ハイエンドDACの設計と、大衆オーディオの未来

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今回紹介する内容と視点は自分個人のものなので、絶対的な視点とアプローチではないことははじめに断っておきます。まったく別の視点や別の方向性は世の中に存在しますし、そういう異なる流派からみたらこちらの紹介する手法が必ずしも望ましい進化の方向性ではない場合もあることは全く否定できません。どうかこの点を理解の上お読みいただければ幸いです。

このページの目的としては優秀な製品のノウハウを紹介することで、国内製品のレベルアップと国際競争力の向上に微力ながら応援したいと思ってまとめています。Oppo Sonica DACの内部を見るとこのままでは中華製品に国産大手が負ける日が来るような気がしてなりません。

昨今のイヤホン&ヘッドフォンの隆盛でユーザーの耳は成長してきていると考えています。従来の「弱点をごまかし、好みを強調した音作り」ではなく真のクオリティが評価され始めているというのはHugoの成功によって徐々に現実になりつつあると考えることは出来ないでしょうか?あの音は好みで片付けるような音ではなく、基礎クオリティが高い音です。Hugo以外にももちろん基礎クオリティの高い機材は沢山ありますが、大衆に評価された製品は他にはまだないと思います。

基礎クオリティの高さは好みを超越します。たとえば食べ物などで嫌いなものを美味しいお店で食べたら癖がなくて食べられたってことはありませんか?そういうものこそが基礎クオリティです。音楽でも音質でも同じようなことがあります。「好みではないけど認めざるをえない」ってことが起きるのは基礎クオリティの高さが理由です。だからこそ間口を広げるためには基礎クオリティを上げるノウハウが重要です。

もちろん従来の色付け系の製品も、そういった音を好む従来の顧客のための選択肢として残ることが望ましいですが、それだけしか選択肢がない状況では対応力が不足します。次の時代の準備を怠ったことで海外に出し抜かれるという歴史は既存の他業界国産メーカーが何度か繰り返してきた失敗です

これからは逆に日本発の製品が海外のシェアを奪っていかなければなりません。輸入代理店より国産メーカーが元気でなければいけないと思っています。もうそろそろ国内メーカー同士で争ってる場合ではないでしょう。Hugoのような音を従来のIC型DACで超えていくにはどうすれば良いか真剣に考えなければなりません。ここでは基礎クオリティ向上のためのノウハウを具体的に紹介してみたいと思います。

こういう内容をまとめているサイトはありませんし、今後も出てくることは99%ないでしょう。ハイエンドDACの音質的ノウハウをまとめたページなんて探しましたがどこにもありませんでした。どこのメーカーも自分ところに都合にいいことしか書かないし、都合の悪いことは一切書かないです。メーカーの広告には素人が注目する謳い文句はたくさん書かれていますが、音の良い製品が何故音が良いのか、音が良い真の理由については語られません。こういう本当のことなんて国内(海外も?)では誰も書けないのだと思います。お金をもらって文章を書いているなら尚更です。でもそういう日本的な空気を読める姿勢こそが国内メーカーの未来を潰す可能性は考えておいたほうが良いと思います。

DACチップはハイエンドDACの必要条件ではありません

しつこいようですが、これはいつもお伝えしている通りの話です。最新DACチップを使えば最高の音が出るわけではありません。それは既に多くの事例が結果を示しています。

今回紹介するハイエンドの中には古いDACチップを使っているものもありますが、実際の音質評価とはほとんど関係がありません。たとえスペックが劣っていても、古くても音が良い製品は良いのです。DACチップと音が良い製品にはほとんど相関性はありません。DACチップだけで素晴らしいサウンドが出るわけではありません。

DACチップ頼りの状態とはちょうどチームワークが重要な競技の弱小チームに一人スター選手を投入した状態です。そのようなバランスの悪い構成ではチームワークが重要な競技で強豪に勝利することは難しいでしょう。DACの設計は設計上のチームワークが重要です。それによってスター選手(ハイエンドDACチップ)をしっかりサポートして実力を引き出せたときにだけDACチップの優位性が現れるのです。

最近で最も典型的な例がOppo Sonica DACです。ES9038を使った最も安いDACです。これは最高スペックのICを使ったDACですが最高の音質のDACではありません。もちろんこの製品は実際の音を聞いたことがありますが価格からしたら悪くはないもののハイエンドサウンドと言い張れるようなクオリティでは決してありません。ですからチップ一点豪華主義で突出した製品になるわけではない、これが事実です。とはいえ従来製品HA1からしたら素晴らしい飛躍でした。内部設計も進化しています。それについては後述します。

そもそも、この製品がハイエンドって位置付けすること自体が間違いです。実はこの製品はそもそも大衆をターゲットにした、ハイエンド志向とはかなり相反する非常に良く練られた製品だと思いました。Sonica DACは突出しない究極の平凡サウンドであることが使命であり目的だと思います。

それについてもページ下のほうにまとめましたので是非読んでみてください。それを読めば自分自身はSonica DACを貶めるつもりはまったくなく、むしろ脅威だと感じていることがよくわかると思います。こちらの海外レビューには「聞くのが楽しくない」とありますが、それこそがOppoの狙いではないかと思いました。

DACの音質は総合力

DACの音質は総合力なので一点突破だけで良い音がでることはほとんどありません。特に低コストで良いものを作ろうと思ったら、バランスの良い設計であることがとても重要です。大きな弱点がなく低コストでも効率の良い音質的対策を施した機器は安くて良い音が出せます。

これは丁度長方形と正方形の面積と辺の関係に似ています。同じ辺の長さなら正方形のほうが面積が大きいです。面積を音質、辺がそれぞれの対策と考えると丁度同じような関係です。DACチップだけハイエンドで他は平凡みたいな極端な一点突破型の設計は長い長い長方形です。

実際のオーディオの設計ではこの辺に相当するものが超多次元的に広がっており、無数のパラメータがあるわけです。その総合力として音質があります。なので一見多くの対策を施し完璧に見えていても、気づいていない軸があってそこに大きな欠点が残っていると、その他の素晴らしい長所を見えにくくしてしまうリスクがあるわけです。

