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ICE EdgeとICE Powerの戦略

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面白いものを見つけました。どうやらICE-PowerがIC化するようです。これによってクラスDアンプの時代がまた一つ変わりそうです。

http://www.icepower.bang-olufsen.com/files/solutions/iceedge_brochure_final_20150624.pdf

しかも特性面も今までより向上しています。IC化の最大のメリットは大幅なコスト削減、次にユーザーサイドの設計の自由度の向上です。スペックを見るとゲートドライバ方式で外部MOSFET仕様のためIR社のIC同様に出力のレンジが非常に広い(25-1200W)ため、やり方次第ではコストダウン特化することも、ハイパワーアンプ特化とすることも可能になりそうです。

こちらが特性なのですがICE-Powerの最大の弱点だった、高周波にいくほど特性が悪化する点は大幅によくなっています。6.67kHzで全く特性が劣化していないので今回は期待が持てそうです。またフィルタ外からのフィードバックを持つことで負荷インピーダンスによって周波数特性が影響されないのもICE-Powerの一つの特徴です。これは現在だとICE-PowerとUcDだけの特徴です。現行ではDDFA、Nuforce含めてそれ以外のクラスDアンプでは実現できていない特徴です。この特性が優れているということはつなぐスピーカによって周波数特性が影響されないということです。

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あとはICの価格次第ですが大手半導体メーカーの既存ICと大差のない価格帯でICをリリースするなら、これによって一気にICE-Power方式が普及する可能性もあるのではないでしょうか。しかし今までICE-Power公式がモジュールで販売していた戦略をやめて、ここにきてICでリリースする理由は何故なのか。これについて考えてみました。

ICE-PowerがIC化する理由

個人的な意見では、これは特許が絡む重要な今後の状況変化が関係していると思いました。

ICE-Power特許情報
https://www.google.com/patents/WO1998019391A2?cl=en&hl=ja

こちらがICE-Powerの特許と思われます。出願日が1997年10月31日ですから有効期限20年とするともうすぐ切れそうなことがわかります。もし特許が切れたらどうなるか。おそらく大手半導体メーカーからこの特許を利用した現在では達成できないような優れたクラスDアンプICが普及価格帯でどんどん出てくることでしょう。ICなのでかなり安値になると思います。おそらく高くても数千円レベルでしょう。

いままではこのICE-Power特許があるせいでフィルタ外からのフィードバックを含むクラスDアンプのICは大手半導体メーカーから発売されることはありませんでした。たとえば現在大手半導体メーカー発売されている構成はたとえばこういうものです。

classd_block

このように一般的なものはLPFの手前から単一のフィードバックをとっています。特許で固められていない方式ではこれが一番高特性が出せるので、特許を使わずに大手がやれるのはここまでです。

ice_block

一方ICE-Powerのブロック図はこちらです。COMとMECCについての詳細は難しい話なので書けませんが、COM単体でも上記の通常の自励式クラスDより特性が優れている上、さらにフィルタ外からもう一つフィードバックして組み合わせる手法を使っています。大手メーカーがこのような構成にすることで特性を改善できるのはわかっていても、特許に触れるので結局他のメーカーは使えないというわけです。

しかし特許期限以降からはこれと同じものが他のメーカーでも使えるようになります。そうなると各社から一斉にIC化、大幅なコストダウン、そして競争と普及、こういう未来が待っているでしょう。だからこのタイミングで特許を持っているICE-Power本家が、大手半導体メーカーに先んじて高特性のIC化をして大幅にコストダウン、そして先にシェアを確保しておきたいという狙いではないかと思いました。特許切れを前にしてついにICE-Powerも本気になって先手を打ったということでしょうね。タイミング的にも丁度よい時期です。

もちろんこの原理的な限界はUcD方式より低いわけですが、それでも特許が切れた以降は現在より優れたクラスDアンプの製品が各社からIC化によって普及価格でどんどん出てくることでしょう。非常に楽しみです。UcDも特許が切れたら同じような流れになると思いますがそれはまだまだ先の話です。

