きっかけ
最近は特性値がとても優秀な中華製品(DACやヘッドフォンアンプ)が流行っているようです。ちょうど海外のAudio Science Reviewの影響もあってそこに中華メーカーが特性重視で開発した商品を非常に低価格で販売していて、低価格帯で良い性能を求めるユーザー層と試聴せずに売る販売業者の組み合わせが良いのか、話題をよく見かけるようになりました。実際にAudio Science ReviewのDAC製品SINAD(歪とノイズの少なさの指標)ランキングを見ると上位はほとんど中国製品です。以下の赤丸が中華系と思われるメーカーになります。
しかし最高の測定値をもつ製品が実際の音として最高なのかどうか、測定ではない市場での音の実力についてはなかなか見えてきません。理由としては中華DACは低価格帯が中心なのでミドル~ハイエンド系の製品層とまったくユーザー層がかぶっておらず、そういったユーザーからの中華レビューはみかけないですし、逆もしかりです。実際にレビューを検索しても両方の視点から捉えた製品の実力はまったく見えてきません。
そこで当サイトでは出来る範囲で様々な特性値、価格帯の製品を交えて比較評価をしてみたいと思います。前半は聴感レビューを中心に、後半は測定値や録音を交えて主観と客観の両方から製品の実力について迫ってみようと思います。
比較製品
ヘッドフォンアンプ
- Topping A90
- Drop THX 789
- Antelope Audio Amari
- Mytek Manhattan2
- Chord DAVE
- 自作HPA
DAC
基本的にDACの比較は内蔵ボリュームが有るDACはDAC出力から自作HPAまたはスピーカシステムに接続。ボリュームがないDACは共通プリアンプとしてmakuaに他のDACも接続して同条件で比較するようにしています。スピーカはEstelon XBで、パワーアンプはNcoreを使っています。
- Sabaj D5
- DENON DA-300USB
- Gustard A22
- Antelope Audio Amari
- Lavry Engineering DA924
- Mytek Manhattan2
- Mola Mola Makua
- AK4499DAC 4parallel
- T-DAC
おまけ(他所環境での聴感レビューのみ、測定値なし、信頼性がやや低い参考事例程度)
- Esoteric Grandioso D1
- CH precision C1
過去記事も合わせるとChord DAVE、dCS Delius、SONY PCM-501ESとの比較による傾向も見えてくると思うので参考にしてください。
画像で引用しますが、以前の比較チャートはこのような傾向でした。これも参考にして比較記事を見てください。
各製品の音質的印象
Topping A90
透明感はあるが、駆動力はない印象です。単体の音的な癖は少なく音楽というよりは音そのものの分析用途では使いやすい製品だとは思います。価格帯性能比は優れており、接続された機器の音をそのままだす傾向が非常に強いのでDACの比較評価用としても優秀です。とはいえ駆動力が低いため低音は弱め、DACの真の駆動力の比較には向いていません。駆動力を無視すれば大体のDAC性能を比較することはできます。奥行きや高域表現は比較しやすくこのあたりは測定性能と相関性が高い部分です。
リスニングオーディオとしてみると一気に評価が変わります。中高域にかなり神経質な帯域があって心理的に焦燥感を掻き立てられます。これは言葉で説明するのは難しいですが経験的に最も近いのは発振しかかっている回路の音です。位相余裕が少ない回路はこのような独特なピーク感のある音になることがあります。ですのでA90ではリラックスして音楽をきく方向ではなくて神経質な分析者という方向性と思いました。低音ももともと余裕がない(電源回路が貧弱)ので大半の音楽で重心が高めになり上記のピーク感ばかりが目立つ結果になります。
おそらくですが性能だけを追い求めた結果だと予想します(そもそもリスニングテストなどやっていない可能性も)。どこまでも測定での高特性を狙うと、下記THXと同様にバッファ出力からのフィードバック量を通常のオペアンプでは不可能なくらいまで増やす多重帰還的な設計になると思うのですが、その性能を追求しすぎたせいで回路的な位相余裕が少ないのかもしれません。
実際に100k矩形波を入れてみると発振はしませんでしたが波形の立ち上がりにはわずかなオーバーシュートがあります。十分安定していますが、さらにオーバーシュートを調整したら聞きやすくなるかもしれません。こういう部分はオーディオ帯域の測定では見えませんが音は違います。なぜかはよくわからないのですがアンプを作ったことがある人ならなんとなくわかると思います。
結果から言えば測定用途だったり機材の評価や比較には向いている製品で純粋なリスニング用ではないと思っています。測定特性はこれを通してもあまり劣化しないのでADCのプリアンプ的に使ってDACのノイズフロア特性を確認する用途だったり、DACの低い領域の歪み率を評価するために増幅する用途にはとても良いです。機能的にはRCAもXLRも入出力ができて、高特性なプリアンプとしても使えるのでとても便利です。
音的にはパワーは絶対的に不足してますが、せめて高域のピーク感がなければもうすこし評価できたと思います。個人的には性能は犠牲にせず、もう少し聞きやすい方向性に調整したいと思っているので後で蓋を開けて改造しようと思います。
Drop THX 789
性能的にはA90と似てますが音質傾向は結構違います。この点からも測定値は目安でしかなくて、リスニング用としての傾向評価ではあまり当てにならないです。総じて癖が少なく透明感があるのは高特性の特徴ですが高域の質感と駆動力の評価は測定では見えにくい傾向があると思います。
A90比では本機は柔らかめで厚みがある方向性に聞こえます。そのかわりA90比でDACのキャラクターがややわかりにくくなる傾向があり、背景の細部の情報が消えて見えなくなります。DACを評価するにはSN性能や高域のレンジ性能が不足しているためでしょうか。低音の余裕というか駆動力はA90よりあります。リスニングで長く使った後に文句が出にくい音はこちらだと思います。特に長時間流して聞く用途ならこちらのほうが向いていて疲れにくいです。こちらは性能だけでなく音を聞いて設計した可能性がありますが、A90は本当に音を聞いて設計したのか疑問なくらいきつい音がします。
測定性能的には少しの差ですが上記のように結構な差があります。リスニング用としてはそれなりなんですが、より高級機と比較するとヘッドフォンを駆動し切るような駆動力は全くなし。細部も見えないしプリアンプ機能もなくHPAとしても機種評価に向かないので個人的にはA90を残してこちらを処分する方向になりました。現在は手元にはありません。
その他ヘッドフォンアンプ
リストに自作HPA、Manhattan2、DAVE、Amariを書きましたので、これらについては簡単にまとめます。この中では駆動力は自作HPAが別格で高く、次がManhattan2です。あとのDAVEとAmariは若干Amariが有利かな、というくらいのレベルです。ただしDAC一体型での試聴はDAC自体の性能の影響もあるのでなかなか判別が難しいです。そして上記の専用HPAであるA90やTHX789はDAVEやAmariと比べてもちょっとぬるい音です。このあたりの製品は正直駆動力があるHPAと比較したらすべて大差ないです。大抵のDAC付属のHPAはそんなに駆動力がないものです。この中だとManhattan2が一番専用HPAに近いとは思いますが比較すると届いてないと思います。
駆動力が不足しているときの出方は大抵は低音が薄かったり音が柔らかかったり中低域が濁ったりという現れ方です。こうなるとリズムが正確でなくなるので音楽を正しく再生できているとは言えない状態に少し近づいてしまいます。少し下手というかルーズな演奏に近づくわけです。
アンプは電源がとても大事なので、筐体が超小型だと駆動力を出すのが難しいです。大きい筐体でも内部写真を見て小さいトランスなら駆動力は出ないです。この電源定格=駆動力は結構高い相関性があります。もちろん回路次第なので電源だけ大きくても駆動力がないことがありますが、小さいトランスで駆動力が出ることはほとんどないというか、実際にそういう製品は一度も出会ったことがないのでこの判断方法は高い確率で当たるでしょう。AudioScienceReviewを見ても駆動力については何もわかりません。上記のTHXやA90、後述するD5とA22も良い事例かと思います。
参考までに私が駆動力があるHPAだと思っているのは、GoldMundのTHA2、マス工房406、Ojiスペシャルの筐体が大きいモデル(型番不明)、このあたりでしょうか。駆動力があるあらゆる機種を聞いた経験があるわけじゃないので、これ以外にも良い製品あると思いますが自分の中で印象に残っているのはこれらです。あとはDAC一体型で駆動力があった機種だと、ReLeaf E1Rで周波数特性が変なバランスになるのですが駆動は良いです。dCS Bartokは低域盛りすぎですがこれも良いです。多分どれも測定値自体はA90より悪いでしょう。でも音は測定値とは全く異なる意味で悪くないです。
Sabaj D5
透明感があり透き通っていて、柔らかめで掴みどころのない音です。駆動力はあまりないですが低音はそこそこ安定感を感じさせる程度に出ています。変な癖や嫌な音はしません。高域は実はちょっと荒いですがより良い機種と比較しなければ気になりません。中華の廉価品で高特性というとだいたいこういう方向性ですね。
この製品は良い部分も悪い部分もある程度経験がないとつかみにくいです。逆に言えばバランスが良い音です。なのでオーディオに入門として推奨できる機種です。どんな音楽も偏りなく鳴らすことが出来る基本性能がありますので、とてもバランスが良く欠点が少ないです。細かい音もちゃんと聞こえるし変な癖もありません。
もちろんこの比較ラインナップではまだまだ課題も多い製品なのですが、ほかはこれよりも高額なものが多く価格帯が違いますから、この価格でこの性能を提供する中華DACはやはり優秀と言わざるを得ません。測定特性は一定の音質性能を提供する指標としては機能しており、低価格帯では測定特性を見て選べば不幸はないと思います。
ただ測定特性は音の全てではないこと、感覚的要素、センスや音楽的な印象、心地よさなどを求めだすと測定特性指標では評価ができない、このことは注意が必要です。たとえば不愉快な音質傾向なのかどうかは聞かないとわかりません。A90はやや神経質な音を出す機材ですが測定性能では心理的効果は判断が出来ません。これは測定値ではわかりません。結局耳で評価をしなければならない部分です。
D5の音質傾向の話しに戻りますが、弱点としては定位は左右も中央も曖昧で、全体的に駆動力があまりない(音が遠く感じる)こと、高域の質感がそっけない上にちょっと粗いところがあります。このあたりが気になってくるとここから上を目指す必要があるのですが、全てを兼ね備える高級機は意外とないため、ここから先は苦労すると思います。どういう音を求めるのか、何が不満で何を確保したいのか、そのかわりに何を妥協できるのか、これがとても大事です。何も妥協できないと上流含めて無尽蔵に予算が消えます。
DENON DA-300USB
ヘッドフォンアンプ部はDDFAらしいので、DAC出力で比較しています。国産低価格の代表としてこの製品を選びました。310の評判が高いのでそちらを探したのですが手頃な中古品がなかったので300です。
