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国内でも躍進するUcD方式アンプ


つい先日発表されたようですが、ようやくというかついに国産大手のマランツからというUcDを搭載した比較的廉価なDACつきプリメインアンプが発売されるようですね。

http://www.phileweb.com/news/audio/201511/04/16583.html
http://av.watch.impress.co.jp/docs/review/review/20151126_729693.html

こちらのサイトでは大分前からUcdが良いクラスDアンプだという話は書いてきました。おそらく国内でUcDモジュールについて中身の踏み込んだ話やオリジナル基板での実験も含めると、現在最も踏み込んだ情報があるのが当サイトになっていると思います。

その最大の目的は国内で全くの無名だった優れたアンプ方式の存在を広めたいという意志がありました。しかしここでようやく大手企業が広告宣伝費をかけて一般に告知してくれてましたので、こちらのやりたいと思っていたうちの一つの目的は達成されたといっても良さそうです。

ただしローエンドのDACが乗っていたりとこの製品はそれほどメーカーとして気合の入っている本気製品ではなく、きっちりとコストダウンが図られている製品のように見えてしまったのでUcDのポテンシャルがきちんと評価されるような製品になっているかどうかは疑問な部分はあります。もしこの製品でイマイチだと感じたとしてもそれが即UcDの評価にならないと良いのですが…。一応ですが書ける範囲でその根拠については一番下に記載しました。

前回のDDFAとUcDの比較はこちらに測定データや試聴の印象などもあります。>記事リンク

使われているUcDモジュールについて

せっかくなのでこちらではあまりほかのサイトでは解説されないような内容について突っ込んで書いてみたいと思います。

まず心臓部のUcDモジュールですがマランツのHD-AMP1はUcD102OEMというものを使っています。Hypex社のモジュールにはOEMとそうでない一般向けの二種類があります。型番から100Wステレオというスペックのモデルだと推測されます。なぜならUcDは一般向けに180、400、700の3種類がありますがそれぞれ180W、400W、700Wという4Ω時の出力スペックが由来だからです。そしてアンプの画像を見ると出力コイルが二系統ですから100Wが2個で102と推測できるわけです。

ucd102UcD102OEM

ちなみにOEM向けは出力がもっと細かくラインナップされていて、250等の中途半端なものや超小型のモデルもあります。こちらのモジュールは位置づけとして下から二番目という位置づけです。

ただしOEM向けは個人や小さい会社には売っていないようで、長文メールで何度も交渉したのですがOEMモジュールについては一切出荷NGという回答でした。マランツは大手なので一発OKだったのでしょう。こういうところは販売実績とかブランド力(要するに金の力?)によるところだと思うので悔しいですが仕方ありません。

OEMモジュールの特徴なのですが、OEMと一般向けで一番異なるのはインプットバッファで、OEMではインプットバッファをバイパスすることが可能または最初から搭載されていません。このバッファの設計は各メーカーが音作りの個性を出せるようにするために主に利用する部分です。だからアンプゲインが低いというはOEMだけで一般向けはデフォルトでインプットバッファが乗っていますから普通のパワーアンプのゲインと同じです。

あとOEMモジュールの特徴として単一のピンヘッダに全ての機能が割り付けられており、一般向けよりも細かい電源や保護のための制御ピンも出力されていたりとより製品向けのチューニングが出来るようになっています。そしてピンを差しこむだけですべての機能にアクセスが出来る=量産の手間が少ないというわけです。それに対して一般向けは分かりやすいように機能ごとの端子が分かれています。

UcD180HG
一般向けモジュール UcD180HG

このUcD102OEMは記事の説明からみるとゲインが低いので苦労したような話があるのでインプットバッファは省略されているモデルのようです。実はこのUcD102OEMというモデルは以前のHypex社HPには掲載されていなかったモデルで、採用例を調べてみるともともとNAD社向けの特注設計だったもののようで、実際の採用例はというモデルしか情報がありません。

NADD3020Amp3

このNAD D3020はマランツより大分前に発売されたモデルですが、このモジュールのD3020用に特注したものをOEMとして提供しているもののようで、D3020のモジュールの画像を見るとアンプモジュールは他では見ない青色の基板で一部搭載部品が違います。青色はNAD以外では採用例を見たことがないのですがNADは大手なのでそのような対応が可能なのだと思います。

Ampli_face_1_s

UcDの音質限界とNcoreの登場

さてUcDの音質なのですが、自分自身が経験してきたクラスDスイッチングアンプの方式の中では最もアナログアンプに近いというか高域にきついところのない音質なのは記事のとおりです。ですがアナログアンプと決定的に違うところは低域が非常にすっきり(量が少ないとか伸びない低音とは異なる)している点で、様々な実験結果からこれはクラスDの独特の特徴のようです。この部分はUcDも従来の国産デジタルアンプと同様の傾向です。

