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偽Odinの問題点と改良、比較のための音源UP

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前回の記事の続きです。今回は録音したケーブルごとの音の違いもアップしました。前回は実際に中国からOdinやRed Dawnの偽物を購入して音質を検証。しかし特に定価差の大きいOdinではそのポテンシャルの高さは感じるものの、最後の仕上げの部分で決してハイエンドとはいえない、問題のある音質でした。そこで偽Odinケーブルの問題点を特定し改善をしてみたいと思います。

特にヤフオクで偽物と気づかずに偽物を買ってしまい、音があまりにも残念でどうしようもなかった人も、手間はかかりますがこの改造をすることで少しは救われると思います。ただし電源ケーブルは構造が違うかも知れず、しかも100Vを通す線ですから下手な改造は事故にもつながりかねません。ですので電源ケーブルの改造は危険なのでオススメは出来ません。

まずはオリジナルの構造

先にオリジナルのOdinの構造をみてみましょう。このケーブルに限りませんがノードストのHeimdall以降のケーブルで共通して特徴なのがこのモノフィラメント構造です。これは最上位のValhalla、Odinでも基本的な構造は変わっていません。Odinで追加になった個別被覆を除けば内部構造自体は、材質、太さ、本数程度の違いしかありません。

odin

注意:これはNordost社の特許ではありません。詳しくは下にまとめてあります。

この構造の最大の利点はこのモノフィラメントによって導体の周囲に空気の層を作りだし、空気を絶縁体として利用している点にあります。普通の大半のケーブルはこの空気の部分は何らかの個体の絶縁体を使っています。しかしこの材質には固有の誘電率があります。空気は固体物質と比較してはるかに誘電率が低く、この部分の誘電率が低いことは超高周波まで特性を伸ばすことができるというわけです。

こちらの誘電率表をみると真空が理想ですが、空気も個体と比べて圧倒的に低いことがわかります。ほかにもテフロンや絹も高級オーディオケーブルなどで採用の実績がありますが、これらも共通して誘電率が低いことがわかります。この辺りはオーディオにおいても無視できない特性なのでしょう。

http://www.yei-jp.com/technology/hiyudenritu/hiyudenritu.html

たかがオーディオの信号でそこまで帯域を伸ばす必要があるのかというのは常に起こりうる議論ですが、オーディオの過渡応答に対して耳は従来の説よりはるかに敏感というのは体感しておりますので、ここではあくまでそのような高周波領域であっても音質には影響があるかもしれないという考えを貫きたいと思います。

他にも周波数特性的な観点だけでなく、このモノフィラメント構造が振動特性の何らかの対策、もう一つはラダー型で指摘している絶縁体の電荷移動の問題への別の解決策=空気とモノフィラメントという異質な絶縁体が交互に挟まっていることもあります。これらが何らかの音質的な改善となっている可能性もあります。

なによりノードストのオリジナルがそのような構造を採用しており実際に高価格で販売、さらにはそれが音質としてハイエンダーから評価されているという事実が重要です。

構造の紹介の最後に、本物かわかりませんがネットで見つけたノードスト電源ケーブルの内部構造のリンクを貼っておきます。Odinが白っぽくない質感であり、ほかのラインナップも揃っているのでこれは本物の画像かもしれません。もし本物だとしたら非常に貴重な資料です。

http://www.hiendy.com/hififorum/forum.php?mod=viewthread&tid=9215

偽物の中身の構造

こちらで購入した偽物の内部はこんな感じです。見事にオリジナルと同じような構造になっていることがわかります。単線の上にデュアルモノフィラメント、その上に被覆がありその上に螺旋の泊シールド、さらに被覆と、細部まで再現されています。

そして金属導体部はすべて個別に被覆が被せられており金属同士の接触はありません。これは大変コストの掛かりそうな構造です。これが16000円で買えるわけですから、そう考えるとこのケーブルにはなかなかの価値がありそうに思います。単純に粗悪な偽物であると切り捨てられない、見えないところまでしっかりと作られているケーブルだったということです。

