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PCM179xDACも作ってみる


実はPCM179xDACはいくつも作りました。基板だけで3回位バージョンアップしています。しかしすべてを書くととても長くなってしまうのでここでは要点だけできるだけまとめて書きます。シングルPCM1792DACの最終形はこちらの写真です。これでシングルの理想状態に近いものです。ここまで来るのに3ヶ月位試行錯誤したものです。

ここでの対策によって音のクオリティ面ではカプリースはほぼ完全に超えました。でも今から考えるとこの頃の音質はまだまだです!

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設計のポイントですが、次のとおりです。

  • CS8422の内蔵SRCを使いジッターを除去する。デジタルフィルタはミニマムフェイズ。
  • ボリュームはデジタルボリュームを使う。
  • 低抵抗のフィルタ回路を使い、抵抗による雑音発生を防ぐ。
  • I/V、差動合成はディスクリートアンプを使う。精度の個体差は可変抵抗で調整する。
  • フィルタ回路のコンデンサは2%精度のECHU、抵抗も出来るだけ0.1%の抵抗を使う。差動精度維持。
  • 差動精度を維持した状態でDCサーボアンプを使わなければならない。ディスクリートアンプではDCサーボが必要。
  • レギュレータはJung2000とJung95をベースとしたものを基板上の直近で配置。
  • Jung95は一度7809を経由して二段レギュレータにする。
  • レギュレータの供給系統を音質のために最適化する。
  • コンデンサを増量せずに電源トランスは大きめのものを使う。

これは全て色々と試した上でのベターな結論です。この項目で必要と思われるものに解説を付けます。過去に触れているものについては書きません。

差動精度とTHD特性

データシートに近い歪率を得るためには差動精度が大変重要です。1%抵抗と、0.5%抵抗と、0.1%抵抗を差動回路使った場合では最終的な歪率特性には大きな結果の違いが出てきます。具体的に経験則で書くと、THD+Nで0.001%を切ろうと思ったら0.5%以上の精度の抵抗が最低でも必要です。1%の抵抗を使った場合だと0.001%を切るのは運次第となります。それくらい差動精度は高特性をひねり出すために重要です。

コンデンサの場合も同様で、精度の低いコンデンサを使うと測定値が劣化してしまいます。ただしコンデンサは5%を切るものを探すのは難しいですがECHUは2%精度のものがあります。ここでECHUを使った理由は差動精度が優先です。

この辺りの情報が意外と見つからないので自分で歪率を確保する方法を試行錯誤で調べていたら凄い時間がかかりました。このへんは言うまでもない常識だから誰も言わないだけなのでしょうか。とにかく精度を考えて設計と部品選定をすればDACは意外と素直にデータシートに近い特性を出してくれます。

差動精度を維持したDCサーボ回路

抵抗とコンデンサの精度にこだわるなら、DCサーボ回路の精度もこだわらないといけないところです。ですがこのように普通に差動回路にDCサーボをつけようと思うと差動の精度が狂ってしまいます。

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実際にシミュレーションで、OUTの+-から同相ノイズを流してどうなるのか見てみましょう。

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DCサーボで差動のバランスが崩れて上のようにノイズが残ってしまいます。これでは歪率特性も悪化してしまいます。

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今度は回路シミュレーション上でDCサーボの回路を外せばもちろんこのように綺麗に打ち消し合うのですが、かわりにDCが残ってしまいますね。差動のバランスを維持しつつDCを取るにはどうすればよいのでしょうか。+-両方にDCサーボを掛けるのも一つの方法ですが、それだと部品点数がやたらと増えてしまいます。解決方法として美しくありません。もっとうまい方法を探したいものです。

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そこでいろいろ試行錯誤して見つけたのがこの方法です。R1が追加されました。R1はR16とバランスを取っています。NFBの量が変わるので信号レベルは多少下がりますが抵抗値を調整すれば問題はありません。これでDCサーボの機能を維持しつつ差動精度も維持されます。シミュレーションだけじゃなくてこれを実際に組んでみましたが、ちゃんとシミュレーションどおりにDCサーボの機能も維持されていますし、歪率特性も悪化しません。