典型的な国産低価格帯の製品としては真面目な音だと思います。昔のような厚化粧=低音の量感があって高域に色が乗っている方向性ではないです。だいぶすっきりした音にシフトしてきていると思いますが、Sabaj D5と比較すると厳しい戦いです。正直基礎クオリティはSabaj D5と比較すると何も勝っていないと思います。
この機種の問題はどの楽器も同じような速度と質感に聞こえてしまうことです。中域に音が集まってきてレンジも狭く前後感もあまりありません。バックの音が前に出てくるのでもしかしたら背景音がよく聞こえると評価する人がいるかも知れません。低音もちょっと上の帯域にエネルギーが集まっていてナローなシステムで聞いたら低音が良く聴こえると評価されるかもしれません。しかしちょっとシステムが良くなったらすぐ不満が出てきそうです。要するに「これはローエンド機種だから将来アップグレードしてね」ということなのだと思います。
これらの印象から、ちょうど小さい箱に情報を無理やり詰め込んだような音で、根本的に駆動力がないので音楽として抑揚表現が本当にありません。ぐっと来てほしいところでぐっと来てくれません。ずっと音楽が遠いままです。高域も旧国産系のキラキラ系と違ってそっけない質感なのでボーカルの魅力もありません。このラインナップでしかも絶対性能評価で比較してしまうと良いところは何もありません。絶対評価を度外視してこの機種の利点を考えると、安い性能の悪い小型スピーカで聞いたときに他の機種では聞こえない音が聞こえる可能性がある点です。同価格帯のスピーカとは相性が良いかもしれないということです。上記の小さい箱に音を無理やり詰め込むという表現も低価格スピーカと合わせることを考えると納得もできます。
しかし本気で良い音を探しているなら、これを買うよりSabaj D5位の測定特性の裏付けがある製品まで最初から頑張って行ったほうが良いでしょう。そのほうが後々の判断を誤らないと思います。この機種で音楽を聞き続けると悪い癖が付きます。癖を癖でごまかす聞き方の習慣がつくと、同じような場所でずっと右往左往することになります。それなら最初から一つ高い目線で見渡したほうが目標も見つけやすいし迷いにくいです。この数万円の差額をケチったせいで、その後のオーディオライフで数十万円を失いかねません。(個人的意見です)
Gustard A22
これは他の中華DACとは設計思想が違います。
高特性の廉価DACの内部構成といえば、小型トランス+高精度オペアンプ+低ノイズICレギュレータ、大抵はこの組み合わせで代わり映えしません。高特性な製品であるTopping、SMSL、Sabajは全部同じような製品です。当然ながら無駄を省かなければ価格を安くできません。安さと性能を両立する究極のバランスを追求すると上記機種と同じ設計になります。
しかしA22は大きいトランスを2個、ディスクリート出力段、独自のリクロック回路、デュアルDACチップ、大型コンデンサが並ぶ等、特性至上主義的に見たら無駄に見えるような物量投資をしています。
オーディオはこういう部分がとても大事です。リスニングで設計を決めている証拠です。A22の内部写真を見て以前からこの製品は結構良いのでは?と思っていたのですが正解です。Audio Science Reviewの測定特性ではSabaj D5より悪い結果ですが、音は良いです!これがオーディオの面白いところです。無駄を省き性能だけを追い求めてもオーディオ的にはたどり着けない場所があるということですね。(この喩えが適切かわかりませんが、100km/hで問題なく連続走行できるから軽自動車と高級車は同じであると言われるような違和感です)
この機種の最大の強みは中域駆動力でしょうか。中域は特筆すべきクリアーさ、パワーと安定感があります。中域の描写にはだいぶ余裕があります。低域はトランスらしいややゆったりした質感で高速な低音とは言えないですが中華廉価機種にあるような低域ではなくて、低域の量もレンジも十分優秀な音です。このあたりはSabaj D5よりだいぶ上位機種という印象があります。だから特性は全然当てになりません!ヘッドフォンのところでも書きましたが、駆動力の評価なら測定値ではなくて、内部の写真を見て出力回路の構成と電源回路のサイズ規模を見るほうが当てになります。
A22の欠点は定位がやや中央が曖昧で左右に広がりがちなところと高域がちょっと荒いところでしょうか。駆動力があるのでアタックがややうるさく感じることがあり、高域の質感は曲によって気になります。このあたりがハイエンドDACとはかなり差を感じそうな部分です。ガツガツした曲とはぴったりですが曲を選びます。今回の比較では上流をAmariで統一して接続条件もできるだけ揃えてありますが、この高域の質感は人によってはちょっと不満が出そうです。逆に暴力的に鳴らしたい人にはあっているかもしれません。
低域の性能はAmariより僅差で良い、中域はAmariより明確に良いと言えそうです。なので、中級機を探していてADCがいらない、高域の綺麗さが不要ならAmariの代わりにこの機種を買うのもありかもしれません。価格は1/3ですが性能は大幅に劣ることはない、一部勝っています。これで高域が綺麗だったらすごい製品でした。
A22の話ではありませんが近代的なIC-DACで内部写真を見て下記のようなトランスが1つ乗っているような機種は駆動力がない傾向です。廉価な高特性中華DACでよくある構成です。自作DACでも初期の頃こういうの使っていましたが、定格電流が低い事が多く音的にも駆動力が出ない傾向があるので使うのをやめました。最低でも50VAくらいのトランスがないと安定感のある低音は出ない傾向です。レギュレータでいくらガチガチの定電圧を作っても、もともと入ってくる電流量の差なのか測定上違いは見えませんが音では違いがあります。多分ですが電流特性が音と相関性があるのではと考えてます。
Antelope Audio Amari
製品の価格帯が上がってきました。以前から何度か登場しているAmariですが、この機種の特徴は背景の透明感です。奥行き描写がかなり優れています。実は奥行き描写だけならMakuaより優秀です。ただ問題点は駆動力はあまりないこと、この点ではA22より弱いです。駆動力がないと全体的に音が遠くなりがち、演奏で言えばリズムの正確性、メリハリ、強奏部が弱く感じます。A22は低価格製品なのですがこの部分が例外的に強いです。
Amariの良いところは音作りが巧みで柔らかい駆動力の問題をネガにせず聞き心地の良さに昇華している点があげられます。DAC、HPA、クロック、全部同じ音質傾向なので明らかに意図された音作りだと思います。それは低域が微妙に膨らんでいてベース音域の下支えを感じること、低音は速度と柔らかさを両立できる程度のギリギリの心地よい駆動力になっていること、中高域はスムーズで聞きやすい質感に仕上がっていること、このあたりです。高域は実は描写としては緻密ではないのですが、うるさく感じにくくストレスなく聞ける方向性です。良いケーブルと組み合わせると心地よい高域に変化する可能性すらあります。
この機種にサイバーシャフトの10Mクロックを入れたことがありますが、キャラクターが結構変わります。典型的な高性能DACの音に近づきます。しかし内蔵クロックを使ったときのほうが聞きやすい、ちょうど上記音質傾向と同じような印象でした。だからクロック面でもまったく同じ方向性の音質ポリシーで意図的にチューニングしていると思われます。
あとこの機種がとても優秀なのはデジタルの送り出しです。上流の影響を受けにくくDDCとして使うと実はかなりの高性能です。殆どの専用DDCよりよいのではないでしょうか。手元にX-SPDIF2がありますが音質面では比較にならないです。この製品の音がいい理由はデジタル部の優秀さがあります。今回の比較試聴ではこのAmariをDDCとして使用していますので、他のDACが軒並み底上げされています。実は一般的なDDCをつかって本機と比較したらもっと格差が出てくると思います。高額DACは高額トラポと組み合わせる想定のためか意外とデジタル受けが弱いことが多いのですが、AmariのDDCトラポは結構なハイエンドキラーかもしれません。
だいぶ褒めてしまいましたが、最高の駆動力とか絶対的なレンジの広さ、高域の解像度を求める聞き方だと決して最高性能ではないです。でも意図的な音質傾向は結構よくできているので好みに合えばもうこれでいいとなる可能性があります。意図的な柔らかさの描写が合うかどうかですね。総じて音的なチューニングが統一されており、よくできている製品だと思います。
ということでAmariはDDCとDACとADCを同時に買ったと思えばお得な機種と言えるかもしれません。ADCもリスニングオーディオではあまり出番がないですがとてもいいです。今回の記事ではDACの音質比較のためにAmariで録音しています。Lynx HiloのADCだとどれも同じような質感になってしまいますがAmariのADCだとよくDACの違いを表現できていると思います。
Lavry Engineering DA924
こちらの記事でだいぶ前に紹介した製品です。あれからだいぶ経過しているのでランキングはもう古くなってしまいました。未だにアクセス数が多いのですが情報が古すぎて今これを真に受けるのはどうかなと思っています。当時としては頑張って書いたのですがまだわかっていないことが多かったので反省しています。
http://innocent-key.com/wordpress/?p=2302
ということでようやくDA924をしっかり比較することができました。当時としては文句があまりつかない最もバランスが良いということで1位になりましたが、現在のこのラインナップ内での総合実力は最高ではありません。ですが一部の実力は未だ建材です。
今でも特筆すべき部分は駆動力と音の抑揚でしょうか。ガツンと来るべきところでガツンとしっかり来てくれる音、そして中高域の描写の緻密さと連続性。このバランスは今でも稀有な特性でかなり強いです。前に出てくる音に勢いがありますしリズムが正確です。前半に出てきた機種で最も駆動力が高いA22比でいうと低域の表現がだいぶ違います。DA924のほうがA22比で低域階調表現や解像度が高いです。A22は低域が柔らかく階調やタイミングも曖昧に感じてしまうくらいには違いがあります。低音はリズムで重要な部分になりますのでDA924は音楽の外郭を正しく把握することが出来ます。このあたりがプロがDA924を長らく評価し続けてきた理由だと思います。
ただしDA924は微細領域が曖昧で真の細部は見えません。たとえば生楽器の非常にダイナミクスの高い表現では抑揚が表情豊かに表現できていますが、その楽器の細部まで見えるという感じではないです。細部はAmariやA22のほうが優れてます。あくまで演奏表現のアタックの力強さと背景音のコントラストが非常に明瞭、という部分が強みで、細部描写力ではなくて駆動力の余裕が優位性です。現代的高性能DACと比較すると描写力性能には限界があるということですね。細部は比較すると潰れて見えないです。でもDA924が描写できている領域についてはかなり優秀です。細部を描き出す表現よりも、大きい部分のダイナミクス表現に優れているということです。
この点A22等は現代的な性能で細部の描写に優れていて駆動力もそこそこあります。価格差がだいぶありますけど中域の総合力ではDA924よりA22のほうが若干優秀といえそうです。駆動力とダイナミクスのDA924、細部表現とそれなりのダイナミクスを両立するA22という比較です。粒はDA924のほうが大分大きく感じてそれが力感にも感じられます。A22は比較するとパワーが有っても繊細に聞こえます。このあたりは現代的な設計のDACは総じて同じ傾向でDA924やPCM-501ESがむしろ異質でやたら存在感がある音と感じるかもしれません。古いDACの音の厚みと言われる部分だと思います。