ここから抜きん出た高音質なDACはどういうものか考えますと、まずは基礎は満たしつつ、「普通の設計で意識されない領域にさらなる高度な対策を施した設計」です。すべて完璧な対策を網羅している製品は非常に少なく、1つか2つのの特別な対策があればそれで高級機と称す製品が多いです。本当に一点突破でそこだけ異次元な設計をしている製品もありますが、オーソドックスな設計+いくつかの特別な対策の製品が多いですね。あとはまとめ上げるバランスとセンス次第です。

個人的にはPCM1792以上のDACチップであれば既に十分な性能を持っているのでこれ以上の素子がハイエンドのための必須条件だとは考えていません。ですが実はES9038はちょっと特殊で、最大の優位性は後段のアナログ回路に求めるスペックと電源回路に求めるスペックがとても高いので、要求されるスペックを満たすだけで必然的に音質的に良い構成に仕上がることです。常識的な設計者ほど要求スペックが1なら1の物量しか投入しないものですが、ES9038は10のスペックを要求するので常識的な設計でも10の物量になるのです。ハイエンドDACは1の要求に100を投入しているような設計になっているのですが、ES9038は自動的にハイエンド的な設計に近づきます。

それではここから各社のDAC内部設計について書いていきます。注意したいのはこの記事では出来るだけ製品の弱点の列挙などではなく、良い製品を紹介し内部設計で音質的に優秀だと思う部分を紹介し、良いDACを作るために検討するべき材料を提供したいと思います。高音質なDACの具体的な設計事例と差別化の方法について、製品の内部写真を紹介しながら分かる範囲で紹介していきます。

Forssell MADA-2

オーディオの方はご存知でない方も多いかもしれませんが、業務機では定評のあるDAC機材です。海外での評価値、もちろん一例ですがこちらを見てください。

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オーディオの方が見慣れてそうなブランドはMytek、PS-Audio、Ayre、Meridianでしょうか。またLavryのDA2002はマルチビットのDA924と同じです。これも名機ですね。PrismSoundは業務機のハイエンドです。ここで紹介するForssell MADA-2はPS-AudioとAyreを超える、DA924に近いかちょっと超えたレベルにあるDACだということです。

実際海外でこの機種の評判を調べてみると、プロオーディオの世界でもかなりの高評価です。プロオーディオはコストパフォーマンスに優れる機材も多く、高くて音が悪ければ誰も使わない厳しい世界ですが、そのなかでも定評のあるモデルです。その音質はプロが認めた本物であると考えるのが妥当でしょう。

ではこのMADA-2の内部設計について見てみたいと思います。写真が限られているので見える所だけの判断です。

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  • トランスが非常に小さいので低音が伸びないでしょう。良く言えば繊細な音になります。
  • 電源回路はICレギュレータだけなので高性能な電源ではないです。またレギュレータの配置が負荷から遠い位置にあるので力強いハイスピードな音ではないはずです。そしてトランスが小さく負荷の近辺に大きなコンデンサが存在しないので低音が控えめな傾向になります。負荷(IC)側の低周波PSRRは電解コンデンサ依存でないため、電解コンデンサの個性(帯域に癖のある音)が現れにくいです。ここに電解コンデンサを大量に配置したら国産大手みたいな音になると思います。
  • CS8421-SRC+直近配置のクロックを使用してSRCによるジッター除去をしているようです。ジッター除去はノイズフロアの確保のためには必須です。これにより透明感のある音になります。ただし基準となるオシレータのあとにロジックICを挿入しているためロジックICの出力ジッターが多少乗ります。ただしロジックICの駆動力によるプラス効果もあり力強さが出てきます。ここはジッター性能とトレードオフとなります。ロジックICがないほうが透明感のある柔らかい音です。
  • DACのIVではなくその後ろのLPFバッファ段でLCフィルタを使用しているように見えました。これはリファレンス回路より進んだ高周波対策を行っていることを示していると思われます。ただし最大の問題はここで高周波ノイズを除去してもクロックラインとXLR出力線が平行に這っているので、結局最終出力経路で高周波ノイズを再度拾っていることは問題です。ただしクロックラインのノイズは固定周波数成分なので音の分離にはあまり悪影響がないのは良い点です。多少の色付けはある可能性は高いです。
  • PCM1794をはじめ周辺ICの電源ピンのほぼ全てにアナログ、デジタル関係なくフェライトビーズを入れています。このような対策は多くのDACで行われていないのが実情なので、これが最もForssellのDACが高音質な理由で優位性だと思いました。デジタル配線のみならずアナログ配線にも小容量セラミックコンデンサを複数並列に配置する対策も良いです。

上記からForssellの設計で最も特徴的なのは電源線と信号線の高周波ノイズによる音質的影響を知っている点です。これは大半のメーカが未対策なのが現状です。この部分に手を入れないと一線を越えた滑らかな音質にはなりません。おそらくこのメーカーの評価が高い一番の理由はこの部分の設計の優位性によるものだと思われます。

トータルの音質傾向を予想すると高音がほかのDACと比べて滑らかかつ分離がよく、非常に腰高で繊細な音のするDACだと思います。しかし低音は弱く、高音も僅かに色が残る音質ではないかと考えます。ぱっと聞いて滑らかでハイ上がりな音ですからこれが高解像度と錯覚する可能性のある仕上がりの音でもあると予想します。真の低音は出ないので低音のリファレンスとしては適していないDACでしょう。

実はここまでの推測は実際の音を聞く前に書いたものです。でもあとで実物をちゃんと聞きました。この比較は音楽制作のエンジニアさんが集まってSonyスタジオで比較しました。このときは自分だけの評価ではなくマスタリングエンジニア複数人による耳による各項目ごとの評点をやりました。(この日の比較はあとで個別記事でまとめたいです)

