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自作ディスクリートオペアンプ

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アナログディスクリートの情報はオーディオ全盛期世代の力も大きく、幸い国内には情報がたくさんあります。書籍もたくさん出ていますので真似して作るだけなら正直そんなに難しく無いと思います。音質比較でも現在ならばTHS4631のようなディスクリートオペアンプの存在を脅かすようなICオペアンプもありますから、今からアナログディスクリートアンプを作るってのはそんなにメリットはないかもしれません。

ですが、何かの参考になればと思うのでここに色々と試してみてわかったことなどを書いてみたいと思います。正直ここよりも他のところを見てもらったほうが動作の理解等はずっと参考になると思いますが!

最初のディスクリート

失敗作から紹介します。相変わらず最初から高難易度のものに挑むタイプなのでいきなり作ったのはフォールデッドカスコードタイプのディスクリートです。AD829とかの中身と同じですね。とりあえずシミュレーションで定数の勘所を掴んで数字を決めてユニバーサルで組んでみます。回路図は当時のものはちょっとまずいところがあったので一部修正してアップします。大体このような感じです。でもこのタイプは部品が多くて作るのが大変な割に性能はそこそこなのでわざわざディスクリートで作るほどメリットは無いかなと思います。

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初段がカスコードブートストラップで耐圧稼ぎつつ同相ノイズに強くなりつつ入力バイアス電流削減です。電流はガバガバ流しているのでスルーレートは100V位は出せます。発振は怖いですけどね。R23+R24はオフセット調整の可変抵抗を想定しています。

ちなみに作るにあたって使ったトランジスタは実際に2N5551+2N5401で作りました。国内だと1815+1015が主流ですけど、せっかくシミュレーションに使っているのであえて主流から離れて作ってみました。このトランジスタは耐圧が160Vもあって電流も600mA流せるスペックだけ見たらかなりパワフルなトランジスタです。速度もスペック見ると300Mとかあります。ノイズ特性もデータシートだと良くないように見えますが実測してみるとそんなに悪くありませんでした。とはいえ初段以外はNFBで抑圧されるのでそんなに数字には出てきませんが。

そして実際に組んでみた写真がこれです。

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最初発振のトラブルとかありましたがちょっと補正したら普通に動きました。シミュレーションで検証したわりに普通に動くものです。経験上の話ですが、発振安定性はシミュレーション通りには行かないことが多いですが、スルーレートと矩形波応答はシミュレーション通りに行くことが多いです。特に矩形波応答とか実装ミスって複雑で変な波形になってるのもシミュレーションだとほとんど正確に同じ形が出るので面白いです。定電流回路とレギュレータを使っていると大体正しい電流量になるので応答は再現しやすいということだと思います。発振や高周波の挙動がシミュレーションで不正確なのは、寄生インダクタンスなどが再現されないからだと思います。

これは見た目は正直最悪ですけど音はそんなに悪くなかった印象です。ここまでは何も問題ありませんでした。多分フォールデッドカスコードのこの回路図の構成までならば比較的安定性も高くてトラブルになりにくいと思います。

AD797型に改造

この構成は難易度が高いです。正直いきなりやるべき構成じゃないですね。ブートストラップをつけることで理屈上ゲインも増えて音質はフォールデッドカスコード単発よりも良くなるのですが安定性が悪くなります。普通に使っている分には故障とかしませんけどちょっと変な使い方したりすると壊れたりします。シミュレーションでも再現できないのでなかなか原因がわかりません。でも定数のバランスを変えるとオペアンプとしてはすぐに動作しなくなるので不安定になりやすいのは間違いありません。怖いですね。

回路の概要なのですが、他に優秀なページが沢山あるのでここであえて書く必要を感じませんが、一応書いておきます。まず基本の図はこのような感じです。標準フォールデッドカスコード型の出力にトランジスタを追加してひずみ除去を入れた回路です。電流の出入口が増えているのでバランスが崩れる要因が増えています。この図のI5+I1の電流と、I3+I4の電流バランスに加えてQ7のバランスも取らないといけないのでかなり難易度が高いです。バランスが崩れると性能が出ないか、動作が崩壊します。