次に高域性能について。当時圧倒的と思われたDA924の高域性能もAK4499DAC 4pやPCM-501ES改と比較すると若干不利です。(今回比較してませんがDAVE比でも同じでしょう)DA924はディスクリートマルチビット+多次フィルターという今では消滅した構成ですがPCM-501ESやT-DACのほうが高域は滑らかで癖が少なく感じます。DA924はR2Rマルチビット特有のチリチリと拡散するような成分があり情報の連続性を僅かにですが損なっているように思います。20bitスペックですが16bitのPCM-501ESと比較しても実は微小領域の精度は若干落ちるのかもしれません。
ちなみに中華DACは高域は総じて荒いのでこの領域ではまだまだです。一聴するときれいで透明感があるのですが実際には明確な階調感があり連続した高域になっていません。この問題を解決しているDACはDA924、PCM-501ES、DAVE、AK4499DAC 4p、T-DAC、これらだけです。それ以外はmakua含めて階調感のある高域です。
以上です。総合すると各要素で他に優れる製品があるものの、基本性能では余裕と駆動力性能は一線レベルにあることがわかりました。高域描写も低価格DACではまだ追いついていない部分があります。
Mytek Manhattan2
過去記事に特性事例含めて紹介していますので、ここでも触れておきます。
音楽性についてはパワーと粗さの絶妙なバランスを狙っていると思われる部分があって性能一辺倒ではありません。一部の音楽と相性が良いです。ある種の攻撃性と精神的にリンクする部分があります(それでもmanhattan1よりは控えめ)。EDMとかロックと相性がいいといえばわかりますでしょうか。絶大な駆動力じゃなくて若干駆動力が足りないことが必死さを醸し出しています。しかしA90のような神経質な感じではなくもうちょっと余裕と安定感があるのにどこか必死な感じの雰囲気です。言い方が悪いのですがお金があって贅沢してるのにオラオラしている人みたいな感じでしょうか。ちょうどパネルデザインのヘビのような柄が出す雰囲気と世界観のイメージがあっています。
音は今回のラインナップ内では高忠実系の部類ではなくて、粗さも音楽性に取り込んだ意図的な音作りがなされた製品と思います。性能だけではA22に近いですが性能だけで比較は出来ないかもしれません。なぜなら音楽性が好みに合えば他では替えが効かない体験が待っていると思うからです。
こういう部分も測定からは判断が出来ません。あとに測定値も録音データもアップしていますがAmari、DA924、Manhattan2、T-DAC、これらの測定値ははそんなに優れていません。これらはすべてAudioScienceReviewではまとめて酷評されて終わりでしょう。彼らがやっていることの意味については一考の余地があるかと思います。このあたりのことは後でまとめます。
SONY PCM-501ES改
こちらの記事で紹介しているDACです。1800円で買った1980年代の初期のDACです。これのDAC電源回路を7805+7905から自作の電源回路に入れ替え、IVオペアンプも当時は実現できなかった、現代的高性能のOPA2192に置き換え、アナログフィルターのノイズ対策のために事前にゲインを挙げるという複数の対策によりSNと実在感と細部の描写力を強化しました。その実力はこのラインナップの中でも高い方にあります。
駆動力の絶対的な位置づけはT-DACやAK4499DAC 4Pの少しした、A22と同じくらいです。Amariよりは駆動力高いし安定感あります。最高クラスのものと比較するとやや柔らかい音なのですが、安定感と余裕はあります。また高域がとても滑らかでDA924より素直な高域です。パワーが不要ならDA924よりこちらのほうが良いかもしれないです。
総合的にはとても聞きやすく高域の綺麗さと駆動力を両立する製品です。透明感とか奥行きとか背景描写はDA924と同じく現代DACと比べると不利なのは変わりません。このあたりは世代的に基本性能がやや不足していることが理由にあるでしょう。しかし現代のDACで得難い、高域解像度、高域付帯音のなさ、音の安定感と駆動力、この部分が優秀なので現代DACよりこちらのほうが好きという方はいるかも知れません。
今のDACでは出にくくなった音が逆に全部出るDACとも言えます。なのでこの製品はずっと処分せずに置いておこうと思っています。
Mola Mola Makua (リンク先にChord DAVEもあり)
測定性能と音質面でのハイバランスな製品です。ただし価格は高いです。ですが今回のようにDACを比較するときのリファレンス的なプリアンプとして使ったり、内部DACを比較基準として使えるので、このような研究用途を視野に入れた場合にはとても価値のある製品です。たとえばですがA90では音質評価で足を引っ張るのでプリアンプとしてはこれくらいの製品が必要です。特に駆動力評価は足を引っ張る製品が途中にあると評価不能になってしまうからです。A90にDA924をつないでも真価は理解できません。
以前に傾向は記事でまとめましたのでここでは簡単に紹介します。Chord DAVEの音質傾向、測定特性、録音による比較データも以下のリンク先にあります。
http://innocent-key.com/wordpress/?p=13675
makuaは駆動力が非常に高い、全帯域にエネルギーが満ちている感覚があります。全然厚みがある音ではないのですが、前に出るパワー感だけならDA924と同じくらいでしょうか。上から下までしっかり力強く前に出てくる音です。それでいて細部の描写力が高く、前後ダイナミクスのレンジだけでなく、帯域レンジもかなり広く上から下まで伸びているし、その上に透明感もあるという非常に高い総合力です。DA924の弱点だった背景描写もmakuaは優秀です。現代的な描写性能と古いDACのパワーの両立。これだけを聞いていると全く隙がない製品のように感じるのですが、このラインナップだとこの機種の弱点も見えてきます。ただし弱点と言ってもかなり微妙な領域なのでほとんどの人は気にする必要はないかもしれません。
一番の弱点というか平凡なレベルにあるのは高域描写です。DA924の項目で書きましたが、DA924、PCM-501ES、DAVE、AK4499DAC 4p、T-DACのような連続した階調感のない高域描写ではなくて普通のDACと同じようなデジタルの階調感があります。とはいえ中華DACのような荒い高域ではなくて滑らかなのですが階調感が残る印象です。力強いく軽やかで伸びのある高域ですが、細部は緻密で連続はないということです。
もうひとつの特徴として、高域に限らずですが細部の描写が若干断片化されているような、中域含めた全帯域に毛羽立ちがある感じです。慎重に比較すると違いがわかります。これは中域のディテールの部分に影響があって比較すると粒子感があります。細部の描写力そのものは高いのですが、その描写は飛び飛びだったみたいな感覚です。これはこのDACの独特の方式によるものかもしれません。デルタシグマ系では同様に中高域に毛羽たちがある事が多いですが、同様の設計のはずの現代ICの他のDACよりもmakuaのほうが粒子感は目立ちます。逆にマルチビット系のDA924やPCM-501ES、そしてT-DACではこういう感じは全くありません。しかしこれは欠点というほどではなくてあくまで描き方の特徴といえます。性能自体には影響はないと考えています。
これらの部分が気にならなければかなり完璧に近い製品だと思います。
AK4499DAC 4P
このページで作ったDACです。
http://innocent-key.com/wordpress/?page_id=12726
こういうことを書くと利益誘導と思われるかもしれませんが、もう在庫もないしICは工場火災で手に入らないので、今から何を書いても私に利益はないです。だからようやく色々かける状態になったので掲載しました。
基本的に現代的な大半のDACで無視されている問題、測定至上主義からは無視されている問題、駆動力と高域解像度と高域付帯音のなさ、これらを満たす製品が必要だと思ったので作ったものです。それ以外のレンジ、背景描写、左右分離、SN、これらの部分も現代的な水準を目標にしています。なので総合的には隙が少ないDACになっているはずです。それなりの高額製品と総合力で勝負ができる基本性能を目指したつもりです。ですが音になにか精神的な付加価値を求める人は合わないと思います。そういう部分はあえて除外しているからです。
音質に影響しない測定値は重視していないので測定値は最高ではありません。例えば経験的にTHD性能は0.001%以下であれば音質評価にほとんど影響がないという緩い基準です。これはSINAD至上主義のAudioScienceReviewでは酷評される基準でしょう。しかし耳で聞いたときの性能はSINADが支配的ではないことは上記の比較した印象から個人的には明らかです。SNは重要なので性能重視していますがTHD性能はヘッドフォンやスピーカがTHD0.01%程度が限界な以上、DACでそれ以上の性能を追求することにどれくらいの意義があるのかは疑問です。
音質です。DA924やmakua比でいえば前に出てくるパワー感は若干負けてますが、低音のレンジは十分下まで伸びてますしアタックの弱さやダイナミクス描写の曖昧さはないです。背景描写の緻密さと透明感、高域解像度ではむしろ優位にあります。なのでmakua比の総合力で全然負けてないというか総合力だとちょっと上かもしれません。4パラにする前のシングルだとmakuaとほぼ同じ音だったのですが4パラにしてファームを新しくしたら大分変わりました。
前に前に出てくる音が好きならmakuaやDA924のほうが評価が高くなる可能性がありますが、実際の前後の描写や細部ディテールはAK4499DAC 4Pのほうが優秀で楽器の細部の音の判別がしやすいです。高域もDA924より付帯音が少なくスムーズでこの点はmakuaより緻密です。弱点があるとしたら中域にデルタシグマっぽい毛羽立ちがあることなのですが、これもmakua比では程度が軽度です。
ほかにも普通のDACにはない特徴として最大4wayマルチ帯域分割機能があります。DAC4枚を生かしたマルチ8ch出力をDSPで処理する機能に単体で対応しています。普通このクラスのDACでチャンネルデバイダ付きマルチはありませんから面白い企画と思ったのですが、しかし残念ながらマルチはほとんどやるひとがいないのでその機能が生かされる機会は少なかったようです。
T-DAC
上のレビューで終わってしまうと結局我田引水的な4499が良いの?と思われる方がいるかもしれませんが違います。最大のダークホースはこれです。知人作のかなり特殊なDACです。これはやばいです。ちょうど記事を書いているタイミングでお借りすることが出来たので比較して掲載しています。
これはFPGAによるオリジナルのマルチビットデルタシグマ方式の半ディスクリートDACです。これだけみるとIC-DACと同等と思われるかもしれませんがマルチビットの段数が通常より多いのでデルタシグマ系の中域の毛羽立ちが皆無です。パワーが有るのに微細領域の表現も全帯域で優秀です。これはちょうどマルチビットDACとデルタシグマDACのいいとこ取り、これは従来のDACチップと同じなのですが、そのバランスのあり方を再定義したような音かもしれません。