UcDの最大の利点はクラスDの見渡しの良い低域を維持しながらアナログのようななめらかな高音、そして出力フィルタを含めたNFBを実現していることで全域にわたって癖の少ない音質を実現していることが特徴だと思います。

注意点としては従来のクラスD独自の音の個性や高音が好きな方はUcDではおとなしすぎると感じる可能性があり、個性として物足りないところがあるかもしれません。もちろん真空管や普通のアナログアンプのような中低音の厚みがほしい方はそもそもクラスDを選ぶのは間違いだと思います。

NC1200-Amplifiers

また現在ではUcDをより発展させたNcoreという上位UcD方式のラインナップが存在します。現在いろいろ比較してきた結果ですが、今こちらで実験している最新のDAC(AK4495採用のもの)では実はUcDではDACのグレードの違いがだんだんはっきりと表現できなくなってきています。以前の記事のPCM1792dualくらいまでならUcDでもDACのグレード差や違いがわかったのですが、それ以降のDACの進化による違いを描写するためにはUcDの表現力、SN?ではやや足りなくなってしまい、細かい部分が見えなくなってきています。

それ以降最新DACと組み合わせる場合にはNcoreを持ってこないとパワーアンプの部分がボトルネックとなり表現が制限されていると感じるようになりました。UcDは今となってはハイエンド向けではなくミドルレンジ向けかもしれません。おそらくですがDACのレベルで言えばChord Hugoシリーズなどと組み合わせる場合もUcDでは力不足になるように思います。

海外大手NADのスイッチングアンプ布陣

デノンからDDFA、マランツからUcD、ここにきてクラスDで最有力だと思われる2方式が国内大手からの取り扱いという形で出揃いました。一時日本でクラスDは流行し各社独自方式で熾烈な競争があったように思いますが、結局は流行の終了とともに性能向上のための開発はN-modeなどのごく一部の例外を除けば国内ではほとんど開発が終わってしまったように思います。しかしその間も性能向上の努力を続けていたこれらの海外発の2つの方式が現在では最有力といってもいいでしょう。

そして日本では全くの無名ですが、海外で数年先んじてDDFAもUcDも一連の製品ラインナップしかも手頃な価格として取り揃えている大手メーカーがあります。それはNADという会社です。

 

nad
NAD社の同等ラインナップ

このNADの小型機のラインナップではUcD採用のD3020が下位、DDFA採用のD7050が上位という位置づけになっています。縦横どちらでも置けるデザインはPMA-50がおもいっきり影響を受けていますが、国内ではUcDとDDFAの関係、PMA-50とHD-AMP1の関係はちょうど上下の位置づけが逆という展開になっています。この辺りはアナログの物量次第で簡単に逆転する部分なので別に方式だけで決まるわけではありませんが、国内とNADでは逆の扱いになっている点は面白いところです。

ちょっと余談ですが個人的にこのNADで一番面白いモデルは下のDACでDDFAを使った一般的なDAC-ICを使っていないとのことで、StereoPhileでもなかなか優秀な特性を出しています。

m51

このDACは一度音を聞いてみたいところなのですがなかなかその機会はありそうにないです。なにしろ国内では取り扱い代理店がなく日本からNAD製品を購入しようにも次のように表示されて日本向けの出荷はしていないようです。

We’re Sorry!

Country detected: Japan

Currently we are unable to ship directly to your country from the online NAD store.

国産大手とも張り合えそうなメーカーなので日本向けの出荷や代理店があってもいいような気がしますが、国内企業にとってはかなり競合する価格とラインナップになると思うので、もしかしたらNADには日本進出&代理店は作らない話とかあるんでしょうかね。このへん詳しくないのでただの想像なんですが。でもそうなると国内のメディアでは当然NAD製品は今後も取り扱われることもないし残念ながら国内で話題に登ることもありそうにないですね。ですがここは上記のように製品ラインナップが非常に面白い先進的なメーカーです。

HD-AMP1の内部構成について

最後ですがこちらはネットで公開されている記事からわかることを書きます。あまり前向きな記事じゃないので一番下に掲載しました。

hdamp1block

HD-AMP1の内部ブロックの構成は全くシンプルではない構成です。一見よくある構成+十分な物量投入をしていてコストパフォーマンスが良いようにも見えますが、物量を投入する場所の選択が個人な意見ではですけどあまり音のクオリティには貢献していないように思えます。これからその理由を説明します。