このForssellの低音の評価は意外と高かったです。スピードが遅い機材よりは無理せず量は出さないかわりに非常にスマートで引き締まった描写は好まれるようです。量が多くても遅い低域より、量が少なくても早い低域をプロは好むということのようです。

実物の低音は細身で伸びは無いところまでは予想通りですが、柔らかいわけではなくハイスピードで引き締まっています。負荷の周辺の直近から電解コンデンサを意図的に排除しているものと思われますので、低音の質感は普通に電解コンデンサを沢山配置しているDACとはだいぶ異質で非常に軽快なものになっています。

高音は予想通り結構荒れており解像度が高い状態のまま荒々しい部分が前面に出て来る感じでした。分離は業務機なのでコストパフォーマンスは良いですね。実は細身な低音も荒れた高音も流行の音楽を意識しているというお話もありましたので、これらの設計はForssellによる意図的な音作りの結果である可能性が高いです。上記のトランスが小さいことや配線を長くしていることも意図的で個性に寄与している可能性があります。

意図的な設計は重要です。確信的な個性をもたせることは時に強い魅力や説得力を感じさせる要因になります。

ただし上記のスタジオにてDAVEと本機を比較もしましたが結局DAVEのほうが遥かに総合クオリティは高いです。エンジニア諸氏による評価でもDAVEのほうが総合得点では上です。しかもかなり格差はありました。DAVEを超えるためにはこの程度の対策では全く不十分です。本機の音質的基礎クオリティはそこそこ高いですが、この理由によりスーパーハイエンドであるとは思いませんでした。

Bricasti Design M1

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コメント欄で質問いただきましたので、このDACの内部設計の特徴を書いてみたいと思います。とりあえずDACボードの写真がネットで公開されていましたので内部を見てみます。

  • 写真中央上、基板間のデジタル伝送ラインに差動信号(LVDS?)を使っています。このような設計は少数派です。ちなみにはじめてこのようなパターンを見たのはberkeley alpha dacでした。このように設計するとGNDを分割しても信号が崩れないことが特徴(戻り電流が差動ラインで確保されている為)ですから、複雑なレイアウトのときにGNDを分割しループを防ぎながらデジタル信号品質を確保することが出来ます。
  • 左のU110からの出力に差動MCLK+LCRクロックフィルタのようなパターンが見えます。この行き先はU140でこれはジッタークリーナだと思われます。フィルタによるジッタ除去+ジッタークリーナを通し、AD1955に入っています。このことから二段構成の入念なジッター対策がこのDACの特徴になりそうです。パッシブフィルタでジッタを除去できるって文献は何処かにあったと思います。
  • シルクでFLと記載されているコンデンサは三端子コンデンサ、またはフィードスルーキャパシタといいますが、このコンデンサは通常のものよりも高周波特性に優れています。こういったパーツをあえてDACのアナログ端子でも投入することは稀ですので、この部分は音質的優位性が発生すると予想します。
  • 正負電源はLT1363を使用したオペアンプレギュレータのようです。このあたりは通常のICを使った場合と比較すると電源の高性能化、高音質化に寄与しています。ただしLT1363は電源で試したことがありますが音は硬質で低音もやや軽めです。なのでこのDACはどこか硬質な音質じゃないかなと思います。
  • DAC周辺のデジタル電源は基本的にICを使っているようです(LT1763とLT1762?)。IC電源なので性能は上記オペアンプレギュレータより劣ります。ノイズ性能は20uVですからそこまで優秀ではありません。ただしICを使うと小型省スペースのレイアウトが実現可能なのでポイント・オブ・ロード設計による負荷の干渉の問題回避、ICからみたレギュレート性能向上の優位性があります。これも引き締まった音質になる傾向です。
  • IV段以降はディスクリート+オペアンプという構成を基本にしているようです。ディスクリート回路のパターンは読んでいないのでこの部分の特徴については不明です。国内ではディスクリート関係の資料が豊富ですので、あえて重複する部分をここで取り上げる必要はないと思います。

音質は実物を聞いたことがありませんので記載はできません。ですが上記のとおり複数の特別な音質的対策を施しておりますので、一般的なDAC設計よりも明確な優位性があります。こういった部分はすべてが仕上がり音質面にも影響を与えているものです。当然ながら複数の優位性がありますから、そこらにある普通の設計のDACよりはるかに高音質な可能性が高いわけです。

このDACは聞いてないので音についてはわかりませんが、設計から音質傾向を予測して見るならBricastiは全帯域で引き締まった音を好んでいるように見えます。そして電源とDAC基板が左右セパレート構成ですから左右の広がりには特に優れているはずです。フェライトビーズやフィードスルーキャパシタによって高域は緻密でピントの合った描写だと思いますが、電源自体のノイズ特性には問題があるので中低域の透明度は低いと思われます。LT1363の影響がありますのでトランス電源ですがやや硬質な雰囲気がありそうです。トランスは小型なので低音の伸びや出音の余裕はそこまででもないと思います。これも良く言えばキレがあって軽快な低音だと思います。細かく書いていますがあくまで予測です!

以上から考えると少なくとも量感があってどっしりした余裕があるような音とか柔らかい音ということはないと思います。ジッター対策についても入念ですが最終段のジッタークリーナICの出力性能がボトルネックとなりますから、実は低周波位相雑音はCrystekのCCHD950などを直近で配置しているDACより不利だと思われます。電源もLT1762などを使っているので決してDAVEを上回れるほどの突き詰めた設計には見えませんでした。