個人的にはパッシブ部品も外付けになり電源も外付けということで設計の自由度も高そうなので、もしICEedgeのICが手に入るようになったら是非自前設計基板でチャレンジしてみたいです。

クラスDアンプ原理の進化と特性差

前にも紹介していますが、なぜICE-Powerが従来の自励式より高特性なのか、そしてUcD方式の優秀さについてはこちらの資料が大変詳しいので、掘り下げて理解したい方は是非こちらを見てください。保存版です。(自分も100%は理解できていません)

http://tec.icbuy.com/uploads/2012/6/11/download.phpSmall-signal_modelling_of_self.pdf

これを見るとICE-Powerの方式は中間世代であることがわかります。ここで紹介されている原理的に最も優秀なのはUcDです。かなり難しい内容なのでとても詳細については紹介できませんが、わからないなりに出来るだけ説明を書くとこんな感じです。

  • アナログアンプ異なり、クラスDアンプ仕上がりゲインは増幅段のゲインと無関係である
  • クラスDアンプのゲインはスイッチング周波数とコンパレータに入力されるキャリア周波数の立ち上がりゲインで決まる
  • なのでどのようにキャリア周波数を提供するかが同じスイッチング周波数なら特性差になる
  • 外部クロック供給式より自励式のほうがNTFが高くなり仕上がり特性が良い
  • 自励式をシンプルにして特性も改善したのがCOM(ICE-Popwer)
  • いくつかの工夫と飛躍を経て更にシンプルかつ大幅な特性向上を果たしたのがHI(UcD)。
  • 自励式よりCOMはNTFが4dB優れている。HI(UcD)はCOMより更に19dB優れている。

NTFはNoise Transfer Functionノイズ伝達関数なので、この回路がノイズに対してどのような応答をするのかを示しているはずです。いわゆるPSRRに近いものだと思ってます。この動作は電源変動への強さ、フィードバック動作時のひずみ除去性能、素のゲイン性能と関係してくるものと思っていて、丁度アナログアンプでいうオープンループゲインみたいなアンプ基本性能に関係するパラメータのように考えています。(間違っているかもしれませんが…)

クラスDはスイッチングすることによってアナログアンプのように無限の連続値を扱うことが出来ませんから、イメージで説明するならクラスDアンプはスイッチングによって現実世界を細切れにした状態で信号を見ているわけです。そう考えればスイッチング周波数の高さに特性が依存するというのは直感的にも説明が付きそうです。実質的にスイッチングによる制限が支配的のため、数式上でも増幅段ゲインは無関係となっています。

キャリア周波数の扱いとゲインの関係はどうしてそうなるのか直感的にまだわかっていません。数式でそうなると言われてもどうしても理解できないところがあります。この辺は長い時間を掛けて少しずつ理解していきたいです。

classd_1

ICE-Powerはこの図のCOMにMECC=フィルタ外フィードバックを追加したものですが、ICE-Edgeの測定特性を見ると初期のUcD(この図のHI)を超える特性を出しているように見えます。COMそのものは従来の方式と比べてもこの図だけ見るとほんの僅かしか優れていないことがわかりますが、それでもICE-EdgeではUcDを超えるほどの特性を出してきていますので、内部設計では基本原理から大幅に応用を効かせて色々な工夫をやっているのだと思われます。

ICE-EdgeのPDFによれば片チャンネルで内部に16個ものアンプ回路が含まれるようなのでコンパレータに入力されるキャリア周波数とフィルタ外フィードバック情報に対して多段かつ微小領域でフィルタ処理を行うなどして巧妙な高性能化を達成しているのでしょうか。よくわからないですが既にこの辺りのノウハウは他社が容易に達成できないレベルに有るのかもしれません。ともあれリリースが楽しみなICです。