ということで正直これはシミュレーションで高性能にできても実際に組むとダメになりやすい方式です。相当スキルに自信がないならやるべきじゃありません。本当は高速安定でゲインも稼げるという理想の回路のはずなのですが現実は(ディスクリートでは)なかなか厳しいです。

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この構成は選別無しのトランジスタでは差動精度が崩れるので性能が出ません。シミュレーションするとわかるのですが差動の微妙なバランスがゲインを大きく左右します。なのでトータルではそれほど大きなゲインを出すことは出来ませんでした。挙動を観測した感じだと普通の組み方では大体100dBくらいが限界だと感じます。それでもノーマルのフォールデッドカスコードだと80dBくらいなので十分高性能にはなるのですが。

しかしオーディオ用で高性能を目指すなら、この後紹介する二段増幅のほうがシンプルかつ安定した高性能で良かったです。いまどきのトランジスタなら結構高速なので普通に二段増幅で安定してゲインを稼いだとしてもそこそこ高速に出来ます。なのでわざわざこの構成を取る必要は無いと思いました。さらに速度重視でいくなら電流帰還型に行ったほうが良いです。あと部品点数がすごく多いので何度も組むと大変というのもあります。DAC一台あたりIVと差動で6個要りますからね。

というわけで色々やった結論としては、このAD797型はトリミングで高精度に出来るICだからこそメリットが有る、高性能に出来る構成だと思いました。この結論になるまで4-5個くらい似たようなタイプを基板改造して作ってみましたが、安定性、性能でそれほど向上もありませんでした。もうやりません。

もしディスクリートで性能を出すならSAYAのオペアンプみたいに終段にFETを入れて超ハイインピーダンス受け+ひずみ除去とか更に高度な構成に作りなおさないとダメでしょう。SAYAのユニットはディスクリートのフォールデッドカスコード構成でゲイン140dBとかすごすぎる性能ですが、部品点数もやはり凄いです。

最後に測定データと作ったAD797型ディスクリートオペアンプの写真を載せておきます。

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この測定はこちらのページの条件と同じです。ゲイン1001倍なので歪率も1/1001のはずという推定です。これで読むとTHD+Nで1kで0.00003%で10kで0.00006%という数字らしいです。本当かよ、と思いますけどDACでICと交換して測定しても全然歪が劣化しないのでそんなに間違ってないと思います。ノイズはICオペアンプと比較して、だいたい2nV/rtHzくらいです。これは初段の構成で大体決まりますね。画像はありませんが一段増幅なので矩形波応答はすごく綺麗です。スルーレートは最終的に25Vくらいにしたと思います。

というわけで安定性と部品点数に難はありますが、測定データ自体は悪く無いところまで頑張って持って行きました。でもオススメはしません。

おすすめのディスクリートアンプ回路

失敗作の紹介の次は成功例です。安定性、部品点数の少なさ、選別なしで性能を出すベストの回路構成はコレだと思います。ここにはロマンは全く無いですけどね。超ありふれた回路構成です。

この構成の何が良いかというと、二段目が差動ではない片側ダーリントンなのでトランジスタの精度が関係ないことです。ディスクリートはばらつきがどうしてもあるため選別しないとと言われますが、その理由は差動精度確保が目的です。この構成ならその差動精度の要求自体を減らすことが出来ます。もちろんQ3+Q4のズレはでてしまいますがこれはある程度許容して二段目で大きなゲインを確保し、細かい誤差は強引にNFBで補正するというディスクリートに向いている構成だと思うのです。もちろんオフセット調整またはDCサーボは必須ですが。

実際にシンプルかつ高特性を出しているディスクリート構成について調べてみると、この回路構成を取っているものが実際の性能も高いです。(こちらの測定データによる)

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国内では二段増幅のディスクリートというと、↓みたいな差動を二段重ねている形式がメインのようですが、これは差動精度を確保しないと意図した性能が出ないんじゃないかと思うので、選別しないで特性重視するならばあまり良くなさそうと個人的には思います。部品点数も多いです。(これはLH0032の等価回路)

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このような構成を取るなら三段増幅も見えてきます。図は下のようなものです。ディスクリート二段でもゲイン120dB以上はいけるので3段なんて必要なのか?と思いますがICの5532とかはこれと似たような3段構成ですね。それでも5532は100dB位しかゲインがないのでICのトランジスタはよほど性能が悪かったのだと思います。ディスクリートなら普通に二段で十分な増幅ができるのでここまで凝った回路はいらないでしょう。