これは外見だけの偽物とは明らかに違います!

fakeodin_inside

ただここで重要なのは、ここで使用されている被覆はどうもFEPではなく、柔らかく熱に弱いのでおそらく安いビニール製のような雰囲気です。配線も断面を見る限り銅+銀メッキではなく内部まで銀色なので、おそらく銅ですらないもっと安い金属導体を使っている可能性が高いです。ということで材質面で見ればこれはオリジナルとは比較できないほど低レベルにとどまっていると思っておいたほうが良さそうです。

ということで偽物で享受できそうなのはあくまで構造によるメリットだけだと思ったほうが良いです。ではここまで精密な偽物ケーブルを作っておきながら、デフォルトでは音質に癖があり決してハイエンドで通用しないレベルにとどまったわけですが、それはやはり材質が安いせいでしょうか?

実はそうではありません。最大の問題は偽物の標準状態ではXLRコネクタの内部配線が誤った配線になっていることが音の悪い原因です。

fakeodin_inside2

これの何が問題かというと、泊シールドの部分を信号線として使用していることです。この部分は本来シールドであって信号線ではないはずです。

オリジナルの配線部を見たわけではありませんが、このような同軸構造から考えれば導体を取り囲む外周の泊部分は本来シールドとして使うはずです。特に泊を内部の単線とつなげてしまってはせっかく導体同士が接触しない構造の意味がありません。泊部分と単線部分は伝達特性が異なるはずなので、このふたつを無意味につなげてしまうことはちょうどZaollaのケーブルのように音のにじみや癖の原因となってしまいそうです。

偽物Odinの超高域のピークはこれが原因と見て間違いないでしょう。モノフィラメントの超高速信号と泊を通る信号伝達速度の差が干渉してピークのある音質になったものと思われます。だから普通の撚り線と比べてかなり上の帯域のピークになっています。私個人の意見としては泊の部分はどの信号線、シグナルGNDとも接触しないようにして、シャシーGNDとしてコネクタのみ接触するように配線するべきと思います。

偽物ケーブルにはもう一つの問題点があります。Odinは導体が8本ありますがXLRのホットが3、コールドが2、シグナルGNDが3という配分になっています。差動精度の観点からみるとホットとコールドが非対称なのは論外です。この部分も改良が必要です。できればホットとコールドは1:1にすることが望ましいので、ホット3、コールド3、シグナルGND2へ変更します。

偽物Odinはケーブル自体は良く出来ていますが、残念ながら実装は何もわかっていない人がやっており、そのせいでせっかくの構造が台無しになっていることがわかりました。しかしこれは実装の問題でしかないので各自で改良できそうです。

修正の方法と手順

ヤフオクで騙されてOdin偽物(XLRとRCA)を買ってしまった人も、コネクタ部を開けてケーブルそのものが本物と同じようなモノフィラメント構造だったのならそこまで悲観しなくても良いかもしれません。なぜなら各自で改造することで音質の改良が可能だからです。ここでは改良のための方法を紹介します。

fakeodin_fix1

まずはコネクタから線を外しますが、いきなり切ったほうが良いです。ハンダで外そうとすると被覆が溶けてくっついてしまいますし、XLRのコンタクトを固定しているプラが熱に弱くて、溶けてピンが曲がってしまいます。なのではじめから切ってしまうのが一番簡単で確実です。偽物は遠慮なく手を入れることが出来るのが最大の利点ではないでしょうか。実験の対象としては最適です。

ケーブル全体をまとめて固定している金具の部分(赤矢印)はペンチで曲げるだけで外れます。

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次に全体を覆っている被覆を少しむいてから、中の芯線が8本バラバラになるようにします。芯線の外側被覆は図のように1.0のケーブルストリッパーでやると泊シールドを切断せずに残してうまく剥けます。被覆はかなり伸びるので作業性は悪いのですが伸びた被覆は丁寧にニッパーで切っておきます。