低域のレンジと前に来るパワーだけはmakuaやDA924に負けてますが、それ以外の性能は軒並みトップではないでしょうか。高域の情報量の高さ、高域付帯音のなさ、高域階調の連続性、中域の透明感、奥行きと瞬発力と余裕、前後感と階調感のなさ、低域の分離感、全てがトップクラスにあります。低域以外の駆動力もほとんどのDACより優位性があって隙がありません。
ということで今回の比較No-1はこのDACだと思います。録音だと電圧出力ゲインが1番低いためかちょっと地味めな音質になっていますが実際に聞くと録音より良い傾向です。
おまけ1 Esoteric Grandioso D1
4499比でしか語れないのですが、駆動力は同等で、若干描写の方向性が違う印象でクオリティ的に大差はなかった印象です。D1は低域が途中から緩やかに落ちている代わりに量感があって下支え感のある低音、高域も途中から落ちていく印象があり、そこに付帯音が変わりにあってボーカルの子音を強調するような印象がありました。ここでかいた印象と概ね同じです。キャラクターはD1のほうがはっきりしていて音楽に何を求めるかで選んで良いのではないかと思います。
DACのほうですがD1と4499比はもはや好みの領域で性能差はあまりないです。D1は4499比で高域を少しだけ丸めて色を載せている、低域はD1特有の量感があり、これらをどう捉えるかで評価が分かれそう
上記ボーカルを引き立てるという意味ではD1が優位ですね
— yohine(Innocent Key) (@yohine_ik) November 27, 2020
おまけ2 CH precision C1
マルチビットなので中域はスムーズだと思います。高域はチリチリがあるDA924と同じような印象。ただしこちらはアナログフィルターではないのでもうすこしエッジがたった高域だった印象があります。駆動力は高かったですが低域はある特定帯域から下がきれいに消えているかわりに量感がある印象もありました。このあたりD1と低域の描き方は似ています。
中域は他に良い比較対象がなかったので今度はマルチビット系の他のDAC(DA924など)と比較してみたいです。ちゃんとした比較ではないので参考程度です。
個人的評価得点表
感覚評価なのでできるだけ大雑把な点数をつけることで中途半端な誤差が積み重ならないようにしています。なのでざっくりとした点数評価となります。
また各項目は内容の重要度に応じて上限の点数を増減しています。駆動力や低域は中高域の付帯音や解像度より一般的に重要度が高いと思うので比重を高めにしています。総合得点が個人的印象と相違ないような順列になるように調整しました。あくまで総合は個人的主観による目安とわかりやすさの指標でしかありません。
点数比重は各自で異なると思いますので、総合点ではなく各製品の内訳をみて、さらに録音比較データを聞いてみて評価をしていただければと思います。
追記:この点数ですが、総合13点以上はどれも優秀な機材です。ほとんどのリスナーにとって点差は重要ではなく、むしろ個人的な趣向がより強く評価傾向として出てくることが多いと思います。あくまで基礎クオリティ、聴感的性能指標のみで評価するとこうなるというだけで、感覚的な方向性や印象的音楽的付加価値はこの点数とは関係がありません。その領域は何も表していないことに注意してください。この領域になってくるとちょっとした使いこなしや送り出しやケーブルの差で印象が変わることがあります。そのためかなり近い条件で比較しない限り点数的な印象の格差は思ったより少ないはずです。
奥行き、透明感 | 中高域付帯音 | 高域解像度 | 駆動力、安定感 | 低域レンジ | 定位 | 総合 | ||
Sabaj D5 | 3 | 1 | 1 | 1 | 2 | 1 | 9 | |
DENON DA-300USB | 2 | 1 | 1 | 1 | 1 | 2 | 8 | |
Gustard A22 | 4 | 1 | 1 | 3 | 2 | 1 | 12 | |
Antelope Audio Amari | 4 | 2 | 1 | 2 | 3 | 2 | 14 | |
Lavry Engineering DA924 | 1 | 2 | 2 | 4 | 4 | 2 | 15 | |
Mytek Manhattan2 | 2 | 1 | 1 | 2 | 2 | 2 | 10 | |
SONY PCM-501ES改 | 1 | 3 | 2 | 3 | 3 | 1 | 13 | |
Chord DAVE | 3 | 1 | 3 | 2 | 3 | 1 | 13 | |
Mola Mola Makua | 3 | 2 | 1 | 4 | 4 | 2 | 16 | |
AK4499DAC 4P | 4 | 2 | 2 | 4 | 4 | 2 | 18 | |
T-DAC | 4 | 3 | 3 | 4 | 3 | 2 | 19 |
録音による音声比較
測定値は先入観が入る可能性があるので最後にアップします。先に録音による比較を聞いてください。私がいくらレビュー記事を書いても音を聞いてもらう以上の情報はありません。みなさんが自身で音を確認することが一番です。そのうえで私の記事についての真実をチェックしてください。私も完全な比較試聴が出来ていると保証することは出来ません。内容の相違があるときは録音されたデータから判断してください。
ただし録音による比較は限界があってADCレートやADC性能で見える範囲の違いしか表現ができません。例えば極限のローノイズ領域の挙動、帯域外ノイズによる付帯音は正しく記録されていません。だからこの部分の性能は除外した評価になります。録音データ自体は信頼できますが、同時に機材の全てではないことも理解しておく必要があります。いずれにしても事実を元にした断片的な参考データということです。
録音条件ですが、すべてAmariに直結での比較が中心です。再生は44.1kHzですが録音は96kHzで固定です。このページに掲載するのはDAWでゲインを合わせてタイミングもある程度合わせた比較試聴がしやすいように編集したmp3ファイルだけです。基本的にゲイン変更と位置調整以外の編集は一切やっていませんが、TC24のトラックのみmp3の16bitに丸めるためにAOMのピークリミッター(Invisible G2 768kOS)とディザー処理(Sakura Dither Type1)のみ行っています。また一部のDACで他とゲイン合わせによる音質傾向チェックのためにA90とmakuaを経由したファイルがありますが、名前に(A90)や(makua)のようにわかりやすくプリアンプを通過したことがわかるように明記しています。これはプリアンプによる音質的影響の比較にも使えますのであえて比較用に掲載しています。
未編集ファイルは期間限定でGigafile便にアップロードをします。最長の60日にしてありますので、しばらくダウンロードすることが出来ます。期限切れ後の再アップはしない予定なので早めにDLしてください。今回録音分については全部のDACで同条件ですが、前回録音分は条件が若干異なっています。基準としてmakuaは両方のテイクに含まれます。makuaと他の製品の相対的な差を比較することで、全体の基準として利用してみてください。
https://9.gigafile.nu/0302-h66d399d823385e2801ebf1b043658545
今回比較用の音源は前回記事で使ったTAK氏の音源と同じもの+自作音源になっています。自作音源の方は過去作品の東方セレブを比較用の特別ミックスにしてあります。本来は既存曲で良いものもあったのですが、権利問題の懸念がありますので避けました。参考までに録音比較用音源として望ましい特徴として以下のような要素です。
- 24bitで仕上がりのダイナミクスが十分広い、海苔音源ではないこと
- 低音のレンジが深くまで記録されていること、低音の瞬発力を要求するシーンが有ること
- 生楽器の質感やディテールが評価できること
- 奥行きの描写の深さを評価できること
- 左右の定位感を評価できること
- ドラムのアタック、立ち上がりの早いシンセ音、持続音、これら速度の異なる楽器が混濁するシーンがあること
- 音数が多く捌きにくい、埋もれやすい、ミックス的に難易度の高いシーンがあること
- ボーカルが入っていないこと。ボーカルがあると主観的なリスニングになる傾向がある
できればこれらの特徴をすべて兼ね備える音源がほしかったですが、当然ながら存在しないので、私の過去音源を出来る範囲で上記に該当するような特徴に適合するように自力で再ミックスした音源を用意しました。もちろん最適ではないと思いますが、結果を聞いた限り音の差は判別しやすいと思いました。
何度か掲載しているリンク先にはなってしまいますが、こちらにある過去記事からもChord DAVE、Antelope Amari、Sony PCM-501ESの録音データを比較することが出来ます。TAK氏の曲は今回と共通です。TAK氏の曲がフリー公開されているリンク先も記載しました。
TC24 東方セレブ音質比較用ミックス
- Sabaj D5
- DA-300USB(A90)
- DA-300USB(makua)
- Gustard A22
- Lavry DA924
- Mola Mola makua
- AK4499直結、音質対策ファーム
- AK4499直結、マルチ対応ファーム
- AK4499(A90)、マルチ対応ファーム
- AK4499(makua)、マルチ対応ファーム
- T-DAC
TAK - 파란 눈물 소네트 (feat. Seorryang)
- Sabaj D5
- DA-300USB(A90)
- DA-300USB(makua)
- Gustard A22
- Lavry DA924
- Mola Mola makua
- AK4499直結、音質対策ファーム
- AK4499直結、マルチ対応ファーム
- AK4499(A90)、マルチ対応ファーム
- AK4499(makua)、マルチ対応ファーム
- T-DAC
AudioScienceReviewの妥当性、測定主義の現実と限界について
ここから先は完全な個人的意見になります。データや結果だけほしい方はお帰りください。ここから先の文章は正しい保証もないし、わけのわからないことを書いているかもしれません。とくに理論や測定が全てであるという立場の方は読まなくて良いです。
上記で測定データ、録音データ、個人的比較レビュー、すべて出揃いました。ここで記事は終わりです。
個人的にようやくこれを書く準備ができたと思っていますので、続きを書かせていただきます。これ以下は各自取り扱いに注意してお読みください。
特に先に補足しておかないといけないのは、部屋やスピーカは非常に不完全性で、測定が無視できないレベルの不完全要因のため、まだまだ測定が支配的な領域にあります。これは論文でもデータが出ていますのでいまさらその領域を否定しようとは思いません。THD0.1%前後のスピーカ、3dB以上の単位の周波数応答、これらは測定がまだまだ支配的な領域です。
しかしここで扱う差、DACやプリアンプの違いなどは遥かに小さい差で、THD+Nで例えるなら大きめに見ても0.01%以下の領域から、周波数応答では0.1dB以下の世界のことについて話しています。そして私は測定を否定しているわけではなく、測定領域の先にある世界のお話をしたい、そのつもりです。
AudioScienceReviewの暴走と主観主義への攻撃は正当か?