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この三段構成を見ると、初段がNPN、三段目のダーリントン増幅段もNPN、二段目のPNPは高周波をコンデンサでパス出来るようになっています。昔のプロセスではPNPトランジスタの性能が悪かったようなのでこの二段目の折り返し増幅はPNPトランジスタの弱点を隠すのにも有効ではないかと思います。折り返すことで初段も三段目もNPNにできますしね。差動の折り返しにはそういうICならではのメリットもあったのでしょう。

実際の回路

簡略図ではない実際の回路を紹介します。部品点数がかなり少ないですが意外と安定性も高く、この回路図のものは今までの実験で酷使しても一度も故障したことがありません。トランジスタは10石で、他のパッシブ素子も出来る限り部品が少なくなるようにしています。しかしカレントミラーは残したり、定電流回路があったりと、要所で性能を維持するための回路はきちんと乗っています。この辺りをケチってしまうと電圧や外部要因ですぐに特性が変わってしまいます(電圧で電流量や降下電圧が変わる等)。どのような環境でも安定させるには抵抗だけという箇所はできるだけ減らしたいです。その点この回路では抵抗のみに動作を依存するのはR5だけです。

ということで、選別しなくても特性もかなり良くて作りやすいので利点が多いのですが致命的な欠点が2つあります。

  • 矩形波応答が乱れやすい。C2が帰還型なのでわずかなピークが残る。
  • 入力バイアス電流が大きすぎる。5-10μAはあるので入力回路には向かない

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初段のQ3+Q4の上ですが、定電流回路があるのでR3+R4はなくても動作しますが、黒田先生の本によればこの抵抗があることでカレントミラーの精度を高める効果があるのでトランジスタの選別をしないなら、この抵抗はなくすことは出来ません。

Q1+Q2は実際には5551を使っています。これでだいたい実測で3nV/rtHzくらいのノイズ性能になります。上にも書きましたが初段の電流量が大きめのため入力バイアス電流が非常に大きくなっていて5-10μA程もあります。なのでこのままの構成ではアナログアンプの入力回路には使いにくいです。カップリングコンデンサを大きくした上に入力インピーダンスを高くすることが出来ないからです。対処法は後で紹介します。

R2+R7は可変抵抗でオフセット調整用です。

二段目は素直なダーリントン構成です。よくある作例ではQ6の上側にごちゃごちゃ入っているものが多いですがこの構成ならここは何もなくてもそれほど支障はなくて抵抗を入れるとDCゲインが下がります。なので思い切って無くしています。Q6の抵抗の動作ついて追記します。ここのエミッタに抵抗を挟んだ場合はループゲインは下がりますが温度、Hfeに対して電流安定性が向上し、この部分の歪の発生が抑えられることが利点です。エミッタ接地の電流帰還バイアスで調べると詳しい情報があります。初段カレントミラーでもHfeの誤差を減らす目的では同様の構成です。

D1は保護用です。これがないとスイング電圧付近でQ5が暴走してQ6も死にます。D1が入っていればスイング限界に張り付いても大丈夫です。D1入れてからは故障知らずです。

D4はバイアス用のLEDです。1.8V用を想定しています。R11+R12で電流量は調整できるのでトランジスタ+可変抵抗の伝統的なタイプは使いません。本アンプはアイドル電流は適当に流してNFBでガッツリ補正するスタイルですので、部品点数を減らすことを優先しています。しかもどこで見たか忘れましたが、ここの部分はLEDのほうが音質はいいらしいです。

D5、D6は保護用、矩形波応答改善用です。なくても動作は問題無いです。

トランジスタを全部5551+5401で作ると耐圧が無駄に+-80Vになります。+-40Vくらいならかなり余裕で動作するんじゃないでしょうか。それで出力にパワートランジスタをつけたらパワーアンプにもそのまま使えそうですね。実際に+-80Vを掛けたことはありませんが。その場合はR5は少し増やしたほうがいいかもしれません。電圧が高過ぎるとLEDにかかる電流もかなり増えます。