多分こんなものは古いノウハウだと思うのですが意外とあちこち探しても具体的な対策方法は見つかりませんでした。多分熟練者の方からしたら説明するまでもない基本レベルの事項なのだと思います。

レギュレータの供給系統を最適化する

これはどういうことかといいますと、よく一つのICに2つ以上の電圧供給がありますね。よくあるDACでいえば5Vとか3.3Vとか電圧が違う場合も多いですが同じ場合もあります。今回の構成ではDACがVDとVAでそれぞれ3.3Vと5V、AVRが3.3V、CS8422がVA、VL、V_REGで3.3Vと供給すべき電源系統は沢山あります。これをどのように供給するか?ということです。実はこの供給の仕方によって音質が大きく変わります。しかも良いレギュレータを使うほど供給の仕方によって顕著な違いがあります。まぁ本当は全部の電源系統に専用の高性能レギュレータを入れればいいのでしょうが、ディスクリートの電源回路はそれなりに大規模になりますから全部に用意することは回路規模的にも基板スペース的にも現実的ではありません。ではどうしましょうか。

この部分について私は音質変化の重要な法則を見つけています。

実はいままでデジタル電源をいじって音質が変わっていた最大の理由はデジタル回路とDACの電源を共有していたからです。この部分を共有するとデジタル回路のレギュレータ性能、電源周りの部品構成、周辺回路を変えることで音質は変わってしまいます。おそらくデジタル回路からのノイズも受けてしまい相互影響でDACは最高の音質になりません。ですが正しく対策することでデジタル回路の電源の質を変えても音に全く影響しなくなります。いや厳密にはほんの僅かに変わりますが共用している時を100としたら変化は1くらいになります。これはDACの設計において実はすごい重要な部分だと思います。逆にDAC以外のデジタル電源を変えて音が大きく変わってしまうなら、どこか最適でない部分があるということです。この状態では音質は劣化していると考えていいと思います。

このようにDACの電源を理想状態にすると透明感が凄まじく向上します。そして粉っぽい高域のノイズ感が殆どなくなり空間がパッと広がります。消え入りの音などもかなり明瞭になります。今まで聞いていたのは何だったのだろうというくらい違います。

このような重要な部分に気づいてから見てみると、世の中のキットや自作品、いやメーカ品もそうですが、このような電源系統の最適化対策をしている製品がどれだけあるのでしょうか?少なくとも回路が確認できているキット類でこの部分に力を入れているものは見たことありません。大抵はデジタル電源はマイコンや周辺回路と共通です。メーカーのDAC写真を見てもコンデンサを増量して対策していることが多いです。というわけで殆どの作例で適当に扱われているDAC周辺の電源ですが実はこの部分はめちゃくちゃ音質にクリティカルです。他の回路を共有などしていたらDACの本当の実力は全く出ていないと考えたほうがいいです。

調査した限りで最も理想に近い対策をしているだろうガレージメーカーはあります。それはAIT Laboです。本家のHPに堂々と証拠画像があります。明らかにセパレートの部品でレギュレータが構築されています。この実装点数とICの見た目から判断するとオペアンプを使った高性能レギュレータだと予想します。こちらの電源に近い構成ならトランジスタとTL431とオペアンプと抵抗とかそのへんでしょうか?違うかもしれませんが似ているはずです。

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他にもSAYA等も多系統レギュレータによる音質対策をしていますが、普通のICレギュレータなので音質的にはあと一歩だと思います。ちょっと違いますがトランスによる分離で同じようなことを試しているのは別府さんCoCoパパさんでしょうか。とにかくオーディオではこういう電源分離は音質に大きな影響があるということだとおもいます。でも高性能レギュレータで理想追求をやっているのは知っている限りはAIT(と自分の作品)だけです。彼らの音質評判が非常にいい理由はFPGAによるジッター対策が理由だけではなくて、多分このレギュレータとDACの電源設計が理想的な状態になっているからでしょう。このような対策をやっているメーカは非常に稀ですからそれだけでも相当の優位性があるはずです。