まずはこの問題について。先に書きますが、私はAudioScienceReviewの功績、つまり従来の主観主義の限界を認識し、現在のオーディオ業界のステージを従来の3や4から5(数字の意味は後述します)へと顧客の意識を一歩先に進めたことは正しく評価されるべきという立場です。たしかに聴覚と測定に相関性のある部分はありますし、最低限度の性能を求めておけば、最低限度の聴覚的な基準をクリアできるのも事実です。
しかし同時に彼らの方法論だけが正当化され、その価値観が暴走しはじめ、測定が全てであり測定が駄目な製品は100%すべて駄目であるという確定事項になってしまうことは同時に行き過ぎだとも考えています。そもそも暴走はフォーラムの主催者の問題というより、そこに集まる一部の攻撃的なグループの問題でしょう。ここで書く「彼ら」とは主催側ではなく、集まった集団の空気を指します。
昨今は彼らの影響力が世界的に増しているように見えますし、その価値観が広まりつつあります。と同時に価値観の暴走の兆しも見えてきました。測定値の悪い製品への不当な攻撃と主観主義そのものへの集団による攻撃が始まりました。
これは人間の歴史を見るといつの時代にもあったことかもしれません。偉大な先駆者、幼稚な後追い集団、そして一部の過激派によって暴走、そういうことは多分何度もあったとおもいます。いまさら流石に火炙りや処刑みたいなことはないと思いますが、ネット上でそれに近いことをやりかねない状況ではないでしょうか。実際にdiyaudioのいくつかのツリーで主観主義を徹底的かつ執拗に攻撃しつづける集団を以前よりも多く見かけるようになりました。それで貴重な投稿が潰されることもありました。
これに対して誰かが警告しなければならないと思いました。だから今回の記事を書く必要があると思いました。たとえ主観によるものだとしてもその一つの現実の断片を伝えるという意味では、こちらも彼らと同じ立場であるつもりです。現実の断片もたくさん集まれば有意義な意見になります。だからかけらでも投稿をする価値はあります。彼らはかけらは不完全だから発言してはならないといい始めました。それはやりすぎです。
私にとっての事実の断片、今回の比較試聴結果から勝手ながら判断させていただきますと、DACやヘッドフォンアンプやプリアンプにおいて測定主義の正当性は奥行き描写とSN特性には相関性があります。ですがそれ以外の指標はあまり良く分析ができていない、相関性が薄いと思います。
特に駆動力は測定ではほとんど評価出来ていません。その先にある音楽的な特徴、心理的効果、心地よさ、これらの傾向も何も測定には現れていません。これらは彼らにはまだ取り扱うことの出来ない課題です。彼らはこの測定での不可視領域に対する敬意が欠けています。現代科学はもうこの世界のことをすべて解明したのでしょうか。科学は統一理論の実在を証明し、さらに量子もつれの原理まで解き明かしましたでしょうか。まだわかっていないことのほうが多いのではないでしょうか。
だから私の意見は、完全測定至上主義に至るには時期尚早であり、その限界については常に認識しておかなければならないということです。
電気的にはどれも理想に近い特性が実現できている領域の製品、それはDAC、プリアンプ、ケーブル、電源など、これらは測定では違いが見えない領域が存在します。そして実際に多くの人が測定に見えない違い、その重要性をも認めています。きっとそのうち測定ができるようになるかと思いますが、今はまだ人の感覚に頼らなければ違いを判別することは難しい領域があります。
測定はオーディオレベルでどの位置づけにあるのか?
まず、オーディオにおける、測定の位置づけとはどのようなものでしょうか。技術とは別の視点からの解釈を元にオーディオの進化論みたいなレベルチャートを作りました。あくまで私の個人的な定義ですが、今までこのようなものは見たことがありませんのでここで提示しておきます。元になっている定義ははるか昔から伝わっている概念です。
AudioScienceReviewはレベル5にあり、従来の方法論であるレベル4の上にありますが、彼らの視点ではレベル3とレベル6の区別がついていません。
彼らの功績はレベル3と4が評価軸だった世界をレベル5の価値観に押し上げたところにあります。これは正当に評価されるべき部分です。しかし彼らは上を知らずにレベル6の要素を持つ製品を区別できずに攻撃していることがあります。これは明らかに違和感があります。彼らの評価軸ではレベル3とレベル6も違いがまったく理解できないので、プロが型破りをしているところを見て、基本がなってないと指摘するような行為に見えないこともないです。(あくまで私の個人的な意見ですけれども)
参考:「型のある人が型を破ることを『型破り』といい、型のない人が型を破ることを『型なし』という」
レベル1
音楽が認識できる程度のスピーカー。オーディオとしての最低限度の存在。音が鳴るかならないかのレベル。選挙放送用スピーカー、市内の放送、電話の音など。
レベル2
オーディオとしての体を成す最低限のもの。一応、音楽を鳴らすために生まれたもの。少なくとも音楽を鳴らしたいと言う開発側の意識は存在する。ローエンドオーディオ機器など。
レベル3
何の完全性も持たない、歪で不完全なもの。理論も不完全、感情も分析も偏っている。自己中心的で狭い己の視野内に存在する完璧さに酔う傾向がある。傲慢さを孕み、盲目的、攻撃的、排他的。人の数だけ、その人にとっての究極が存在する。しかし他者から理解されることは少ない。自己満足だけで作られた根拠のないオーディオ。
レベル4
人々の好みの集合体。平均値。多くの人が好む可能性が高い。多くの場合、レベル3よりも大勢から共感を持たれる可能性が高い。レベル4の開発者は顧客に自分とは異なる嗜好が存在する事実を認識しており、大なり小なり自分以外のニーズに応えようと情報を収集し合わせていこうという意思を有する。しかしそれは滅私しただけの音。大手企業のオーディオ。商売としてはうまく行きやすい。POPS的な手法。最大公約数の、多数派のための音。分かりやすく安易。多数派が共有する不完全性。多数派の等身大。
レベル5
理論の極限。知恵でたどり着ける極限。判断基準が理論にあるので、個人的価値観の限界に囚われず共有でき、高い確率で普遍的な共感も得られる。レベル4と違い時代や人の価値観が変わっても普遍的な価値がある。だからその価値は正しいけれども、視野が理論で説明ができる内容に限定されている。それ以外の領域、直感や感覚に対しては自他問わず拒絶/否定しがち。理論以外の領域が存在すること自体信じられない。AudioScienceReview、高性能だけを目的に作られたオーディオ。
レベル6
センスいわゆる感覚の限界領域。理論だけでは届かない、深い経験と鋭い感性が入って初めて理解できる領域。レベル5を理解した先にのみ成立するもの。理論的に変わるはずがないのに変わる、体験が出来るもの。おそらく人の経験からの直感力、こうだからこうであるべき的な予測能力のようなものがその先にある何かを感じさせている。明らかにレベル3と違うのは理論を理解し、さらに理論の不完全性を理解しているかどうか。必然的かつ意図的な逸脱やセオリーの無視が見られる。これは他者に真似ができない達人の型。彼らは基本を理解した上で、一見基本に忠実ではなくなるだけ。特性は良くないが何故か音が良いオーディオ。玄人のハイエンダーに支持されているオーディオ。音楽的、心理的な付加価値があり、それが多くの共有意識に対して確信的に作用して説得力を持つ。違いが分かる人の世界。
レベル7
鍛えられたプロフェッショナルの共有する共通概念としての理想郷。天才が目指す最終目標。現実には存在できない概念上の存在。現実でその断片を実現するにはレベル6の究極的な方便が必要となる。良い意味で、不完全さの隠蔽、強調、増幅、脳による補完、これらすべての方向性の統一が必要になってくる。レベル6までの手法を最適に積み重ねた先にあり、さらに一部の才能あるものだけが垣間見ることのできるかもしれない世界。高度な感覚を通して、必然的に導き出されていく道のつながった先。一線を越えた人は皆、同じ理想を垣間見ている。ここに辿りつきたかった、ここを目指していたのだ、と言う深い納得感。ある時代ある瞬間にしか存在しない歴史的体験、音楽と完全に最適化された極まったオーディオシステムという理想定義そのもの。本当の真価を理解するためには開発者、聞き手、音源、これらすべてに高い素質+訓練が必要。天才を理解できるのは天才だけ。
レベル6の存在を証明することは可能か?