シミュレーションのゲインと矩形波応答

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DC付近で+150dBとかありますがこれは外部要因で簡単に変動します。ですが二段増幅のお陰で大体どんな条件でも120dB-130dB位は安定して稼げているイメージです。AD797型のディスクリートは90-140dB(瞬間最大)くらいはすぐに動作条件で変動するので、それと比べるとかなり安定しています。

あと発振と位相補償についてですが、経験的には20kHzで70dBのゲインがあるとほとんど発振寸前です。10kHzで70dBなら回路で正しく対応すれば発振しないという目安があります。C2の位相補償でこのあたりは調整可能ですが100pのこの図なら簡単には発振しないだろうと予想できます。実際に試してみた経験則では、このアンプの位相補償は47p-270p位がオススメです。低いほど性能が良く音質もキレが出てきますが47p以下では安定させるのは難しいです。

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矩形波応答はこんなかんじです(写真はないですが実際の測定でも似たようなデータ取れます)。この図でスルーレート40V位です。二段増幅のこのタイプにしては十分高速で安定している応答な気がします。位相補償が局所帰還になっているので立ち上がりの小さなピークはどうしてもなくせません。フォールデッドカスコードではこのようなピークはないので、矩形波応答を完全に素直にできないことは、この回路の弱点の一つです。

実物の写真

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上の回路図を見て、熟練者ほどベース抵抗を入れて局部発振対策や局部帰還を使って念入りな発振対策を一切していないことを指摘するかもしれませんが、基板への実装はユニバーサルではなく、写真のような面実装品のみで配線も最短距離で作っているので問題になりません。実は事前に局部発振の実験はAD797基板で色々やったのですが面実装ならばベース抵抗がなくても問題がないことがわかりました。面実装だとパーツの寄生インダクタンスがかなり低くなるので何も入れなくても発振は起きません(1GS/s、100Mhzのオシロで確認済み)。

経験上リードタイプの抵抗は厄介で結構寄生インダクタンスが大きいです。高速アンプのNFB内では抵抗のL成分が理由で発振するということがあります。その点で面実装の抵抗を使えば部品の形状の特性から高周波特性も優れていますので問題は起きません。これにより部品点数を削減できる上に高周波での特性も素直に出来る手段なので、これからは面実装を積極的にアンプ設計に取り入れることはむしろ有利に働くと思います。熱結合も極小の基板で直近なので必然的に温度は近い状態になりますし、そもそも選別していないので熱結合は必要性を感じていません。自作歴の浅い自分のようなタイプからするとこだわるトランジスタとか部品もないのでむしろ好都合です。

音質面では抵抗にこだわりたいというのもわかるのですが、このアンプの場合巨大なNFBがかかりますし、NFBをかけると抵抗の音質の違いはかなり小さくなる(実験済み)ので、逆に面実装品を多用して発振安定性を確保してトータルで大きなNFBを確保するほうが、不安定な高音質抵抗をビクビクしながら使うよりもスマートな解決法だと思いました。

測定値

http://innocent-key.com/data/yohine/opamp/opamp_measurement.html

こちらのDiscrete自作というのが測定値です。部品点数が少ない割にICオペアンプ並みの歪率です。10kHzのTHDならLME49990より良くてトップでした。これでもう少しノイズを減らせれば一位も狙えそうです。

入力バイアス電流削減と測定値の戦い

二段増幅のディスクリート回路は特性も音もよく部品もシンプルで選別いらずと利点が多いことがわかりましたが、入力バイアス電流が大きすぎるのが最大の欠点です。このままでは限られた回路にしか使えません。そこで特性や音質、部品点数も出来るだけ少なく維持して入力バイアスを減らす有効な手段があるのかどうか調べてみました。個人的にはこの検証でJFETで特性を出すのは難しいということがよくわかりました。

1.JFET入力に変更する

カスコードブートストラップを入れないでそのまま差し替えた場合部品点数は一切増えないのですが測定も音質もダメダメでした。これなら2のダーリントン構成のほうが音質は良いです。歪率は大幅悪化でかなり荒っぽい音になります。だいたい歪率はICどころではなく他のディスクリートオペアンプの測定例と同じくらいまで一気に悪化します。入力バイアスは当然ながらかなり減りますが、入力をJFETにするだけでこんなに歪率って悪くなるものなのですね。これはダメダメでした。