それを裏付ける海外のレビューもあります。Bricastiは定評もありますし支持者もいますが直接比較でDAVEを上回っているというレポートは今のところ見たことがありません。

https://forum.audiogon.com/discussions/chord-dave-or-ayre-qx5-twenty-dac

CH Precision C1

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こちらもコメント欄でリクエスト頂いたものです。

  • PCM1704を使っています。マルチビットDACはデルタシグマDACのようなノイズシェーピングによる帯域外残留成分がありません。この帯域外残留成分はNFBアンプの挙動にも影響を与えますし周囲の回路への影響もありますので音質的な悪化要因をいくつか抱えています。スイッチング電源を使うと漏洩ノイズの対策に苦労するのと似ています。マルチビットDACはスペックこそ多少落ちますが上記の問題が起きないことが利点だと思います。
  • IV以降がすべてディスクリート構成になっています。特に最終出力段は3パラレルのドライブ段のように見えますので小型のパワーアンプ並の出力電流の余裕を持たせているようです。途中経路のディスクリート回路がどうなっているのかはこの画像ではわかりません。
  • 電源はLT1677を使用したオペアンプレギュレータです。PCM1704は2系統の正負5Vを要求しているので電源回路の規模もこの要求に従っているものと思われます。BricastiはLT1363だったのでそれと比較するとC1は速度は劣りますがゲインとノイズ性能は上回ります。突き詰めるとこのあたりの差も重要になります。
  • PCM1704の電源端子にはフェライトビーズ+コンデンサが使用されています。これはForssellのDACに近い設計ですね。Bricasti M1では三端子コンデンサでした。これらは普通のコンデンサをただ何も考えず電源ピンに対し一つずつ置くより良いです。
  • PCM1704周辺のコンデンサで最も面白いのはほぼすべての品種のコンデンサが並んでいることです。ポリマー、電解、フィルム、セラミック、タンタル、ほとんど全員集合しています。もしかしたらコンデンサの品種ごとの音質的個性を打ち消すためにこのような設計になっているのかもしれません。すべて並べれば特定の品種の色がつくことはないでしょう。

この製品の音質はマラソン試聴会でdCSのVivaldiと比較したことがあります。dCSと比べると大分真面目な感じです。どちらが良いかと言われたら個性で選ぶレベルだと思います。簡単に言うとdCSがふわっと軽やかな出音にたいしてCHはがっちり力強いイメージが有りました。絶対的なクオリティは若干C1が上かもしれませんが個人的にはdCSの音のほうが好みでした。また上記の設計が音にどれくらい関わっているかはこの時の聴き比べ程度では全くわかりませんでした。

MSB DAC

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  • ディスクリートマルチビットDACが最大の特徴です。高精度のものを作成するためには高精度抵抗が必須ですがMSBはそれに真面目に取り組んでいるメーカーです。CHプレシジョンと同様、広帯域ノイズが原理的に少ないため周囲回路への悪影響が少ないことはマルチビットの優位性です。
  • MSBモジュールは12Vと5Vを使う高電圧仕様です。最近のDACチップは電圧が下がっていますがMSBは電圧が高いのでSNでは相当に優位です。さらにモジュール内部にLT製オペアンプですが出力バッファを搭載し、出力LPFが不要という仕様なのでアナログの出力回路で悩まされるということがありません。モジュールの出力を直接外部駆動に使用できる余裕があります。
  • DACモジュールに注目しがちですがそれ以外の部分もバランス良く、クロック、DSP、電源部の回路設計も伝統的にかなり力が入っています。デジタル処理の音質的影響は軽微ですが、クロックは違いが出ます。内部仕様が不明ですが低周波位相雑音と広帯域ノイズに配慮した設計のようです。このあたりは音質に影響があります。
  • 最新のSelect DACではパラレル化を推進し、16パラまで増やしています。これによってSNは4倍に向上します。パラレル化はコストパフォーマンスは最悪ですがコスト度外視で最高を求めるなら有効です。MSB社は周辺回路が概ね極まった状態でパラレル化をしていると思いますので良いですが、ほかが極まっていない状態でパラレル化をすると無駄にコストがかかる結果になります。

MSB-DACの優位性はディスクリートマルチビットだけではなくて、伝統的にDAC素子以外の構成に全く手抜きがないことが最大の要因です。この部分を勘違いして「ディスクリートマルチビットDAC凄い」っていう印象でしか見ていないと音が良い理由を見誤ります。MSBモジュールを使っているから高音質になるという訳ではないのです。(実際に使って試した意見です)

MSBは非常におとなしくて上品な音がします。マルチビット高電圧なのでデルタシグマ系でよくある高域にサラッとした質感はほとんど無く、とても落ち着いた地味な音質なのですが骨格はしっかりしていて貧弱な音ではありません。このあたりは美音で勝負の国内で主流派とはかなり傾向が違います。なのでMSBは質が良いと感じても好みだと感じる人は国内ではさほど多くはないと思います。DAVEよりもずっとおとなしい音です。ここで上げた製品の中では一番落ち着いた音だと思います。しかしとても上質なのでMSBは違いのわかる玄人向けの音質ですね。

ちなみにパラレル化は基本性能を極限にしてから行わないと価格性能比は悪化しやすいです。パラレル化は2の平方根で性能が向上するので数が増えるほど性能向上幅が少なくなっていきます。4倍の性能にするためには16パラが必要です。10倍にしようと思ったら100パラです。確実なクオリティ向上が出来る代わりに物量とコストはどんどん上がりますのでかなり効率は悪い方法です。現実的なのは4パラまででしょう。

なのでパラレル化をする場合には基本的な性能で極限を極めてから行う最後の手段にしないと価格ばかり上がってしまいます。パラレル以外に有効な対策があればまずはパラレル化以外の方法を取るべきです。例えばノイズの低いアンプや抵抗や回路構成にする等です。大抵の場合はそのために高価な部品を使っても価格は2倍にはなりません。本当に物理的な限界に到達しているかよく考えてからパラレル化をしましょう。中途半端な性能のままパラレル化をした製品は最悪のコストパフォーマンスです。SelectDACは明らかにコスト度外視で設計しているということです。

ここでMSBの電源回路を紹介します。完全に正しい回路図ではないと思いますが、概ねこのようになっています。最新のSelect DACでもLT1126っぽい刻印が見えているので昔から殆ど変わっていません。MSBはLTが好きみたいでアナログのオペアンプなどもLT尽くしです。

