしない予定だったのですが、このモデルについているDDCは最新世代で良いものみたいですね。興味がある方もいると思いますので今回はこれもテストしてみます。

実際にSchiitのUSB gen 5をWin10で試してみましたが、うちの光ブースターのほうが音が自然でした。この時に使ったDDCはSMSLの6000円くらいのXMOS-DDCですが、これの光出力に光ブースターを入れた場合のほうが高域のザラザラしたデジタルぽい感じがなくなって低音のパワーと中域の透明感が増します。Gen 5 DDC直結ではこのあたりがもうひとつ弱いです。

実はうちはDDCを使わず自作の光ブースターを使っているので上流の音質差が殆どありません。今まで試した結果ですが上流の音質差を9割位圧縮する効果があるみたいです。Schiitの最新世代DDCでも例外ではありませんでした。

いままで試したのは安いCDP、高級トランスポート、無対策PC、高額オーディオIF、高級DDC、低価格DDC、これらさまざまな上流を使って比較してきましたがどの出力も光ブースター単体を超えるものはなく更に光ブースターを挟むとどれも音質が同じように底上げされるので、どれを使っても大した違いが無くなります。もちろん違いが完全に無くなるわけじゃないのですが差が底上げされて圧縮されます。

ということで結局Schiitの最新世代DDCよりこちらの光ブースターのほうが良いみたいです。ですがDDC直結で光ブースターにそこそこ肉薄するクオリティではあったので単体DDCとしてはかなり優秀かもしれません。

img_4220

その他の基板写真

img_4213

img_4215

img_4216