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ついに自前設計のWM8741DAC

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お気楽オーディオの基板でDACの基本を学びました。ですが色々と自分で試してみたいことがあったので基板を自前で作成することにします。ここで試してみたいことは次のとおりです。

  • 面実装抵抗を使ってリファレンスのフィルタ回路を試す。これでTHD特性とノイズ特性が向上するのかどうか。
  • DACIC周辺のノイズを減らす設計ができるのかどうか。
  • デジタル用のレギュレータを多系統にしてみてその効果を試す。
  • CS8416よりロージッターのデジタルレシーバを試す。
  • レギュレータを負荷に近づける

このなかのリファレンスのフィルタ回路というのはデータシートにあるこれです。

wm8741-2

説明には抵抗によるジョンソンノイズを減らすように注意深く設計されているとあります。オペアンプの選定もフィルタを駆動できる能力があり、3nV/rtHz以下のものが推奨ということのようです。低抵抗を目指すことは音質理念と一致するので是非試してみたいところです。

デジタルレシーバはDIX9211を選定します。高機能で50psとジッター性能も高いからです。使いこなすのは大変そうですがとにかくやってみることにします。

基板設計

ソフトはDesignSparkPCBを使っていますが、実はこのとき初めて自分で配線を引きました。これまでに作ったものはオートルータを使っていたのです。しかしDIX9211のピンピッチが狭いのでオートルータがうまく動きません。また理想の配線をするためにはどうしてもオートルータでは無理なので自前配線です。回路図は拡大できるようにPDFで置きます。

[testDAC – Schematic]

アートワークはこんな感じです。一応外部LCDとか、多系統入力とか検討した配置になっています。当時は経験がまだまだ少なかったので当然ですが、今見ると未熟ですね。

ベタアースはこの当時すごく悩んだのですが外部フィルタの境界でスリットを入れています。本当はDACのICはアナログ側ですね。これはADコンバータでの話ですがDACでも変わらないはずです。この話は偉い人が言っているのでそうなのでしょう。ですがしばらくはこんな感じの設計です。ですが実はこんな適当なGNDでも測定上のS/N性能はそれなりに出てしまうのでDACの場合はそこまで神経質ではなくても大丈夫のようです。

またデジタル用の外付けレギュレータの配置はICの直近にしてあります。このあたりもお気楽基板ではどうしても長距離の取り回しが必要だったので自作基板だからこそ改善できる部分になります。

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実装とソフト作成の注意点

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組み立てた図です。初作成の割にハードウェアは明らかなミスもなくほとんどすべての機能が動きました。やはり回路図とPCBが連動できるのが最大のメリットでデザインルールチェックを通れば回路図やパーツデータのミス以外は回避できます。

恐れ多くも下に敷いているのは黒田先生のアンプ本です。もちろん古い版のものじゃなくてオンデマンド印刷の新しい復刻版です。ディスクリートアンプで詰まった時にこの本見ると大抵の答えが書いてあるので凄い本なんだと思います。でもいきなり読んでも全然わかりません。シミュレーションでさんざん遊び倒してから読むとなるほどってなりました。数式がどうしても苦手なので真理を理解するのは大変難しいです。

話がそれました。

DACの隣の基板はDAC基板と合わせて発注しておいたJung2000レギュレータ基板です。写真で見るとすんなりここまで動作させているように見えますが、ここまででかなり苦労しています。一番ハマったのはWM8741のI2C制御で、データシートを注意深く見ないと見落としてしまいます。普通のI2Cと違ってアドレスをビットシフトしないと動きません。ソース抜粋するとこんなかんじです。

この書き込みアドレス入力の行が他のI2Cと違いますので注意したいところです。 ここをクリアできればあとはソフト作成で引っかかるポイントは無いはずです。

性能測定

期待のWM8741リファレンスのフィルタ回路ですが、差動合成後の出力を観測するとほとんどノイズがありません。オシロスコープでは観測できるようなノイズがないので課題の一つはクリアです。これは期待通りの性能でした。面実装が効いたのかリファレンス回路が良いのかはわかりませんが。