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リファレンス電圧をLT1027で生成しフィルタでLT1027の広帯域ノイズを除去、そこからLT1126デュアルオペアンプの2chを使ってバッファ+出力をフィードバックしていると思われます。ICリファレンスのノイズにフィルタで対策していますので設計は優秀です。こういうところも最終音質にはしっかり効いてきます。

CはPMLCAPっぽいものを使ってますのでコンデンサの品質にもこだわっています。回路図後段のD1(上の画像だとD6)は場所的にオペアンプのスイング電圧を制限するためのものなのでもしかしたらLT1126の電源はトランジスタ後段からとっているかもしれません。ですが大幅に違う回路ということはないと思います。

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  • 筐体サイズからみてかなり大きなトランスを使っているので、本体サイズの割に力強く伸びのある低域と、余裕のある中高域の描写が期待できます。
  • トランスからの漏洩磁束を防ぐためのケースの仕切りがあります。DACボードとトランスの距離が近いので仕切りをしないと出力にリップルが乗る可能性が高いです。
  • クロックはCrystekの低位相雑音タイプ。ppm追求型ではなく位相雑音追求型です。ES9018採用DACではこのパターンがとても多いです。
  • 最大の特徴はDACボードです。ES9018の電源ピン配置に最適化された電源レイアウトです。構成はデュアルのオペアンプレギュレータですが、左右に駆動用トランジスタを配置して負荷の目の前に配置しています。フィードバックリファレンスとしても経路としても最適なレイアウトです。結果として最短配置の高性能オペアンプによる高性能レギュレータという構成になっています。ここまで最適化すると発振リスクがありますがそこはうまいこと処理をしているのでしょう。このレベルになると負荷周辺には当然のように電解コンデンサはありません。
  • 出力段のための電源回路は見えませんが、ここまでやっているなら正負電源もオペアンプレギュレータの可能性が高いと思われます。
  • DAC周辺コンデンサはECHUのようなチップフィルムタイプに統一し、高周波特性を確保しつつもセラミックコンデンサを嫌う構成としています。アナログ部分にはセラミックは一つも無いように見えます。高性能なセラミックを使って高性能を追求するBricastiの設計とは相反するので両者で最終的な音質傾向は異なる結果になるでしょう。

このDACボードは非常に美しく完成されたレイアウトです。これを超えるレイアウトのDACはまず見ることはありません

Invictaは大幅値上げ前の旧型ですが実際に聞いたことがあります。音質的にはかなり緻密で滑らかなものでした。ただし分離が際立つ印象ではなくて非常におとなしく上品なサウンドです。残念ながら分離面で今一つな部分があるのですが、その理由は上記のDACボードをみると推測できる部分があります。

それは超高性能のレギュレータを使ったときに特有の副作用ではないかと思いました。個人的にはこれはフィードバック速度が有限であることが問題だと思っています。レギュレータの性能が低いときにはそういう副作用が弱く、無帰還だとこのような副作用自体が存在しませんが、帰還の性能が上がるほど劣化がひどくなります。Invictaのレイアウトは性能が極大になっているので副作用も極大です。

たまに無帰還至上主義が出てくるのはこの劣化要因によるものだと思っています。ここで無帰環電源にすると荒くて大雑把な部分があっても分離良くクリアーに聞こえますからね。試したことがあるのでその気持はわかります。

ですがそれで高帰還型を全否定するのは極端すぎます。原始人が火を使ったら危険だったので火を使わない道を選択するようなものです。国内の一派は未だに帰還型へのアレルギーがあるように見えます。無帰還型電源にこだわるのもいいですがそれだけでは進歩がありません。NFB=帰還型の副作用を理解して対策することがより重要です。

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本当はe22やe32以降のものを調べたかったのですが、基板の画像がないのでこれだけです。

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  • 最大の特徴はACアダプタを使ってケース内から一次電源を排除していることです。ケース内に電源を入れずACアダプタ化してノイズ要因を外部に追いやっているというのは発送の転換です。スイッチングノイズは今時なら除去するためのノウハウもパーツも揃っているのでこの方が合理的かもしれません。トランスを別筐体に入れる設計とやっていることは同じです。ACアダプタは見た目安っぽいし音が悪いっていう先入観もありますから、なかなかこういう割り切りは出来ないですね。こういう割り切った設計は音に違いが出ます!
  • ACアダプタは単一電源なのでそこから正負電源を生成しているはずですが、そのためのスイッチング電源はレイアウト左下のあたりだと思われます。DAC以降のアナログ回路から出来るだけ距離を取っています。
  • デジタル段とアナログ段の間が基板にスリットが入って分割されています。基板より空気のほうが絶縁性能は良いです。この部分で絶縁していることを広告でもアピールしていました。これも地味なところですが違いはあると思います。
  • ES9018の電源は例によってオペアンプレギュレータです。DACチップのちょっと上のところにあります。ハイエンドを称するDACではオペアンプレギュレータは常套手段ですね。LME49725をトランジスタによるバッファなし、ユニティゲインで使っているのが特徴です。Invictaはレイアウトがより美しいですがフィードバック抵抗がありましたので、ノイズ要因はexasoundの構成のほうが少ないです。ただしレイアウトは左右対称でもなくかなり細い配線なのでInvictaのような素晴らしいレイアウトではありません。
  • バッファ段以降は普通の構成です。信号部にECHUを使っているくらいで、あとは電源もDC-DC>三端子レギュレータによる正負電源のように見えますので、アナログ段は常識的な設計にとどまっています。大きい電解コンデンサはこのレベルになると当然のようにアナログ段には存在しません。あとは出力端子のあたりに長いものが並んでますが多分これはリードリレーですね。
  • クロックはCrystekの低位相雑音タイプでInvictaと同じように見えます。

正直Invictaと比べると特徴は少なく大分シンプルに見えました。ACアダプタを採用して一次電源のノイズ要因を排除していることとES9018の電源がユニティゲインのオペアンプレギュレータなこと位で、それ以外は普通の設計と言っても良いかもしれません。広告では大げさな技術をアピールしていますが中身は意外と普通です。基板のスリットによる絶縁性能向上も基板自体を分けている設計と比べて優位性はありません。