まずはオンライン記事からの開発者の発言を引用です。

「第一に、Hypexのスイッチングアンプ・モジュールは、ゲインをほとんど持っていません。ゲインが10dBちょっとしかないのです。先ほどの『パワーアンプの後ろ半分でしかない』とは、この特徴によるものです。よって、パワーアンプ前段は自前で開発する必要があるのです。第二に、Hypexはアナログ入力しか持っていません。これ自体は我々にとっては都合がよいことなのですが、その上、Hypexのアナログ入力はバランスでないといけないのです。よって、プリアンプの終段で、アンバランス/バランス変換を行う必要もあります」

ここで重要なのはこのキーワードです。

  • パワーアンプ前段でゲインを稼ぐ必要がある
  • アンバランス/バランス変換を行う必要がある

UcDモジュールを扱おうと思ったとき深く考えずに従来のアンプ設計の延長でいくとこのような考え方になるのかもしれませんが、わざわざバランス出力+I/V変換仕様のDACを使っているならこのような編成にする必要はないと思います。現状だとおそらく2VrmsレベルでDACから出力し差動合成、その状態で内部を引き回し、ボリュームで減衰させた上、最後にアンバランス>バランス変換+ゲインを稼ぐという構成です。

ですが本当はそのようにする必要はないし、アンバランス>バランス変換回路も不要だと思うのです。この状態だとアンバランスの状態で引き回しているのでノイズに弱く、しかも途中経路のノイズが乗ったあと最終段でバランスに変換しているようです。ここでノイズごとゲインで増幅しているので最終的にアンプから出力されるノイズは多くなってしまいそうです。もちろんこのノイズがメーカーによる確信的な味付けだというなら別にいいと思います。

自分ならI/V変換時にUcDのゲインに適合するような出力になるよう設計し、そのままバランス信号のままUcDアンプへ入力します。スイッチング電源+スイッチングアンプと同じ筐体なのである程度の高周波ノイズ漏洩の影響も考えられますから、なるべく信号レベルの高い状態&バランス信号で内部を伝達するべきです。このような方法のほうがS/Nに強く回路的にも無駄のない方法でしょう。そして以前から主張しているようにDACのSNが一定以上ならばアナログボリュームよりもデジタルボリュームが優位になりますからDAC側は基本デジタルボリュームで調整する仕様とします。もちろんアンプへの入力ゲインを増やし過ぎないように設計し必要以上にデジタル段で音量を絞り過ぎないように配慮します。

この辺りの話を主張しているのは私だけじゃなくて、SAYAのアンプも同じような問題について解説もあります。デジタルボリュームについてはさすがに書いてないですが、プリメインアンプの従来の設計での信号レベルの問題についてはきちんと説明があります。ここはさすがに技術的に私レベルでなにか言えるような感じじゃあないですね。文句つけるような内容は特にありません。

http://saya-audio.com/_userdata/TechnicalGuideSaya5200.pdf

話をマランツに戻しますが、もう一つ気になるのはES9010K2M(9018ではない)というESSでも最低ランクのDACかつシングル仕様でUcDもデュアルモノ仕様ではない点です。シングルDACにステレオUcDモジュールを使っているのでチャンネルセパレーションは一線を越えることが出来ない(100-120dBが限界)でしょう。自分ならDACはデュアルモノで電源回路へ物量を投入しその分アナログ信号回路編成は差動合成のアンバランス変換を削除してシンプルにしたいと考えます。しかしマランツの方法は逆でDAC部とアンプ部の物量投入を抑えてHDAMやレベル変換、アンバランス/バランス変換回路など信号回路の数をむやみに増やしています。

しかしアナログ信号回路の段数を増やしてわざわざ手数の多い構造にした理由はメーカーの個性を反映するための音作りが目的で、そのような演出された音のほうが一般的なこの価格帯のユーザー層にあっている可能性はあるのかもしれません。その代わりストレートさや純度、SN、分離などの基礎クオリティは犠牲になっているはずですが、それを知っている大手ならではの判断基準でしょうか。これも勝手な想像ですが、ここに書いているような方法を真面目に行うとコストが最小限でも上位のセパレート機種の音質を脅かすため、製品ラインナップの整合性の都合上あえてクオリティを落としている等もあるかもしれません。

ということで上図のブロック構成と内部設計の事前情報から分かる内容についての超個人的な意見でした。しかしさすがに大手らしく仕上げは綺麗、価格が安い割りに最新ハイレゾスペックに対応と機能面が充実している仕上がりで、このような部分は個人ではなかなか実現困難な部分かと思います。あとはブランドらしい音質を大手はきっちり確保してくると予想されるので、最後はそこに価値を感じるかどうかという部分でしょうか。

とはいえ音を実際に聞いて書いているわけじゃないのでこの辺の内容は話半分以下のお話でお願いします。