もう一つの課題のDAC付近の端子のノイズはアナログ側はクリアですが、デジタル側の端子がノイジーでした。このあたりは課題が残りました。

実際のFFTの測定データはこちらのような感じです。50Hzのリップルが少し残っていますが、他はかなり綺麗になりました。WM8741自身がそれほど高特性のICじゃないのでTHDはこれくらいが限界のようです。お気楽基板の時より少し良い程度です。問題は下のジッター性能で、側帯波が結構大きいですね。側帯波はジッターの量を示します。この測定方法だとCS8416と大差ありませんし、この結果もあまり良いデータではありません。

デジタルレシーバ周りは色々実験したのですが、これはDIX9211だけを使ってもこのあたりから先にはいけません。スペック上はCS8416よりもロージッターのはずなのですが、実際に測ってみると大差はなく理想からはかなり遠い状態です。このあたりについて詳しくはこちらにレポートを作ってあるので参考にしてみてください。こちらの結果も参考になるかもしれません。これ以上綺麗な測定値を出すには何らかの工夫が必要ということです。

DIX9211WM8741_THD DIX9211WM8741_jitter

音質と対策

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ここでディスクリートオペアンプを投入します。やはり音質のクオリティは上がります。ですが消費電力が大きくなってしまいトランスのサイズが足りないことがわかったのでここでトランスを大きい物に交換しました。これで電圧降下は想定内に収まりました。

この時点でも音質はなかなかのものだったと思いますが、実はこの写真の時点では大きな問題が残っています。最初に鳴らした時はこれでも結構いいかなと思ったのですが、実はデジタル電源が一つだけLM317です。DAC用のアナログ電源と、デジタルレシーバ用のアナログ電源を高性能レギュレータ(Jung95式)にしてあるのですが、CPUとかVDへの供給用がLM317です。

実はこのレギュレータをJung95式の基板に変更したら凄まじく音質改善しました。ということでデジタル用と言っても手を抜くことは許されないのでした。この電源を差し替えてからは相当よくなった記憶があります。この時点でぬるい部分もありますが、カプリースの直出しとなんとかどっこいどっこいで比較できるレベルに到達していたように思います。実際に内部設計もICこそ違いますがカプリースの売りの部分と同様の、独自のディスクリートオペアンプ+高性能レギュレータで設計思想も似ていますしね。あとはジッター性能が課題でしょうか。

世間ではES9018は凄いという意見もありますが、LINNのAkurateDSがカプリースを余裕で上回ったという事実が自分の中にはあるので、DACのICは音質の決定的要因ではないということを目の当たりにしたわけです。WM8741でもポテンシャルを追求していけばLinnのような音質に持っていけるはずなわけです。

ジッタークリーナ投入

測定でジッター性能が悪いので音質がどれだけ良くても気に入りません。もっとよく出来るはずというのが残ります。そこで当時リリースしたばかりのジッタークリーナ基板を買ってみました。またお気楽キットのお世話になります。なんだかんだと色々痒いところに手が届くキットが揃っているので人気の理由もわかりますね。

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さて、つないでみました! 音は出るんですけどジッタークリーナはちゃんと動いていません。何故でしょう?半田や周辺回路も見なおしたのですが結局何度やり直しても動作せず、残念ながらジッタークリーナの威力はわからず仕舞いになりました。原因は半田のミスか何かだと思います。だんだん動作がおかしくなっていって、最後はジッタークリーナのICも壊してしまったような気がします。

ということで残念ながらジッター対策は新しい基板を設計して、デジタルレシーバ周りを見直すことで対策することにします。

まとめ

ここでのポイントを纏めます。

  • 面実装のフィルタ回路は高周波の観点では有利。少なくとも基板を変えてから残留ノイズが明らかに減った。
  • DIX9211はロージッターを謳っているがJ-testではジッターがハッキリと残る。
  • デジタル側であってもレギュレータの音質への影響は非常に大きい。
  • ジッタークリーナキットのハンダ付けは難しい

 

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