ですがこのレベルの差別化内容でも音質的高評価を得ることが出来るということです。重要なのはやはり選択と集中であるということでしょう。

音を聞いた感じはInvictaより少しだけ色彩豊かにした感じでしょうか。Invictaはおとなしく地味でもあったのですがこちらは高音にもう少し色がある感じです。爽やかで緻密で軽やかな印象です。ACアダプタ使用というイメージからしたら相当高品位なので驚きます。どちらも基本的には上品な質感であり、描き方が若干違う程度で音質レベルは意外と近いと思いました。Invictaはレイアウトだけ見るともっと音が良くてもいいのですが、例の副作用がマイナスに作用していることが両者が近い音質になっている最大の理由だと思われます。

Mytek Brooklyn

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これはハイエンド的なモデルじゃないですがManhattan初代と比較したところDACチップと電源以外はほぼ共通の構成のようでした。実際に価格差ほどの音質差がなかったのと、Brooklynは見やすいアナログ周辺の拡大写真があったので、Brooklynについて書きます。4層基板で配線が正確に追えないですので間違いもあるかもしれません。

  • 刻印を調べた所クロック左側のSOT23-5はADP151、クロック右上のSOT23-5はTPS763のようです。どちらも電源ICです。常識的にはレイアウト的にはクロック側がADP151、DAC側がTPS763の可能性が高いです。ADP151のほうは手前にMCP1703を使っていますので2段レギュレータでローノイズ化を狙っているのでしょう。ただしADP151はDACの左にあるオペアンプとつながっているようにも見えるので、何か別のことをやっている可能性もあります。
  • ICの刻印を削って隠していますが、SOP20はTPA6120という電流帰還型のヘッドフォンアンプ用アンプICだと思われます。
  • アナログ信号の通る場所はチップ抵抗ではなくMELF抵抗を使っているのが特徴です。金属皮膜タイプでローノイズで音が良いとされています。実際には薄膜抵抗と特性自体はさほど変わらないのですが、音的には太く力強い方向性です。薄膜は繊細で緻密な音です。
  • オペアンプの電源はシンプルなセラミックコンデンサ一個のみなのでこの部分はとても普通です。
  • クロックはAbraconの低位相雑音タイプでこれもppm追求型ではありません。

正直あまり詳細が分かっていませんが、これもなかなか音質の良いDACでした。弱点があるとしたら砂っぽい質感です。同じスイッチング電源を使っているexasoundではスイッチング段以降の対策レベルの違いの影響もあるのか高域の質感はもっと素直だったので対策レベルに結構な違いがあると感じました。この部分が気にならないなら基礎クオリティは見た目の設計以上に良いと感じます。

初代のManhattanはトランス電源なのでこの高域の質感は抑えられていますが、Brooklynと比較してそれ以上に圧倒的な差までは行かない印象です。基盤を見る限りManhattanは電源以外はほとんど同じ設計なので大した違いがなくてもおかしくはありません。現行のManhattan2についてはまだチェックしていないのでなんとも言えませんが。

あと何度も書いていますが、MADA-2もe20もInvictaもBrooklynもそうですがアナログ回路の周辺電源パターンに電解コンデンサを置いてないのでキレのあるプロが好む音質になってると思います。国産大手だとベタベタ電解コンデンサを大量配置していることが多い上に元々の電源回路の性能が低いためドロっとした音になりがちです。なのでそういう音に慣れた耳からするとこの手の海外製品はクリアに聞こえます。

ですが写真で見る限りはなんで音が良いのかこの機種については分かっていません。上記のDAC直後のADP151+デュアルオペアンプ周りで何か特殊なことをやっているようにも見えますので、おそらくですがここに音質の秘密がある可能性は高いと思っています。普通にADP151+TPS763でDACを駆動してもこのレベルの音質にはならないと思うのです。この機種は常識的な設計の音質よりちょっと上にあります。

EAR DAcute

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真空管アンプで有名なEARです。このDACはかなりアナログ的で濃い音がするのですが、中身はこんな感じです。真空管関係はあまり詳しくないので正確なことはさほど言えませんが、真空管とトランスがこのDACの音の秘密だとは思っているのでそれについて書きます。間違ってるところもあるかもしれませんのでこの項目は話半分でお願いします

正直DAC基板自体はとても平凡な設計です。これだけではまず大した音は出ないです。それ以降のアナログ段に音の秘密があります。EARのパラヴィチーニが発言していたことですが、実は真空管はなんでもよく重要なのはトランスだそうです。トランスは市販品では満足できず元々手巻きで自作していたというお話があります。トランスの特性が音を決めるということですね。

トランスの特性で重要なのはアイソレートとLPFを兼ねていることだと思っています。特に現代のDACの場合はどちらの特性も重要です。現代のDAC基板は音声を作り出す源流でもありますが音声帯域外ノイズ源にもなっています。現在ではほとんどのDACが帯域外ノイズを吐き出すデルタシグマ式です。このDACも例外ではなくWM8741を使っています。DAC素子が直接置かれている基板はDACの動作とクロック信号によって汚れています。なので直接この基板にアナログ回路を接続することは帯域外ノイズの音質的影響が無視できません。この帯域外ノイズは配線を接続しただけでGNDにも伝わりますしアナログ信号路にも伝わります。マルチビットDACだと無対策でもこの帯域外ノイズが圧倒的に少ないことが最大の優位性だと考えています。

そこでトランスの出番です。GNDを物理的に分割できる上に周波数特性も制限されるトランスはこの帯域外ノイズをGNDからも音声信号ラインからも除外する役割を果たします。EARの設計は信号伝達の全段にトランスを挟み込むのが特徴ですが、このトランス段を通過する度に帯域外ノイズを遮断し基板間のノイズ伝達を防ぎます。それが結果として広帯域で見ればSNを向上させることになります(帯域内SNは変わらない)。これがEARの音の良さの秘密その1であると考えます。

