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藤原さんのWM8741キット


ついにDACの自作にチャレンジです。とは言ってもこの時点ではDACの技術的知識がほとんど無しだったので、まずはキットで動作を見ることにしました。購入したのは有名なお気楽さんのキットです。WM8741を選んだ理由は当時カプリースとLinnのAkurate DSのDAC部を同じアンプで比較する機会があり、その圧倒的な音質を聞いてしまったからです。当時の話はこちらの記事に書いてあります。

http://easyaudiokit.hobby-web.net/bekkan/manual/RenewDAC8741-15Manual.pdf

最新のものはV2みたいですが当時はV1.5でした。この回路図を見て、DACの部品構成が思った以上に単純だったことに驚きました。かいつまんだ知識だとDACにはPLLクロックとかで44.1系、48系の水晶やロジック回路などが必要なものだと思っていたので、このようなICのみで構成されていて水晶すら使わないシンプルすぎる回路に驚いたものです。

まずは普通に組み立て

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普通と言っても電源はオンボードの三端子レギュレータは使っていません。Ucdインテグレート2で作成した自作基板のJung2000相当のレギュレータ部分を利用して+-12V、Jung95相当のレギュレータ回路から+5Vを作って基板に入れています。電子ボリュームやヘッドフォンアンプの経験から考えて、レギュレータの質は絶対に無視が出来ません。3.3Vはデジタル用なのでとりあえずこの時点では三端子のレギュレータICを使っています。

さてこれだけの構成ですが、これで音はちゃんと出てきます。DACとしての機能はこれだけのICで実現できるのでした。調べてみるとCS8416というデジタルレシーバがSPDIFからきちんとDACに必要なクロックを生成してくれるみたいですね。非常に手軽で便利なICがあったものです。そのかわり後の測定では手軽さのかわりにジッター性能に問題があることが判明しますが。

ちなみにこの時点での音質はちょっと常用は厳しいかなというレベルでした。電子ボリュームを試した時みたいなどうしようもない音ではないのですが、カプリースと比べるとクオリティ面でかなり負けています。温かみがあって雰囲気のある音ではあるのですが、特に分離がいいわけではないのでちょっと篭っている音質です。やっぱりAkurateDSのような音は簡単にはでないということです。当たり前ですけど。

音質面では満足ができませんので、ここから改良、色々と実験をしてみます。

フィルタ回路を変更

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記録が残ってないのでどのようにしたのかハッキリ覚えてないのですが、まずは抵抗の悪影響を減らすために抵抗値を大幅に低くしたフィルタ回路に変更しました。シミュレーションデータや回路図が残っていたらよかったのですが、これは残っていませんでした。でもシミュレーションで特性を検証した上で定数を変更しています。

抵抗値の減少によって音質は良くなりました。でも差動合成後の高周波ノイズはハッキリ残っています。このあともフィルタ回路の定数変更や出力に二段目のフィルタ追加等いろいろ試しますが綺麗にノイズを無くすことは出来ませんでした。リード部品での実装は限界が有るようです。低抵抗で高周波を除去する場合はコンデンサの高周波性能と実装が大事ということかもしれません。

ディスクリートアンプにしてみる

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フィルタ回路をディスクリートアンプに変更します。さらに出力にもう一段バッファアンプを挟んで駆動力を上げてみます。バッファアンプは右側の基板に実装してあります。ダイヤモンドバッファ+オペアンプという回路です。極普通の回路ですね。

一応出力バッファ回路を貼っておきます。図にあるリレー回路、DC検出回路はここでは使っていません。あとNFBの戻りはMUSES72320用の基板だったので基板上にはルートが存在しません。ので自分で抵抗を追加して実装しました。上の写真の右側の青い抵抗が外付したNFB抵抗です。

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これも少しだけ効果がありますけど、正直音質面では大差はないです。すごい音が良くなったという感じはありません。

基板の高周波ノイズ対策

実際に基板の上をあちこちオシロスコープで測定してみると、高周波のノイズが各所に残っていて、これが音質に影響を与えている可能性があります。この辺りも対策してみます。高周波ノイズは基板設計もあるのですがIC直近のコンデンサがGNDへの結合が弱いから起きることが多いのでGNDへのバイパスを増やして対策します。といってもこの頃はまだちゃんとした知識やノウハウもなかったので、とにかく観測されるノイズが減るように色々試します。