上記のチャートは雲をつかむような話だと思います。正直、私もこれがあっている保証なんて出来ません。あっているかもしれないし、そうでなくてただの妄想かもしれないわけです。レベル6以降が見えている人が多ければ実在する可能性は増えますが、私一人がこれを主張しても説得力はないでしょう。
ここで一つのたとえ話をします。
音楽制作のエンジニア系の人たちの音質評価軸の話しです。私の周りには何人かプロフェッショナルな方がいてDAC機材を比較して彼らにその印象を聞いたことがありますが、音楽制作エンジニアは平均的オーディオファンと比較するとかなりブレない共通した価値観や評価軸を持っています。機材の識別眼として共有された概念があるのです。要するに音の評価で逆方向を向くことが少ない、言葉で共有しなくても、プロフェッショナルになると必然的に近い価値観になっていくということです。
もちろん好みが完全に排除されるわけではなく、あくまで傾向レベルではありますが、個人的な好みが介入する余地は平均的なオーディオファンより少なく、おおむね同じ方向性を向いてきます。まるで聴覚を使った性能評価になっていくということです。ただし測定値の優劣と異なる相関性の指標です。特にSINADの指標はあまり優劣と関係がなく、むしろ駆動力やSNが評価軸との相関性が高いです。私がレベル7になるとプロフェッショナルは共有した理想を見ると言うのはこれが兆しです。
私が若い頃に音楽の師匠が教えてくれた世界があります。演奏家や作曲者が目指しているもの。プロフェッショナルが共有する理想とは、そういう世界の話です。クラシックで今でも同じ曲を演奏し続け、新しい解釈を探し続ける理由は何でしょうか。私は音楽は才能がなかったので、この本当の意味は理解できません。ただそういう世界は一線を越えた人には見えています。とんでもない天才が一生をかけてたどり着きたい境地です。私は15年も色々犠牲にして音楽やってたおかげでほんの少しの断片だけわかった程度です。天才が数十年かけてやっと理解する世界など私ごときが正しく理解できるわけがありません。
あとは守破離についての説明リンクを貼って終わりにします。
守 | 師匠に言われたこと、師の流儀・型を習い『守る』こと。 |
---|---|
破 | 師の流儀を極めた後に、他流も研究すること。その型を自分と照らし合わせ、自分に合ったより良いと思われる型をつくることにより、既存の型を『破る』こと。 |
離 | 自己の研究を集大成し、独自の境地を拓いて一流を編み出すこと。師匠の型、そして自分自身が造り出した個人は、自分自身と技についてよく理解しているため、型から『離れる』こと。 |
さいごに
個人的経験によるお話ばかりで、決して論文みたいなデータはありません。だから理論派の人からしたらこんなものはデータでもなくてただの妄言に見えるのではないかと思います。ですから無理にレベル6の存在は信じる必要はありません。
しかし聴覚でしかわからない世界があるという事実については、私は主張し続けたいと思います。大切なことは結果として多くの人の意識がどういう方向に向くのか、最後に何を選ぶのか、私はそのための材料を提示したいと思っているだけです。各人がどう捉えてどう解釈してどう判断していくのかは、各人の自由です。この記事を参考に、機材を購入して、真実はどうだったのか、それは各人で評価してみてください。
追記
この記事の後半のある部分が失礼である、という意見もあるようです。もちろん誰かを傷つける可能性はあるし、そう取られるのは仕方ないですが、建前や礼より大事なこともあると思って書いています。そして私はこれを書いた結果で叩かれる覚悟は出来てます。
ただ、これがきっかけでちょっとした論争くらいならまだしも、攻撃の応酬になって、記事が原因で心が荒廃してしまうくらいなら削除します。この記事で利益よりも多くの被害者が出ることは目的ではないからです。
ほとんどの人にとってオーディオはただの趣味なはずです。どうしても苦労してももっと向上したいという人だけが先に進めば良く、ほとんどの人にとって今いるレベルは不幸でもなんでもない、そこでの経験は幸福であることに注意してください。
AK4499DAC 4Pのレビューと個人的評価得点表が無いのとT-DACの外観写真が無いのはなぜでしょうか?
>AK4499DAC 4Pのレビュー
少し編集しましたが、色々とお察しください。よろしくお願いします。すみませんが、これについてのこれ以降の質問は受けません。
>T-DACの外観写真が無い
これはオーナーの判断によるものです。勝手に掲載は出来ないです。ちなみに外観イメージはタカチのケースを使ったよくある普通の自作品です。
AK4499でのマルチを使う人が少なかったのは残念です。今時そんな場所と費用のかかる方法論を取る人は少ないとしても、何をやっても音が変わるという輪廻からの解脱にはそれしかないと思っていますので。
個人的には私も同じ事をやった経験があるので、マルチビットデルタシグマのビット数多めというのは興味あります。問題は、それに使える高速のDAC(数メガサンプル以上)でオーディオ品質のSN(110dB以上)を確保できるものが限られることです。一つしか思い当たりません。
更にマルチで高能率のホーンを使う場合、110dBのSNは聴感としてギリギリです。それ以下ではクラシックの無音の再生が難しいのです。不思議なもので、うちの音源は1970以前の物が大半で、その録音自体のSNはそんなに高くなくて暗騒音のような音は聞こえますが、それは全く気になりません。寧ろ、最近の録音の場合は意図的にそういうのを足した方が、暖かい血の通った音になります(主観ですが)。食卓の照明には暖色系が好ましいような感じです。
そういう意味で高いSNは必須です。THDはそんな違いを生みにくいです。但し、120dB超えるSNを確保できるようになると、少し事情が違ってきました。実際の音楽信号に近い32toneのような信号を入れた時、THD-110dBとTHD-120dBではノイズフロアの上昇に少し差が出ます。THD-120dBの方がやっぱり良いのです。少しだけですけど。なのでこの頃は若干THDも気にするようになりました。
ただまあ、DACというのは聴くための幾つかの手段の一つにしか過ぎなくて、全体への寄与はとても少ないです。クラシックのオーケストラであれば、七割方は部屋とそれに合わせたスピーカーで決まりです。生のオーケストラだって、どんなホールかで大きな差が出ます。更に人間が弾いているので、乗る日と乗らない日があります。乗らない日に当たると、ガッカリ。同じ料金払ってるのに当たり外れあります。
そういうこと考えると、過去の名演奏がSP時代にまで遡って外れなしで聴けるオーディオは、少々の投資をしても元が取れます。部屋と部屋込みのスピーカーですね。DACはあれこれやってますが、効率はメチャクソ悪いでしょう。まぁ暇潰しの趣味として。
まずは本記事を公開していただき、ありがとうございます。
yohineさんの評価というか観点は私の感覚と親しいため、この手の記事はとても参考になるし面白いです。
tambaquiをどうしようか迷ってましたが、やめておくことにします(笑)
DA924とTHX 789に対する評価は「やっぱりそうなんだ」と思いました。
DA924は今の製品と比べると透明感が不足するので、気が向いた時にしか聞かなくなりましたが、
2倍インターポレーション+多次アナログフィルタを使ったDACはこれしか持ってないので壊れるまで取っておこうと思ってます。
THX 789は付属のスイッチング電源使ったんでしょうか。これを超えるのがMODEL406やTHA2なんであれば、HPAは自作すべきかなとも…
記事内で興味があるのはビット数増やした半ディスクリートのマルチビットΔΣです。
dcsやesotericでも5bitΔΣだったと思いますので、DSPを自前で用意するまでには至っていない身としてはこの試みが非常に気になります。
レベルのお話、6までは考えていましたが(というかハイエンド製品のアプローチはこんな感じかなと)、7はちょっと想像がつきませんね(笑
xx3stksmさん
THD(+N)も-110dBまで来てれば差を聞き取れないのでは(≒気分の問題)と思ってました。が、-120dBとの差を聞き取れるんですね。とても面白い。
それを自前で実現しているという事実に興味深さがさらに増します。
本記事のT-DACとも合わせての話ですが、製品や作品として発表されてないだけで、
もしかするとオーディオも一品物(自作品?オートクチュール?)の中にこそ目を見張るようなものがあるのかもな、とぼんやり考えています。
同じ名前ですがT-DACはこちらと関係あるんでしょうか?