次に真空管です。よく真空管は特性が悪いが音は良いと言われますが、真空管の最大の音質的優位性はその動作電圧だと考えています。動作電圧と信号電圧が高いということは外来ノイズや抵抗から発生するノイズを見た目上小さくすることが可能です。真空管では電源が300Vで信号が50Vとかが普通にあります。特に抵抗ノイズは音質的影響がかなり大きいですのでこれは重要です。抵抗は値が2倍になってもノイズ発生量は2倍になりません。真空管をつかうと信号レベルを大幅に上げることができるので半導体アンプと比べて伝達中の信号SNの観点で優位性がある、これが音の良い理由だと思います。

以上のようにEARの優位性は多段トランスと真空管の組み合わせによって広帯域SNの向上と信号帯域SNの確保、この2つの要因によって達成されていると思っています。このような設計なら緻密なノイズ対策や部品選定など一切やらなくてもよくなると思います。だからEARの内部は音が良さそうに見えません。

補足ですが、SNという概念で重要なのが音質では実測ノイズフロアだけが支配的ではないところです。オーディオではノイズ成分にも音の善し悪しがあって脳がノイズNを分離処理できるときは同じノイズフロアでも音質は悪化しません。そういうNは音質劣化の小さいNです。なので一見SN性能が同じように見えてもN成分の由来によってそこには音の善し悪しが発生します。人間の脳はNに埋もれた情報を取り出す能力があります。それは下記記事にまとめています。

人間の聴覚と音質について

帯域外ノイズの半導体への影響についてはこちらの記事に記載しました。

オーディオ小ネタあれこれ

要はいかに質の悪いNを排除するか、それが高音質のDAC設計には重要だということです。質の悪いNには帯域外ノイズ成分が含まれることもありますし、帯域外ノイズが半導体によって帯域内に変換されて入り込んでくることもあります。これも重要です。

EARの設計はこの人間的な要求事項に最適化した設計であるからこそ、測定値が悪くても人間が聞いて高音質に感じるのだと思っています。測定至上主義の無意味さは人間が測定器ではないこと=測定器と原理も方式も違うことが理由です。測定データはメーカーの技術力指標として、まともなものを作っているかどうかの最低限の評価にしかならず、それだけで音はわかりません。

Schiit Audio Yggdrasil

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国内では知名度が低いですが海外ではミドル価格帯で最も評判が良いと思われる製品です。25万円くらいの価格ですが中途半端なハイエンド製品を打ち倒していると評判です。製品の見た目もしっかりしていてガレージメーカーというわけではなさそうです。ちょうど日本でいうとSoulnote、Glasstoneみたいな感じでしょうか?

この製品は非常に面白い設計なのでこちらで紹介します。なんで音が良いのかについても考えたので書きます。

最大の特徴はオーディオ用DACチップを使わずにAD5791というマルチビットDACチップを使っていることです。チップスペック的には20bitDACですが、この製品ではAD5791を片チャンネル2つ組み合わせて21bitとしているようです。

http://www.analog.com/jp/products/digital-to-analog-converters/ad5791.html

AD5791はシングルの20ビット、出力バッファ無しの電圧出力DACで、最大33Vのバイポーラ電源電圧で動作します。AD5791は、5V~(VDD-2.5V)範囲のプラス側リファレンス入力と、(VSS+2.5V)~0V範囲のマイナス側リファレンス入力を許容します。AD5791は、±1LSB(max)の相対精度仕様を提供し、動作は±1LSBのDNL(max)仕様を備えており、モノトニシティ(単調増加性)が保証されています。

AD5791は上記リンクから引用するとこのような内容です。電圧をチップに直接33V=正負16V程度まで供給できるようですね。マルチビットDACということもあって出力フィルタは不要でバッファさえあればそのまま負荷を駆動できるみたいです。オーディオ的に優位性があるのはマルチビットという漏洩ノイズの少ないアーキテクチャ、LPF回路が不要であること、電源電圧が高いこと、これらの理由により神経質かつ高度な音質対策設計をしなくてもよいことです。

普通のオーディオ用DACでは24bit以上のスペックはありますが、最近のチップではアナログ電源が5Vか3.3Vと低く電源ノイズに対する要求スペックが厳しい割に768kHz以上のレートを受け入れるため高周波ノイズの影響は更に厳しくなっています。さらに後段にIVやLPFなど複雑で部品点数の多いアナログ回路を要求する等、周辺回路設計への要求事項が厳しくなっています。

その点AD5791を使うとLPFもIVも不要、電源電圧も高い。なので聴感SNの悪化要因が普通のオーディオ用DACよりかなり少ないです。リファレンス回路通りに作ったら自動でオペアンプレギュレータになるのも音にいいですね!これらの要因はすべて実SNだけでなく聴感SN的にも有利な設計になります。特別な対策や配慮をしなくても高額なDACに音質面で勝てた要因は上記の部分の優位性によるものだと思われます。

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AD5791を使った設計による聴感SNの優位性はMSBと似ています。信号レベルの向上によるN要因の軽減、マルチビットによる帯域外ノイズの少なさ、後段のアナログ回路がシンプル、オペアンプレギュレータ使用等、同じではないですがかなり通じるものがあります。だからこそYggdrasilは高音質という評価を得ているものと思います。

実際このSchiitというメーカーはYggdrasil以外のDACはさほど評価が高くありません。この製品だけ突出した評価を得ています。それは元々このメーカー自体は大したオーディオ用DACのノウハウは持っていなかったためと思いますが、AD5791を使ったことで高度な対策をしているDACと同等以上の製品を出すことができたことが一気に知名度を上げた理由だと考えます。確かにこのICを使えばリファレンス回路以外のことはあまり考えなくても高度な対策をした製品並の音が出そうです。