出てきたシールド泊は事前に伸ばせるだけ伸ばしてから、じゃまにならないように曲げておくとあとが楽です。

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内側の芯線の被覆を剥くのには0.5が良かったです。

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芯線に何番に使用するかを、このように印をつけておくと後で見分けがつきます。ここでは1番は1個、2番は2個というように点を打っています。このときテスターで両端がきちんと対応するように合わせておくと、あとで間違いがなくて確実です。

あとは1番、2番、とまとめてからそれぞれ予備ハンダをしておき、コネクタにはんだ付けをします。泊シールドは先にハンダ付けをしてしまうと取り回しがしにくくなるので、はんだ付けは後回しにしますが、ある程度まとめて撚っておくと途中の作業がしやすいです。バラバラだと非常に邪魔です。

ここでホット=3本、コールド=3本、シグナルGND=2本、シャシーGND=泊シールドとなるようにまとめます。泊シールドと信号導体は絶対に接触しないことが重要です。

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とりあえずハンダ付け後です。あとは泊シールド部を金属コネクタの部分にはんだづけします。

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当方はこのようにシールドをハンダ付けしました。1番ピンと泊シールドはこの時点では絶縁です。ケーブル側ではあえてここは接続せず、シャシーGNDとシグナルGNDの扱いは最終的に接続機器側の設計に委ねる形としました。

EMCの観点では泊シールドはコネクタに対してできるだけ隙間なく360度で接触しているのがベストですが、このコネクタはそのような設計にはなっていませんのでシールドはコネクタ部と一点でのみ接触しています。徹底的に対策するならここも手を入れればもっとノイズ耐性は良くなるかもしれません。

最後にテスターで各端子にショートがないこと、ピンの順番の間違いがないことを確認して完了です。

偽Valhallaも到着

別のショップで頼んでいたValhalla構造のケーブルも到着しました。こちらもXLRケーブルを作成して音を実際に録音してみたいと思います。

valhalla3

valhalla

こちらは偽Odinと違い被覆もかなり硬くしっかりした作りです。安いビニールではなくてもうちょい良い素材を使っていそうです。内部のモノフィラメントはシングルですが、導体は銅+銀色のメッキです。さすがにメッキは銀ではないと思いますが、内部は銅色なので偽Odinよりも導体による音質劣化が少ないのではないかと思います。配線もかなり太いのでこれは結構音質のほうは期待できそうです。

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出来上がりました。写真だと一瞬ですがケーブルの導体がかなりしっかり硬いのと本数が多いので作業は結構たいへんでした。仕上がりの手触りは偽物とは思えない程しっかりしていて良い感じです。

改造後の音質チェック(録音音源あり)

レコーディングした音源による比較です。音源は最近のお気に入りで、いろいろな要素が1曲で同時に確認できる「花ハ踊レヤいろはにほ」です。フルバージョンはマズイと思うのでここで公開するのはショート版にカットしてありますが、録音データはフルバージョンで収録しました。

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レコーディング環境

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オーディオIF : TASCAM UH-7000
マイク : DBX RTA-M * 2
DAC : AK4495S dual DAC
パワーアンプ : WF-P400(Ncore)
スピーカ : 特注アルミエンクロージャ大型フロアスピーカ

スピーカから出力される音を測定用マイクで収録しています。再生用と収録用ではPCを分けています。

以前使っていた測定マイクが湿気で死んでいたので今回のために新しく測定用マイク買ってしまいました。オーディオインターフェースは本当はHiloを使いたいのですが情けないことに単体マイクプリを持ってないので、今回のためにサークルの経費で購入した歌い手さん用のUH-7000を借りてきて収録しました。マイクの場所はスピーカの真っ直ぐ前、マイクスタンドでツイータから正面1mの距離に左右等距離でセッティングして収録しました。上の写真はマイクを外した後ですがセッティング自体は画像のような感じでやっています。

その他の特筆事項としては、収録中にマイクトラブルで一度マイクの位置が微妙にずれてしまっているので、左右チャンネルの位相をすべてDAWで修正しています。どちらにせよ厳密に左右が等距離でないので位相の修正は全トラックで必要でした。修正しないと左右の定位が曖昧で中央定位がなくなります。