http://www.tjaekel.com/T-DAC/fpga.html
そうですね、マルチの優位性はかなりのものなのですが、パワーアンプがたくさんいるとか、そもそもそういう手段が視野に入っていない方が大半かと思います。そもそも最近のほとんどのスピーカはそのように作られていないので、まずスピーカシステムを自分で組み立てるかネットワークを外す必要があることが困難ですね。リセールもできなくなってしまいますし。
マルチが難しい理由、これは他の方から聞いたお話なのですが、普通の人には超えにくいある種の設計能力というか、全体を見渡して自分で何でも判断できる能力が必要ということらしいです。例えばなんでもできるので適当にやっても永遠にまとまらないこと。一定の基準をもって自力で決めてすべて進めていかなければならないこと。受動的ではだめで全てに能動的でないといけないわけですね。単なる組み合わせで終わらないので。こういう自由すぎるフィールドがマルチの難易度を高めている、場所とコストと労力と自由度。このへんがなかなか普通の人には手の届かない領域、という話は一定の説得力がありました。
ADのマルチビットデルタシグマのプロジェクトは以前に見ていました。1bitの追求をやられているのも知っています。記事中だとMolaMolaが一番近そうです。T-DACのような段数を増やしても特性的にはR2Rに近づくだけですので課題もまたR2Rに準じます。結局抵抗精度を確保しにくくなっていき最後はその部分が特性的には足を引っ張るということになります。でもなぜか音は良いのですね。
記事にはしていないですが実は私も1bitディスクリートやT-DACと同じようなFPGAのファームをお借りしてADの高速マルチビットチップでデルタシグマをやったのですが、如月さんみたいにSN特性が全然出なかったためかあまり音が良くなかったです。ちょうど昔のESSに似ている方向性できれいだけど力強さがないというか軽薄な音でした。今回のT-DACと全然違います。
このあたりは特性的な視点でみるか、音質的視点で見るかは別ではないかというのは今の時点での私の意見です。HPでおっしゃられているようなACや機器接続時問題もあるのですがこちらの計測状況はACが混濁してるので結構実使用時に近い性能ではないかとは考えています。SabajD5あたりはかなり環境に左右されやすいDACです。A22や4499は中間的。T-DACやMolaMolaは特性がいつも安定しています。
>マルチで高能率のホーンを使う場合、110dBのSNは聴感としてギリギリ
私も現代的システムなのですがツイータのみ偶然ホーンタイプで能率がかなり高いです。こちらの対処法はパワーアンプのゲインを下げて対応しています。これでホーンでも全くノイズ聞こえません。DACのSN依存だけでなくパワーアンプ側もホーンに有利になるような設計にすればトータルでは問題が起きないように設計できると考えています。音源の暗騒音は気にならないはよくわかります。不思議なものです。
>THD-120dBの方がやっぱり良いのです。
本記事でも書きましたがこちらではTHDについてはこちらはほとんどわかっていないかもしれません。前にオペアンプの交換で体験している限り、低音はほぼわからず高域の綺麗さや音の分離に影響があると考えています。しかしこの部分は記事にある通りTHD性能よりほかの部分の設計のほうが相関性が高そうです。電源のSNだったりジッター性能だったりです。
実際にSPシステムよりヘッドフォンのほうがTHDは1桁くらい良いのですがそれでもかなり僅かな違いしかわかりません。もしかしてTHD120dBが出るように設計変更したシステムのほうが別の理由で良くなった可能性はないでしょうか?例のDACが出力FIRを並列化で高THDを達成している場合は二次的な音の変化もありそうです。本当に僅かな差なら聞こえている可能性はもちろんありますが。
>DACというのは聴くための幾つかの手段の一つにしか過ぎなくて、全体への寄与はとても少ないです。クラシックのオーケストラであれば、七割方は部屋とそれに合わせたスピーカーで決まりです
この部分は私も同意見です。私はDAC探求するのが好きなのか、効率考えずにかなりの時間を費やしてしまいましたが、最近は部屋やSPも手掛けています。とはいえSPは不満があって変えたくても重い大きいで大変なのでなかなか手が出ません。部屋も同様です。もともと体力があまりないタイプなのでどうしても小さい方に注意が向きがちです。
今後もDACの進捗を楽しみにしています。コロナが落ち着いたらいつかシステムの方もぜひ聞かせていただければと思っています。
>THX 789は付属のスイッチング電源使ったんでしょうか。これを超えるのがMODEL406やTHA2なんであれば、HPAは自作すべきかなとも…
付属スイッチング電源です。電源だけアップグレードしてもヘッドフォンの出力回路もちゃんと強化しないといけないので限界は自ずとあります。事例にあげたのが高額なHPAばかりになってしまいましたが、もしかしたら他にも良い機種があるかもしれません。内部写真を見て出力回路とトランスがしっかり物量投入しているモデルなら音が良い可能性は上がると思います。
>記事内で興味があるのはビット数増やした半ディスクリートのマルチビットΔΣです。
T-DACはみなさん興味があるようで、反響が外でもかなりありました。今の時点では何も公開できることはないのですが先程のコメントに書いたようにただ同じように作るだけだと簡単には良い音がでないようです。簡単に良い音が出せるのは既存ICになるでしょうね。もしかしたら既存のICをパラレル化するついでにマルチビット的に動作させれば擬似的にビット数を増やせるかもしれません。エソかアキュが似たようなことをやっていたように思います。
>レベルのお話、6までは考えていましたが(というかハイエンド製品のアプローチはこんな感じかなと)、7はちょっと想像がつきませんね(笑
レベル6を理解していただきありがとうございます。7は実在するかはなんとも言えません。
>オーディオも一品物(自作品?オートクチュール?)の中にこそ目を見張るようなものがあるのかも
こういうのが一斉に出てきたら私も聞きに行きたいです。もちろん自分の機材を持って比較してみたいです
見たところ普通のPCM1794なので名前が偶然一致しているだけで関係ないと思います。ちなみにT-DACは私が勝手につけた名前で正式名称はあるのかどうかもわかりません。(個人の非公開制作物なので)
THDが-120dBの方が良いというのは、ちょっと誤解を生む書き方でした。上の測定データで、gustardとT-dacではTHD+Nだと20dBに少し欠けるぐらいの差があると思いますが、このぐらいだと意外な事に聴感での差がありました。鼓童の太鼓のように無音から一気にどんと来るような音の時、その迫力には差があります。但しこれはうちの環境での話なので、ヘッドホンで分かるかと言えばそれはないと思います。風圧の問題なので。100dB行かない程度の音圧でも、圧が別物になりました。
そしてこの場合の比較は、ADの高速DAC(AD9717)をDSM(gustard相当)として動作させた時と、PCM(T-DAC相当)として動作させた時です。基板は同じでソフトで切り替えできます。後者はpcm1704の互換機としてこれから使おうと考えていた本命で、実際暫くは使っていてこれならば文句はないなと納得してました。ところがせっかく実装したのだからとDSMで使ってみたら、前述のようなかなり歴然とした差があったので、以後は今に至るまで3bitDSMで、これまた満足しています。
その延長線で考えるならば、今のがSN110dBでTHD-110dBぐらいなので、ほぼ完成した1bitDSMだとSN120dBでTHD-120dBぐらいですから、多分こっちの方が良いだろうなあ、という予想の話です。マルチは方法論としては最善ですが、個別のDACの比較というのは普通は不可です。うちの環境では八台必要で、パワーアンプとのゲインも違ってしまいますので。なので賭けの部分がかなりあります。まあ、今年中には出来上がる完成品での試聴でしか差の程度が如何ほどかは分かりません。悪くはならないだろうとは思ってます。
話は変わりますが、旧型のDIPのチップとか、PCMやDSMのデイスクリート型が数字では劣っていても聴感として良い結果になる事の理由としては、素子の鈍感さが考えられます。最新のESSやAKMのモノリシックは、スイッチドキャパシタンスフィルター(SCF)とかその亜種を使っている筈です。これはコンデンサですから、振動にとても弱いです。ディスクリート型で敏感なのは、PLLのバリキャブぐらいですが、これはチップの外にあります。
測定は正弦波でスピーカーの振動のない環境でしか測りません。実際の使用環境で何が起きているかには全く無関係です。一致する方が不思議という方が正解でしょう。ディスクリート型であれば、FPGA内部のデジタル回路用のPLLは、使い方次第で揺れても最終データに影響のないようにできます。PLLのバリキャブだけが問題となります。PCMであればその揺れ(ジッタ)は影響しませんから、聴感として認識不可です。おそらくDSMぐらいのfsになっても。
というのは、例えばカンターテドミノ等はアナログテープの録音ですから、DACのそれとは同じスケールに収まらないぐらいに、とてつもないジッタです。でも名録音です。そういうのを確かめようとディスクリートのマルチビットDSMを同じ環境で試したら、意外にもかなりPCMよりも良かったのです。その前に試聴環境は違いますがpcm1792を試した時は力弱い低音しか出なくて、とてもpcm1704には敵わなかったのです。
なので今の所の辻褄の合う仮説は、ディスクリートのDSMならばpcm1704以上の力強い低音が出て、その傾向は数字(正弦波ではなくて32toneとか実際の音楽信号を入れた時の数字)に少しは比例しそうかな、という事です。そして、ディスクリートを試すならばPCMよりもDSMです。他の環境でどうなるかは分かりませんが。
当然ながら如月さんの実験結果をこちらは否定することは出来ないのですが、こちらの状況と大分違うのは事実なので、その原因については要調査かなと思っています。少なくとも一度実際の音を聞いて判断してからでないと何も言えません。今の時点では様々な前提条件が大幅に違うと思われるので、ある一定条件(バッテリー環境、AC排除)の上では成立するお話(THD110とTHD120での力感の差)かもしれません。
以下こちらでの経験談ですが状況をお伝えします。
>gustardとT-dacではTHD+Nだと20dBに少し欠けるぐらいの差があると思いますが、このぐらいだと意外な事に聴感での差がありました。鼓童の太鼓のように無音から一気にどんと来るような音の時、その迫力には差があります。
私の経験的に、こういう駆動力や瞬発力の差はTHDとの相関性があまりないです。電源回路の設計や基板レイアウトやライン出力回路が一番重要で、次に、クロック処理、DAC前段のデジタル処理による差のほうが大きく、THD20dB程度の差はこれらによって簡単に覆ります。このあたりは今回の比較事例と過去の設計の経験で相関性があり、市場評価ともある程度一致している部分でもあります。
例えばD5とA22はTHD+NではD5が優位ですが瞬発力、駆動力面ではかなり格差がありD5が弱いです。内部写真から見た事前予想と一致しています。トランスのサイズや出力回路の設計による差です。次にA22よりDA924のほうが瞬発力、駆動力面では上です。この比較事例ではTHD+Nでもっと大きい格差があります。THD+NはDA924が悪いです。DA924はディスクリートR2Rで出力バッファが強力です。この2つの理由によるものと思っています。もう一つ、DA924とmakuaが同等の瞬発力、駆動力にあるという点。これもTHD+Nの相関性を否定する事例です。この機種は共通点としてはDAC部がほぼディスクリート構成という点くらいです。アーキテクチャーはR2RとPWM-DSMなので全く異なります。