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CS8416のデジタル電源にLCフィルタを追加、CPUのコンデンサの位置を変更、WM8741のGNDのバイパス経路を追加するなど色々やっていますが、オシロスコープでのノイズは確実に減ってるものの、なくなりません。観測できるレベルのノイズは残ります。バイパスはリード線自体のインダクタンスがあるため高周波への効果は限定的です。音質も変わるには変わるのですが、すごく良くなったという感じじゃありません。このくらいの対策では大きな効果はないようです。

レギュレータを追加

次の対策はCS8416専用のレギュレータを追加です。3.3VがCPU、CS8416、WM8741で兼用になっているので、CS8416専用のレギュレータを供給してみました。

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手持ちのLM317で3.3Vを作ります。これはすごく音に効きました!もちろん測定上のノイズもCS8416周りでは大分減っているのですが音質はオシロスコープでのノイズの見た目以上に変化しました。これまでの対策で一番の向上です。電源の重要性を改めて感じました。

レギュレータ強化+自作ディスクリートアンプ投入

電源が効果的なことがわかったので残りの3.3V電源も強化します。Jung95式の3.3Vレギュレータをユニバーサル基板で実装して最短距離で載せます。さらに自作のディスクリートアンプ基板を作ったのでそれを載せています。見た目はかなり別物になってきました。

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Jung95レギュレータはかなり効きました。ディスクリートアンプも効果があって音質を向上させていますが、それでもトータルではやっぱりカプリース直出しのほうが音質はいいですね。WM8741自体の音の傾向というのでしょうか、緩めでやわらかい音質は好ましいのですが、ここまで対策をしてもどうしても最後の音質で頭打ちな感じは否めません。

正直ここまでで、この基板で出来る対策は大体出尽くしたと思うので、残りの課題は本当の自作基板にチャレンジすることで今後改良していくことになります。自分の求める仕様の基板は売っていませんので自前で設計をするしかありません。また、ここで登場したディスクリートアンプ基板については長くなるので別項目で詳細は載せます。

デジタルボリュームと音質

最終的な音質ですが、カプリース+内蔵プリよりは良いけど、カプリース直出しには負けるという位の音質になりました。カプリース内蔵よりいい理由はやはりボリュームの差でしょう。オペアンプの差よりもボリュームの劣化のほうがずっと大きいわけです。カプリース内蔵のアナログボリュームによる劣化はDACの順位を逆転させるほど大きかったということです。

実際WM8741の方は素の実力ではカプリースには及びませんが、アナログボリュームがないので音の劣化が大分抑えられておりボリューム可変の実用面を考えるとこちらのほうが使い勝手も良いです。世間では嫌われているように見えるデジタルボリュームですが、実はデジタルボリュームが悪いという話はデジタル領域でデータが変わっているという単なる先入観で悪いと決めつけているだけで、低級のアナログボリュームなどよりはずっと音質(分離、ディテール)がいいようにしか思えません。このあたりは耳で聞いた限りではそういう結論になりました。もちろんデジタルボリュームは劣化がないという話ではありません。程度の問題です。

でも現代のDACならデジタルボリュームがそれほど悪くないということは理屈でも説明がつきそうです。WM8741のデジタルボリュームの演算は24bit以上で行われているはずです。大抵の音源は44.1kHzの16bitですから、16bitの音源を24bit空間で多少ボリュームダウンしても、ビット欠けは24bit中8bit分減衰するまでは起きないはずです。要するに8bit分(音量で-48dB程度)減衰の時点でも残りが16bitありますから、この時点でまだビット欠けは起きていない、16bit音源の情報量は維持されているということです。

デジタルボリュームはビット欠けがあって悪影響~という話はよく見かけますが、それはデジタルボリュームの内部精度が低い時代の話だと思います。16bitの演算ではデジタルで音量を落とすと情報量がかなり削減されてしまいますが、現在のDACでそのような低ビット数のデジタル処理をしているものはありません。時代は変わったということでしょう。注意すべきは24bit音源の場合は24bit空間でビット欠けが起きるということです。なので24bit音源等ハイレゾで評価する場合はまた話が変わるでしょう。大半の音源が16bitと割りきった時にデジタルボリュームの意義があると思うところです。

まとめ

ここでのポイントを纏めます

  • DAC周りの電源は重要、CS8416等デジタルICでも電源で音質は変わった
  • DAC周辺基板の設計はうまくやらないと、ただベタアース+チップコンデンサを使っていてもノイズが残る
  • フィルタ回路は定数だけ正しくても高周波ノイズを綺麗に取るのは(おそらくリード部品では)難しい
  • デジタルボリュームによる劣化は思ったよりも少ない。16bit音源では特に優位性がある。

 

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