なぜこのような音質変化が起きるのか。これは恐らくICオペアンプの限界と同様の半導体の電気的不完全性が原因だと思っています。とくに最近のDACは内蔵でデジタルフィルタやデジタル処理のための回路が含まれています。この内部のデジタル回路の動作ノイズが同一半導体を通じてアナログ側の回路に影響を与えている可能性があります。それがレギュレータによって強制的にノイズがキャンセルされ半導体上でローノイズが保たれること、さらには外のアナログ回路への影響をなくしていること、この辺りが音質変化の理由だと思います。なので同一半導体であることが原因でデジタル電源でありながらも実際の音質と切っても切れない関係にあるのだと思います。この半導体の不完全性はChordも認めているようです。

ここから考えてみると例えばPCM1704の音がいい理由、FN1242セパレートの音がいい理由、DSDの音がいい理由。このあたりもDAC内のデジタル回路と関係がありそうに思います。PCM1704はデジタルフィルタが外付けなので同一半導体にデジタルノイズ要因がありません。FN1242セパレートは動作をDACとデジタル処理で分割します。DSDはIC内部のデジタル回路の動作演算が減るのでシンプルなDACそのものの動作に近づいて音質が向上するという可能性があります。ということでどれも共通しているのは半導体の内部ノイズの影響が少ないことが高音質の理由ではないかと思っています。電源が弱いほどこういうICの機能ごとに分離する音質向上が大きい筈です。

逆に電源を理想状態で供給したDACではDSDとPCMの音質差はほとんどありません(方式による音質傾向は存在するが優劣にならない)し、MSBDAC等ディスクリートマルチビットと普通のICデルタシグマDACを比較しても音質はさほど変わりませんでした。対策が甘い状態ではMSBのディスクリートDACとICDACには大きな格差がありました。電源次第でその差は大きく縮まるのです。半導体の不完全さという説は発想の飛躍しすぎの可能性もありますが、これまでの幾多の試聴結果から判断して可能性として十分考えられるのではないでしょうか。

電源トランスは大きめのものを使う

よくコンデンサを山盛りにする事例がありますが、少なくともプリアンプとDACで検証した限りトランスが弱い状態でコンデンサの増量をしても音は良くなりません。このあたりは主に低音に効く箇所ですが、次のようなDACを作りましたが低音はこのページの一番上のタイプに負けています。

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見て分かる通りコンデンサはこちらの写真のもののほうがずっと多いですけど、このようにいくら増やしてもトランスが弱ければしっかりした低音は出ません。なんか無理やりひねり出してるような音にはなりますが圧迫感があってあまり好ましい音じゃないです。このようにするくらいなら素直に最初からトランスを大きくしてコンデンサを適量にしたほうがスッキリしているのにパワフルで気持ちのよい音になります。

ということで最後はトランスの大きさが重要ということです。特性とかノイズとか全く測定してもわかりませんが音は違います。シミュレーションで計算しても無意味のようでも実はトランスのサイズで低音の質感は変わります。ちょっと考えるとDACもプリもそんなに電気は食わないはずですし、音は変わらないと思ってた時期もあったんですがそうでもないのです。音は違います。

TADがプリに400VAのトランスを採用している理由もこのあたりの低音の音質変化があるからでしょう。実際TADの音は揺るぎない低音が特徴に聞こえます。このように一見無意味に見えるあのような暴力的な物量もオーディオの音質面では無意味ではないということです。この辺りは理屈だけでは計れないので耳を信じることも大事なのではないでしょうか。面白いですね!

まとめ

ここは重要なノウハウが多いですが、項目のまとめ自体は一番上にあるのでそちらを参照してください。

 

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