IMG_1470_R

はじめてのヘッドフォンアンプ基板

Pocket

ヘッドフォンアンプ制作のきっかけ

これはキットじゃなくて本当の自作記事になります。ここに書ききれなかった抵抗、コンデンサ、オペアンプの音質差は別の記事でまとめたいと思います。

ヘッドフォンアンプにチャレンジしたきっかけはDAコンバータの買い替え。FidelixのCapriceがきっかけです。それまでは業務機でも実績のあるLavryのDA10を使っていたのですが、全く新しい技術と古いノウハウが結集したCapriceに期待が高まっていたので価格的に手が出る帯域でしたので購入しました。

(ちなみに下の写真の隣にある大きいケースは前回記事のNewClassDのNCDXパワーアンプです。この頃はなんだかんだとNCDXをメインで使っていました。)

IMG_1390_R

さてカプリースが到着してつないで聞いてみると、最初は滑らかできれいな音だと思ったのですがプリ出力の音とヘッドフォン出力の音があまり良くないんです。バランス出力を使うと良いのですがプリとヘッドフォンは明らかにモヤのかかったような音で本当にDA10からグレードアップ出来たのか疑問に思う程です。いや、やさしくて、繊細なところはすごくいいんですけど。

ちなみにバランス出力側を試した時はアナログボリュームが効かないのでリモコンを使ってデジタルボリュームを調整して行いました。でも電源を入れなおすとボリュームがリセットされるという話なので怖くて常用できません。正直デジタルのほうが音質的には上だと思ったので、なんでこのような不便な仕様になっているのかすごく疑問でした。実用じゃないリモコンなんて要らないし、リモコンに対応させるなら実用になる設計上の工夫をすべきです。

音質劣化についてはFidelixのHPをいろいろ調べてみると、カプリースの内部ルーティングでプリ出力側はアナログボリュームを通過しているようです。さらにヘッドフォンアンプは推測でOPA2134が使われていて、Fidelix特製オペアンプは使われていないみたいです。多分この2つが劣化の原因でしょう。

CAPRICE

まぁモヤがかかっているのはリスニングでは慣れればそれほど気にならないのですが、問題なのは音楽制作の時の話です。特にヘッドフォン出力の質が問題です。ミックスなど音楽作業はヘッドフォンでやることが多い為によく分かるのですが、どうもDACを変えてから見えない帯域や見えない音があるのです。例えばEQをした時に分離の具合が見えにくく、ポイントやQがいつまでも定まらない…これはまずいと思いました。

以前に使っていたDA10ではこのような問題はありませんでした。元々業務機なので当然かもしれないですが、DA10は確かに荒い音なのですが分離はとても良くて見通しが良いのです。なのでリスニングはカプリースでもミキシングなどの実作業ではDA10を使うということが続きました。

しかしこの頃友人がヘッドフォンアンプを自作していて、これがかなりいい出来でカプリースのバランス出力からRCAに変換してつなぐとDA10より良かったのです。中身はオペアンプ+ディスクリートバッファなのですが、実はレギュレータが特徴でオペアンプを使ったタイプです。どうやらこのレギュレータが高音質のポイントのようでした(この頃は回路の詳しいところはよくわかってなかった)。

でもカプリースが劇的にパワーアップするポテンシャルがあるわけですから、彼の作成したヘッドフォンアンプは単純計算でも少なくともDA10の内蔵と同等かそれ以上の性能はありそうだったわけです。なので回路を教えてもらって自分でもヘッドフォンアンプを是非作ってみようと思い、ついに本格的な自作を始めることにしました。

確かこの当時はヘッドフォンアンプの製品が流行りだした頃だった気がしますが、素性のよくわからない製品よりは確実に音が良くなる実績のある友人の設計を参考にして作りたいと思ったのです。

ヘッドフォン基板

まずはヘッドフォンアンプ側の回路なのですが、オーソドックスな非反転+DCサーボという構成です。簡単な回路図は↓のとおりです。友人は音的に無意味な実装をしたくない主義らしいのでDCサーボは組んだことがないそうです。なのでかわりにDCサーボも実験することにしました。

hpa

自作とはいってもバッファまでいきなりディスクリートというのは敷居が高かったのでICを使うことにしました。図ではBuf634ですが実際にはLME49600を使っています。この図では定数が入っていますが、特徴的なのは全てのオペアンプ、NFB抵抗、位相補償コンデンサを自由に差し替え出来るようにしたことです。この図の上チャンネルで言えば左側のR1,R2,R4,R5、C1は全てソケットにしてあります。抵抗と定数による音の差、オペアンプ毎の安定性を確認したかったからです。でも特徴はそれくらいであとはすごく普通の構成だと思います。写真は↓です。