今回は比較時に限りなく条件を揃え、何度も別の個体同士で比較してレポートをまとめましたので概ね傾向はつかめていると考えています。
>ところがせっかく実装したのだからとDSMで使ってみたら、前述のようなかなり歴然とした差があったので、以後は今に至るまで3bitDSMで、これまた満足しています。
R2Rとしてフルビットに電流をながしているか、それとも3bitしか使っていない電流に余裕がある状態か、この差が優位に働いた可能性はないでしょうか?もし3bit-DSM動作でR2Rと同等のTHDへキャリブレーションしても依然として駆動力の差があるならTHDの差ではなく電流の差かもしれません。
ちなみにこちらで試したのはAD9117です。AD9717とは双子のようなチップだと思うのですが、こちらではSNもTHDも性能は全然出せませんでした。小bitのデルタシグマでもテストしていますが、AD9117はかなり駆動力のない音質で音が遠く出音は弱かった印象です。こちらは特性を出せていないですし、下記振動関係の実装が悪かったのかもしれません。とてもPCM1704と比較等できないレベルでした。こちらではPCM1792以下です。
こういう差はディスクリートのオペアンプとICオペアンプでもありました。結局両者を結びつける特徴はパターンが半導体かPCB銅かという点もありそうです。ケーブルの音の差のようなものです。ディスクリートだと電源供給は基本PCB銅ですが半導体の場合だと内部ワイヤー以降は半導体なのでこの部分の差はあるかもしれないと思っています。評判の良いオペアンプは消費電流が多いもの(THS4631)やディスクリート(LH0032)のように高速で電流が大きいものになっていますが、そういうスペックを実現するための設計が結果として音を良くしている可能性を考えています。
>マルチは方法論としては最善ですが、個別のDACの比較というのは普通は不可です。
うちもマルチだと比較ができないので、今は普通のSP環境も新しく用意しました。様々な比較実験を今後も行う予定なので私にとっては必要でした。
それにしてもDAC8台は結構たいへんですね。例の定在波対策を行うためには確かに必要かもしれません。
>最新のESSやAKMのモノリシックは、スイッチドキャパシタンスフィルター(SCF)とかその亜種を使っている筈です。これはコンデンサですから、振動にとても弱いです。ディスクリート型で敏感なのは、PLLのバリキャブぐらいですが、これはチップの外にあります。
これを聞いて思いついたのはDAC駆動中に特定の衝撃を与えて出力にどれくらい影響があるか計測することです。これで振動による影響はある程度評価ができそうに思います。もう手元にない個体もあるのですが重要な数機種は比較出来るかもしれません。
また振動特性とSCFの関係については無知でした。ただ私の知識だと実体のコンデンサのように電荷を貯める物質ではなくて、コンデンサと同じような挙動をする半導体スイッチングフィルターと思っていたのですがそのあたりは影響どうなのでしょうか。
ちなみにですがAKMは伝統的にSCFだったのですがAK4499以降はSCFではなくスイッチングレジスタ方式というものに変わっているようです。フィルターはIV以降になり、内部は抵抗をスイッチングしているようです。私の勝手な予測だと抵抗精度をスイッチングタイミングで補正しているのではないかという予想です。SCF相当があるかは不明です。ESSは私はあまり詳しくないですが、64個の出力電流エレメントが並んでいる方式だったように思います。こちらもSCFがあるかは不明ですが電圧出力が出来るのであるかもしれません。
>ディスクリートのマルチビットDSMを同じ環境で試したら、意外にもかなりPCMよりも良かったのです。その前に試聴環境は違いますがpcm1792を試した時は力弱い低音しか出なくて、とてもpcm1704には敵わなかったのです。
PCM1792は駆動力があまりないチップというのは同意見ですが、TAD-D600は駆動力があったので上記の振動やクロックの対策、そしてアナログ出力回路と電源回路、このあたりの工夫によって改善ができるのかもしれません。PCM179Xで駆動力があるDACはこの機種以外は知りませんが改善できている機種が存在するということはとても重要です。
なので最新チップの振動の影響はこれから調査してみたいと思います。情報ありがとうございます。
ご回答ありがとうございます。
FPGAともあったのでもしやと思ってしまいました。
AD9717で16bitPCM(16bit以上は一次のDSM)と3bitDSMの動作で、違いは送るデータフォーマットだけです。流している電流やその他の状態は全て同じです。このようなRF用高速DACは沢山ありますが、音声帯域でそこそこのSNRになるのは調べた限りではAD9717だけです。ADの旗艦チップだろうAD9747は期待しましたがまるでダメです。その他、TI製やMAX製、昔のDIP型など10ぐらい試した中で、AD9717だけです。電流源を4個パラにすると、PCMでもDSMでも110dBぐらいにはなります。
問題は電流設定のようです。使えない物は20mAぐらいは流して使います。RF用で出力抵抗が小さい事(50Ω)もあるでしょう。コンプライアンス電圧が高いので抵抗のみのパッシブで変換します。AD9717は4mAです。他を探すのであれば、電流値が一つの目安でしょう。
THDの件は、概念が違うのだと思います。市販チップのTHDは主に外部のIVとか実装状態で決まるのであって、チップのDSM動作自体を変えたりは出来ません。一方、ディスクリートDSMはAD9717のマルチビットだとIVはなくて、DSMの動作状態自体がTHDと言う形で観測されます。極論すると、3bitDSMでのTHD悪化は、3bitPCMに近付く方向にあるという意味です。実際、調整が上手く行っていない時、SNRは調整後と比べるとかなり悪くなります。
1bitDSMになると、更に概念的に違うでしょうが、THDとはDSMの理想状態からの乖離を測る一つの指標であって、普通に言っている高調波歪とは意味合いが違います。だから同じTHDでも全体の動作との関連性が高く、opアンプのTHDと比べられる概念ではないと思います。
それから音質比較という話になると、どんな音源かというのが決定的です。最近の録音だと、無音の再生に意味はないでしょう。ある程度の音圧がずっと続きます。定位という概念もモノラルならばありません。但し、モノラルにも奥行はあります。左右はなくても奥行が感じられないと不自然に聞こえます。そういう所も、良し悪しの基準の違いとなるでしょう。
AD9717に至るまで様々なチップを試されたとのこと、貴重な情報提供ありがとうございます。
こちらもAD9717を一度試してみるべきかもしれません。一見すると電流量が多いほうがSNが稼げそうですがそうではないのですね。理由はよくわかりません。DSMの場合理想波形に限りなく近くなければ理想特性から逸脱し即SNが劣化するのは自分自身の実験結果からもわかります。もしマルチビットとして使ってもSNが悪いとすると全く別の理由で劣化しているとなりそうです。DACチップでは電流量が30mA以上等最近の流行でもあるので、単に電流が多いことが劣化している理由ではないのかもしれませんが、このあたりは内部構造にも依存しそうなのでよくわかりません。
3bitDSMが劣化すると3bitPCMの特性に近づくというのはなんとなくイメージは出来ます。本質的には3bitの構成を理想DSM動作に近づけることでより深い領域の情報を表現しているので、それが不完全であれば元々の本質(3bit)の特性に近づくということかと理解しました。市販チップはおそらく内部的には特性が出るように予め調整されている。そうでないディスクリートの場合は調整が必要ということでしょうか。この辺は詳しくないのであっていないかもしれませんが。
ちなみにですが私の記事でbit数による音質差が感じ取れる可能性を示唆しているのはまさにこの部分です。人間は経験からの推測や直感能力があります。なので一見特性が似通っていても細部で違いに気づく事ができる可能性のお話です。特性が同じなら音は100%同じが事実でないなら、この辺のお話は可能性があると思います。
例えばですが目の錯覚がありますが、画像を機械で読み取ったとき人間の眼の錯覚現象はAIでパターンを学習しない限り予測できないのではないかと思います。耳でも同じようにデータ観測と知覚では見え方が違う可能性はあると思っていて、それがオーディオの現在の課題と捉えています。
1bitであればクロックと波形以外に誤差要因がないためTHD劣化はないと思うのでそういう意味と思っています。R2RだとPCM誤差はそのままTHD的に出ますし誤差を0には出来ません。R2R的な問題とクロックと波形の問題、どちらの理想を達成するほうが難易度が低いかという話です。ICではどちらも究極は望めないためマルチビットDSMになっているのが現状でしょう。しかし市販ハイエンドのディスクリート高特性DACが1bit系の設計が多い(Chord、MolaMola)のでディスクリートなら1bit系のほうが可能性がありそうですね。
残念ながら私の実験だとTHDよりSNの問題が解決できず、THDがどうこうという領域には到達していませんでした。このあたりは私が自力でFPGAを使えないので実質1bit系の探求はほぼ諦めています。
THDと瞬発力についての追加情報。あくまで当方の実験結果となります。相互の印象の差異は未知の要因がある可能性もあり、それは今の時点では不明です。一般的なAC電源で評価した場合はこうなるというお話です。
このような感じで同じプラットフォームで別のDACを共存比較出来るようにしています。小さい縦長のアドオン基板がAK4499、正方形の基板がES9038Proです。
このES9038Pro基板の特性は優秀でチャンネル誤差はあるのですが、一番悪いチャンネルでもAK4499より大分よいですし、その中でも一番良いチャンネルの参考例がこちらです。この1kのTHDは当然ながらADC誤差を含めての結果になりますが同一条件の比較では最も優秀で、特にスペクトルの裾の綺麗さは中華勢よりも良いです。概ねMakuaに近いジッター性能だと思われます。(残念ながら教えていただいたAudioTesterはドライバの認識が不調で最近まったく使えていません)
この結果からES9038Proのほうが力強い音が出ると予想されるかもしれませんが、実際にはAK4499のほうが特に低音の土台がしっかりしていて瞬発力も高いです。ES9038Proのほうは中高域が硬めなことを除いて、低域はむしろ柔らかく感じます。
この比較は同一筐体で行っています。ご覧の通りデジタル部は共通、電源回路もほぼ共通ですから、かなり同条件の比較なので他の要因は少ないです。誤差要因は基板の取り付け位置で左のほうがレギュレータから遠いので若干不利ですが、左がAK4499なのでこのレイアウトだとES9038Proのほうが有利な条件となります。
ちなみに同一筐体でケースを叩くとどちらもノイズフロアは変動します。変動の程度はAK4499のほうが最大振幅比で-130dB程度に収まっているのに対し、ES9038Proは-120dBを超えることがあります。差は10dB強ありますので結構な振動耐性の差です。この違いが影響している可能性自体は否定できません。
振動によるノイズフロアの変動はスペクトルの両脇に対称に現れていますからクロック系に影響を与えていると思われます。AK4499側はTCXO、ES9038Pro側は低位相雑音型なのでAK4499側がクロックそのものの性能として外乱に若干有利な可能性があります。MEMSならこの部分の性能は良いかもしれません(実はMEMS TCXOのSiT5356は音は良くなかったのですが…)。
以上参考データでした。