そして片方だけマイクがずれた影響でWavを位相反転で打ち消して差分をとっても反響のタイミングが異なるため部屋なりが綺麗に消えないデータがあります。本当は録りなおしするべきだったのですが、音質比較用としては概ね問題ないと判断しそのままです。

再生はPC側のプレイヤーでPCM->DSD128に変換、そのままDACにはDSDで入力しております。これは意図的ですが録音データには原音には含まれない折り返しノイズが出ています。その分高い周波数が(約30kHzくらいまで)収録されています。これはケーブルの差をよりはっきりさせることを期待してあえてそのようにしました。

録音データは96kHz/24bitでの収録です。サイズが大きいのでDLしてからじっくり聞いてもらうほうが良いと思います。

 

こちらのページにアップしなおしました

現地で実際に生で聞いた音から判断すると、改造前のOdinはBlue Heavenと比べて明らかに超高域に変なピークがあってわずかに滲んでいたのですが、改造後は全く変なピークもなく素直でレンジが広いです。中域の透明感が特に違います。正直この価格帯のケーブルの中で比較しても改造Odinはなかなか優れている音質に感じました。これは材質が安物でも構造だけでここまでやれるということですね。

偽Valhallaは偽Odin改よりもスピード感とキレがあって良い感じでした。低音のスピード感は偽Odinよりもありますね。量感よりもキレという感じがします。BlueHeavenのスピード感+偽Odinの分離の良さ+低音のキレと伸び、みたいな特徴があると思います。

おそらくですがこの改造ケーブルと比較するのであれば、本家のHeimdall以上を持ってこないとダメなのではないかと思いました。偽物とはいえ、なかなか実力は高そうです。是非本物と比較してみたいですが、本物の高級ケーブルを買う予定はないのでそんな機会はないでしょうね。

Nordostの技術の由来

このモノフィラメントというケーブルの構造、考えたのはNordostですか?実は違います。Nordostで特許を調べてもケーブルのコアの技術に関する文献はほとんどありません。ということで徹底的に海外の情報を調べたところ、どうやら一番古いのは1936年のBell Telephone Laborという会社のもののようでした。

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確かにこの技術は特許ではありましたがかなり昔に切れている特許で、そもそもNordostの発明ですらありませんでした。

もちろんこれをオーディオに持ち込んで応用し、ハイエンドで通用する音質に育てたのは彼らの功績ですが、この技術を他社が使ってはいけないということではなさそうです。事実、Temp-Flexという会社から全く同じ技術を利用したケーブルを売っています。現在はmolex傘下のようですが、あのコネクタのmolexですから間違いなく怪しい会社、怪しい製品ではありません。きちんとした産業用ケーブルのようです。その証拠にDigikeyやMouserでもTemp Flexケーブルの取り扱いはあります。残念ながらこの空気絶縁体ケーブルは在庫がないようですが…。

http://www.literature.molex.com/SQLImages/kelmscott/Molex/PDF_Images/987650-9093.PDF

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ここで考えさせられるのは中国の偽物の問題は技術のコピー等ではなくて、ブランドとモデルをそのまま乗っ取っていることになりそうです。そして中国のモラル破壊なところはオリジナルのブランドイメージをただ乗りで利用し、それを金儲けの手段として即物的に利用していることでしょう。

実はこのケーブル構造自体は現在有効な特許ではありませんでした。ですから構造を参考にしてノードストのロゴを外し、モデル名も本家と無関係にすればケーブル自体を販売することは特に問題はないということになりそうですが、そういう設備や技術を持っていながら彼らはそうすることはありません。あくまでオリジナルそっくりな見た目とロゴと名前を付けて、そのまま本物のように売ります。

そして本物だと思って購入してしまった被害者が現実にいます。私は好奇心でこのような検証をしましたので偽善振るつもりはないのですが、ここの改造記事が偽物と知らずに騙されて買ってしまった人の少しでも救済になればとも思うところです。