IMG_1410_R

コンデンサはセオリーを守ってフィルムコンを使っています。ポリエステルですがEpcosのものが安かったのでとりあえずそれを買いました。ちなみに国内だと部品を揃えるのが店巡りをしなければならなくて面倒だったので殆どの部品は海外通販でまとめて購入しています。

それと、この写真では入力抵抗がないですが後になって入力が浮いた時の安定性に問題あるとわかって追加しました。要するに入力部は抵抗を介して常に0Vに留めておくようにしないと、入力側のコネクタを外した時に入力部が浮いてしまいノイズを拾ってしまうようです。宇宙飛行士の命綱のようなイメージでしょうか?でもこの頃はそんな基本的なこともわかっていませんでした。

電源基板

では次に電源です。こちらはオペアンプのNFBを使った電源回路です。友人に教えてもらって最初に作ったのは次のような回路です。元ネタは藤原さんのところにもキットで売っているタイプです。記憶で書いているので一部相違があると思うのですが、一番最初に作ったのは大体このような回路です。工夫したのはリファレンス電圧用に出力電圧比でノイズが少ないという海外情報を根拠にLM329を選んでいます。この時点では特筆すべき点はこれくらいです。仮称としてここではこの回路をお気楽式レギュレータとします。

reg_v1

今から考えればこの回路は問題が多いのでこれを真似て作るのはオススメしません。しかしこれでも普通の三端子レギュレータを使うよりもオペアンプの選定次第でずっと高音質に出来る手段です。よくある平凡な市販製品を超えるためには面倒でもまず電源からしっかりすることが重要だと思います。特に内部写真を見ると大手でも未だに三端子レギュレータという製品もありますからね。それでも良くする独自のノウハウもあるのかもしれませんが…。

やはりせっかく自作するなら別にオペアンプレギュレータじゃなくてもLED電源でもいいのでなにかこだわりのある設計がほしいところです。既にアンプ回路は成熟しておりオペアンプ自身が優秀なのでアンプ側の回路はセオリー通りでもそれほど問題ありませんし。

IMG_1455_R

こちらもオペアンプは差し替え出来るようにしてあります。この図では位相補償コンデンサ(出力側とオペアンプのNFB内)がありませんが、この回路ではほとんどのオペアンプで不安定になったのであとから追加しました。上の回路図のほうでは書き込んであります。

音出し、実験、また実験

IMG_1459_R

上は実験中風景です。この時点ではボリュームは接続せず最もシンプルな構成で実験をしました。写真を見ると上で紹介したときと比べて回路にかなり変更が出ていますが色々なテストをの上で必要な改良を加えていった結果です。この時点でもボリュームを接続していないですのでDAC直と比べて音はそれほど悪くなって無い状態です。カプリースの内蔵よりは全然良いですね。

ここではいちいちやったことを振り返っても冗長になりますから、この時点での音的に重要なポイントだけをできるだけ簡潔にまとめたいと思います。

まずはアンプ側から

  1. 抵抗による音質劣化は聴感上最大の影響を与える。選択がまずいと音がどんどん消えていく。質の悪い抵抗や大きな抵抗値は音質劣化が激しく、一度失われた情報は戻らない。
  2. 抵抗の種類も音に大きな影響を与えるが、それ以上に抵抗値の高低は音質に影響を与える。VishayのVARは最高の抵抗だが、VARの10kΩより普通の抵抗でも1kΩのほうが音が良い。さらに言えば100Ωのほうがずっと音が良い。
  3. 2.の結果から質の良い抵抗に固執するより低い抵抗値の設計が望ましい。その分不安定になるが音質的には設計力で安定性を限界までカバーすべき。
  4. 1.2の結果はどこからくるのかといえば、抵抗の大きさによって発生するノイズ=ジョンソンノイズの影響だと思われる。僅かなノイズのはずだが音質の影響は大きい。音質のためには究極のローノイズ維持が重要ということではないか。
  5. 抵抗値が同じならば抵抗の種類には大きな音質の違いが残る。低抵抗による回路を実現したとしても決して油断してはならない。違いは聞き取ることが出来る。
  6. NFB抵抗の大きさは発振安定性と関係がある。低すぎる抵抗も、大きすぎる抵抗も、アンプによって発振し不安定になることがある。
  7. 非反転回路ではNFB抵抗と並列の位相補償コンデンサは余り効果が無い(高周波ピークの補正には使える)。安定しないアンプはNFBに位相補償のCを足したくらいでは安定しない。Zobel+入力フィルタのほうが効果的。
  8. オペアンプの差はレギュレータや抵抗の音質差よりも重要度が低い。しかし音は確かに変わる。
  9. DCサーボはあると音質が変わるがカップリングコンデンサによる劣化よりも大抵の場合は良好。もちろん何も入れないほうが素直な音だがディスクリートアンプなら必要悪と割り切るべき。
  10. DCサーボに使うオペアンプは電流ノイズが少ないタイプが良い。ハイインピーダンス入力時のローノイズ性能が重要。FET入力で入力バイアスが低いものが合う。
  11. カップリングコンデンサはポリプロピレンが良い。ポリエステルはフィルム系だが良くない。セラミックはディスク型は最悪だが、実は面実装の音は悪くない。ポリエステルよりもチップセラミックならば良い音を出す。フィルムコンを数十個試した結果アキシャル型とラジアル型では大きく音質が変わる。おそらく音質変化は振動の影響が大きい。SMDチップセラミックはしっかり固定されている為に音が良いのではないか。そしてポリプロピレンは材質よりもその大きさが音質の安定性を生んでいる可能性もある。