2.初段をダーリントン構成にする

これは部品が2個しか増えないので部品の増加を少なく抑える対処法です。しかしこれはその分ノイズが増えてしまいます。測定画像は残してませんがノイズフロアがしっかり6dB位増えてしまい、音質的にもちょっと濁った感じになります。単なるJFET差し替えよりはマシですが、ノイズが増えて音質が劣化するのはいただけません。入力バイアスは理論通りHfe分しっかりと減りますがJFETにはかないません。

3.JFET+カスコードブートストラップに変更する

ページ一番上のフォールデッドカスコード型アンプの初段と同じ構成の回路です。部品点数は結構増えます。ですがこれも意外と1と似たような結果でした。もちろん歪率は1より良くなっているのですが初段トランジスタのオリジナルには全く測定でかないません。ICオペアンプの中では悪い歪率(OPA604くらい?)になります。もう少し特性を上げたいですね。でも悪くはない折衷案です。音質も独自のカラーが付加される程度でまずまず許せるレベルでした。

4.入力バイアスキャンセル回路を組む

部品点数が大幅に増えますがディスクリートでの作例がないので実験してみました。回路図はこんな感じです。トランジスタが変わっていますが挙動の調査のために色々なトランジスタに変えた名残です。こんなのディスクリートでまともに動くのかよ、と思いますが、さすがにこれは精度維持のためにデュアルトランジスタを使ってペアを組んでやってみました(ついでにわざわざ基板も起こしました)。

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その結果、特性も劣化せずノイズも増えず入力バイアスにも効果はありましたが、ICのように劇的な効果はありませんでした。10μAだった入力バイアスが2μAになる位の効果です。これはあまり副作用がなくていいんですが、部品点数が大幅に増えた割には入力バイアスは大して減りません。せめて100nA位になってくれれば大規模回路でも検討の余地はありますが2μAじゃあ全然ダメですね。やはりこの手の高精度を必要とする対策はICの独壇場です。

5.JFET+カスコードブートストラップ+ダイヤモンドバッファ

3から出力バッファの回路変更です。シミュレーション上ではこのような構成に変更しても既にゲインが振りきっておりボード線図では全く変化はないのですが、SEPPと比べるとハイインピーダンス受けができますので少しゲインを高める効果が期待できそうです。普通の二段増幅だと二段目のゲインが十分高いのでこのような工夫は不要だと思いますが、実際にやってみるとシミュレーションでは効果がなくても測定結果にはかなり効果的でした。ここまでやると実測特性はトランジスタ版とかなり近くなります。音質もこちらのほうがオリジナルより上かもしれません。当然ながら入力バイアスも劇的に小さくなります。理想動作です。ただし部品点数は大幅増加になるので当初の部品点数増加を抑えての対処は達成できませんでした。完全な力技だと思います。

2ポール位相補償

位相補償を二段構成にして出来るだけオーディオ帯域用のゲインを稼ぐ手法です。副作用としては矩形波応答が乱れやすいので定数を吟味しないと癖のある音質になってしまうかもしれません。調整が面倒ですが測定特性には効くはずです。しかし現在ICオペアンプでこれを使っているものはもう無いんじゃないでしょうか。位相が乱れるので使いにくいのでしょう。後は特性的に行き着いておりここまでする必要がないというのも理由としてはありそうです。回路図を出します。このような感じです。

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何もしなくてもIC並の特性だったのでここまでやる必要があるかどうかはともかく、この図では1kHzで120dBもゲインが稼げていますね。そのかわり10kHz辺りの位相余裕はピンチです。一応これも実際に作ってみましたが発振はありませんでした。矩形波応答もほぼシミュレーション通りでした。2ポール位相補償を入れると中域のクリアさは確かに上がります。追加の部品点数が少ないので気軽に試せますが劇的な効果はないです。ちょっと良くなるくらいです。

ちなみにここまでやってもTHS4631のほうが音が良かったので、DC精度、サイズ、コスト面でも劣るディスクリートの時代は終わったと思いました。ディスクリートアンプを活かす道は個性的な音質を作るとか、耐圧位だと思います。