次にレギュレータ側の重要ポイントです。

  1. 電源へのこだわりは音質に直結する。
  2. レギュレータのオペアンプの差はアンプのオペアンプの差と同じように存在する。不思議だが音質傾向も似ている。
  3. レギュレータ出力のコンデンサは安定のためには電解コンデンサを使うこと。高性能アンプとの組み合わせになる程、低インピーダンス品、低容量品のCが簡単に発振の原因になる。
  4. アンプと同じようにNFB抵抗の種類と定数による音質の影響は存在する。
  5. お気楽式回路のままでは絶対に安定できないオペアンプが存在する。LT1222等。

レギュレータ回路のアップデート

色々シミュレーションで検証すると面白いことがわかります。この頃は色々LTSpice弄って特性向上の方法を調べていたのですが、あることに気づきました。次の図を見てください。(クリックで拡大します)

reg2

違いはR1をどこから取るかです。上側のシミュレーションでは低域までノイズ抑圧帯域が伸びていませんが、下側のようにリファレンス電圧をレギュレータの出力側から取ると特性が低周波側に大きく向上しています。レギュレータによって綺麗になったところからリファレンス電圧を取っている為の向上と思われます。これは理想オペアンプでのシミュレーションですが、ハイゲインのオペアンプを使えば似たような結果になることが予想されます。上の回路のままでは本来の特性が生かされていないと言えそうです。

実はシミュレーションするとよく分かるのですが、このように低域までノイズ抑圧ゲインを伸ばすのは容易ではありません。よく電解コンデンサを大量につなぐことがありますが計算上は1kHzくらいで頭打ちになり20Hzまではいくら足しても伸びませんしコンデンサ自体の内部抵抗の影響でゲインも伸びません。実際の回路では50Hzには整流のリップルがたくさん乗ってきますから究極のノイズ性能を目指すならば低域の特性は50Hzまでは伸ばしたいわけです。そのためにはやはりレギュレータ回路側で工夫するのが一番良いと思います(音質じゃなくて計算の問題で)。

ただしこの下側の回路はそのまま作成しても実際には動作しません。0Vからの起動ではリファレンス電圧が立ち上がらないままなので何らかのきっかけで後ろ側の回路に電圧を与えないと起動に失敗します。この当時はあまり詳しくなかったので、どうしてもちゃんと起動できる回路を作ることが出来ませんでした。しかもこのあたりについて調べても国内ではレギュレータについて深く解説しているサイトはありません。あっても上の図で終わっているか、それ以上に技術がありそうな人はノウハウは公開されてないので自分で調べるしかないわけです。そこで海外を調べていて見つけたのがこれです。

http://tangentsoft.net/elec/opamp-linreg.html

このページには素晴らしいことにこの問題に対する回答だけでなく、より高度な回答が乗っています。Walt Jung氏を知ったのはここが最初でした。一番こちらの図に近いのはJung氏の1995年の成果です。私はこれをJung95とよんでいます。これを見ると出力トランジスタに定電流回路をつないで電流を供給すればよかったわけです。実際に試してみると起動に成功します。まさに頼るべきは先人の知恵ですね。

しかしそのような些細な改良よりも特筆すべきはJung氏の2000年の回路で、これはオペアンプの電源まで出力トランジスタの後ろからとっています。これを試しにシミュレーションすると次のようになります。

reg3

あともう一歩だった低域の特性が最低周波数までゲインが伸びました!オペアンプの特性がそのままノイズ抑圧に生かされています。ここまでやってようやくレギュレータとしては一人前ということなのかもしれません。ツェナーダイオードを使ってオペアンプの制御電圧をスイング電圧の範囲内に見せかけるという高等テクですね。プロの方からしたらそんなに高度じゃない技術なのかもしれませんが、これを知った当時はすごく感動しました。

でも海外を調べていると、実はWalt Jung氏よりもずっと昔にレギュレータの最終回答に近い回路を作成していた人がいました。その回路図を紹介します。1977年に発表された金田氏の回路とのことですが、この時点でJung2000の最終回路と基本のアイデアは同一です。1977年というと私が生まれるより前です。このような昔にこれほどのアイデアがあったこと自体も驚きなのですが、この情報が海外にはあるのに発案元の日本で検索しても全然見かけなくなっているのは非常に残念に思います。なぜこれが廃れてしまったのか不明ですが、古いオーディオ自作の方ならきっとこのあたりの事情はご存知のことでしょう。

余談ですが、オーディオデザイン社の安定化電源はこの金田式回路がベースだと思います。今はなくなってしまったのですが古い電源基板の資料の写真を見ると部品構成がよく似ています。

kaneda_jsr

さて、実際に組み立てたJung2000レギュレータの基板は次のとおりです。

IMG_1479_R

この時点ではLM317は省略されていますが、それでも以前の普通のオペアンプレギュレータと比較してすごく自然な音でリラックスしています。もちろんハイスピードで透明感が高いというオペアンプレギュレータの特性も維持されていますが、その上で力んでいる感じが全然なくなったということです。やはり特性がなだらかになると、音も素直になるということでしょう。これはいいですね。

Jung2000式の最大の利点は実はお気楽式の回路図に乗っていた100pF等の位相補償を外しても、超高速オペアンプを使用したときに安定しているということです。このように以前よりも安定した理由はJung2000の回路図のNFB抵抗にパラで入っている100uFのコンデンサで、これが位相補償として大きな効能を果たしているのだ思われます。実はこのコンデンサは同時に低域の特性の補助も果たしています。この辺りはぜひシミュレーションで実験してみてください。デメリットの殆ど無い解決方法です。これにより中途半端な100pFの位相補償は不要になりオペアンプの高周波特性を落とすことなく安定できるようになりました。これは実に素晴らしい解決方法です。

まだまだ限界は遠かった

音質的にはこれで十分かと思われたのですが、この後重大な事件が起きます。それは友人が遊びで試した二段レギュレータです。話を聞けばこれによってかなり音が良くなったとのこと。こちらもJung2000式に変えてかなり良くなりましたので実際に比較してみることにしました。ちなみに二段レギュレータとはお気楽式のレギュレータを二段構成にしたすごい単純な力技です。例えば18Vから15Vへ一段目、12Vへもう一段同じものを重ねただけというわけです。

技術的にはJung2000式のほうが高度だし音もいいんじゃないかと思ったのですがそうでもありませんでした。

なんとJung2000よりお気楽二段のほうがずっと上でした。こんなことがあるんですね。なんといったらいいんでしょう、ローノイズで非常になめらか、かつ透明感も上で、細かい音がすごくよく聞こえます。この時の衝撃は大きくて今でも印象に残っています。これはどう聞いてもクオリティは二段のほうが良いです!もともと双方の自作品の音質は設計も似ているし大差がなかったので、まさにこれは電源による違いということです。

そういえば、Jung2000は本当のオリジナル回路は入り口にLM317が入っています。これを含めてシミュレーションしてみます。

reg4

更に特性が伸びました。でも-200dBなんて違いがあるのだろうかと思ったのです。二段レギュレータがすごいなんて言ってるのは余り見たことありません。(ここくらいでしょうか?)なので最初に組み立てた時はLM317は別にいらないかな?と思って省略したのですが、二段のレギュレータの音質を聞いて実はこの-200dBの領域での違いが重要だったのではないかと考えを改めました。

IMG_1547_R

実際にLM317を実装してみると二段レギュレータの音質に近い感じになりました。やっぱり違いますね。オーディオ恐るべし。なめてかかるとすぐに反撃に合います。これで十分、これでもう大丈夫ということはないようです。友人が二段レギュレータを試したのでこのような違いに気づくことが出来ました。改めて感謝したいところです。

最終的な音質はボリュームなしなのが前提ですが(当時としては)殆ど完璧と言えそうな音です。LME49990等の忠実系オペアンプを電源に使って、アンプ側をディスクリートアンプにするとそれはもう(当時としては)至高の音質でした。実際に市販品と比較してないのでなんとも言えないのですが、このレベルならそこそこ高い製品と比較してもいい線いってるんじゃないかとか考えたこともあります。どうだかわかりませんけどね。まぁこのへんは全部当時の話です。今思えばまだまだだったなと思うのですが。

なんだか自作ヘッドフォンアンプの記事というより殆どレギュレータの記事になっていますが、音質面ではレギュレータのほうが重要でしたので、実はこの記事配分はすごく正しいかもしれないです。オペアンプの交換だけでも音は違いますし面白いのですけど、それじゃあ限界を超えるような違いにはならないのです。正直な話ここまでやって思うことは普通の3端子レギュレータを使っているだけの製品とかはもう絶対に買いたくないということです

 

オーディオトップに戻る