海外のレビューではこのようにも書かれています。抜粋して翻訳を引用します。

http://headphone.guru/schiit-yggdrasil/

私が過去3年間に聞いたDACの中には、Arcams IRdac、Eximus DP1、Arcam FMJ D33、Chord Hugo、Bricasti M1、Lampizator Level 4、Big 7などがあります。これらはすべて、私が仲間探しのためにオーディションしたものでした。私の意見では、イグドラシルはLampizator Big 7を除いてすべてベストです。

昨年、私はChord Hugoをレビューしました。その時、私は聞いたことがある最高のDACでした。それは、高音量と低音量の両方で自然にどのように聞こえるか、私を驚かせました。それはアナログシステムのように聞こえるこの能力を持っていたので完璧でした。(ハイエンドのレコードと思っていますが)イグドラシルはこのように似ており、ミッドレンジとトレブル地域では全く乾燥していません。私がHugoとYggdrasilを比較すると、私はHugoがやや研磨されているように見えました。

Yggdrasilには、3次元空間の音を再現する素晴らしい方法があります。

ハイエンドDACを持つ利点のいくつかは、アコースティックキュー、イメージング、サウンドステージの深さ、音色、音色の改善です。一般的に、価格が上がると、これは明白になるハイライトのようなもので、1500ドル以上のほとんどのDACはこれをあなたに提供します。イグドラシルをこれらのものから区別するものは、その重さを上回り、その値札をはるかに超えている能力です。私の意見ではEximus DP1、Chord Hugo、Arcam FMJ D33のような同様の価格のDACを上回っています。Yggdrasilの利点は価格toパフォーマンスピークがBricasti m1 のような dac のレベルの周りに近い。あなたは m1 がユグドラシルの3倍の価格であることを考慮すると信じられないほどの成果です。

音は一度も聞いたことがないのでそれについては何も書くことができないのですが普通のDACとはちょっと違う方向性みたいです。一度聞いてみたいDACです!

AIT DAC

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国内DACの代表格です。国産で良い設計の見本として紹介します。本当はSforzatoやSoulnoteも紹介したいのですが詳細がわかる程度の良い画像が見つからないのでこちらの製品について書きます。

これは設計面での対策が多岐にわたっており隙の少ないDACです。評判が良いのは設計バランスが良いことが理由でしょう。上の写真は古いものですがもっとバージョンが新しいものもネットで探すと拡大画像はあります。基本は最新のものも殆ど変わっていません。

  • DAC電源の多系統オペアンプレギュレータが素子の直近に配置されています。Resonessenceほどの執念的なレイアウトではありませんがexasound並の直近レイアウトでの配置です。また電源系統が別(AVDD、DVDD)のものを多分分けて供給しているので、単純に左右でしか分けていなかったResonessenceよりも優れています。
  • アナログ用の正負電源もオペアンプレギュレータを使っています。
  • LPF回路に4つのオペアンプを使っています。普通は4つも使いません。多段LPFだと思われるので高周波ノイズ除去に力を入れているものと思われます。ただしオペアンプや抵抗素子によるノイズ要因は増加するのでそこはトレードオフです。
  • クロックにディスクリート構成を使っています。実際に何をやっているのかは図ではわかりませんがコルピッツなどのロージッターな発振器を基本とした構成をしているものと思われます。
  • アナログLPF回路のコンデンサはフィルム、抵抗はリードタイプの金属皮膜抵抗を使っているようです。MytekのMELF型抵抗+フィルムコンを使ったアナログ回路と同じようなコンセプトです。
  • FPGAによるジッター対策処理。ただしFPGA自体の性能が制約となってジッター特性の限界はあると思われます。ロジックICもジッター性能がありますのでそれと同様の話です。

音は所持している友人に本体を借りたことがありますので自宅で詳細な比較をしました。内容はES9018の最終版です。設計面を見ても音質的な達成レベルとしては旧型Resonessence、exasoundは超えているレベルにあると思うので価格を超える性能は持っています。基本的にはかなり緻密で弱点の目立たないバランスの取れた音質であると思います。

傾向として強く感じたのはAITは全体的におとなしい音質であることです。基本的な方向性としては日本人的な空気の読める音というのか、個の主張がまんべんなく少ない、通じて遠慮がちで控えめな大人サウンドだと思います。一言でまとめるなら奥ゆかしい音です。とにかく何かを主張するような意志を感じません。音は硬くも柔らかくもなく中庸ですし、弱点の出方も「中域の塊感」という、非常に凝縮した形となっており縮こまった主張となっている印象です。

機器の弱点というものはレベルの高い機器と比較しないとわからないものですが、大抵の場合は弱点は強い個性を感じることが多いです。ですがAIT-DACの場合は弱点の出方まで控えめなので、これはもう機材の個性=制作者の個性だと思います。

ただDAVEには及ばないクラスで、比較して劣っていると思ったのは一音一音が細身でレンジもそれほど広くない印象があり、中域に凝縮した塊のような帯域があります。その要因となっているのが音の立ち上がりと立ち下がりのバラ付きで、これが中域の見通しの悪さ、不明瞭な部分を作っているように思います。DAVEに勝つためにはこれくらい対策を頑張った設計でも無理なのでかなり敷居が高いですね。

Esoteric D05

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他の機種はわかりやすい画像がなかったのでこちらを紹介します。一応2016年の機種なのでそこまで古くはないと思います。なおここでは今までの解説で既出の部分は割愛します。

ここまではオペアンプレギュレータばかり出てきましたがこれは全く違います。まず共通しているのは非常にシンプルな回路を採用しているようにみえることです。画像からは次の図のような電源回路に見えます。シルクでEとBという表記があるので3端子レギュレータではなくトランジスタでしょうね。この価格帯で3端子レギュレータのみはありえないです。DAC素子に直近でトランジスタを配置しておりレイアウトも理想的です。

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この回路図でちょっと怪しいのは上の写真だとR3に該当する部分が見えないのでR2をトランジスタのコレクタから取っている可能性もあります。画像だとエミッタから取ってるようにみえるのですけどR3がないと立ち上がりのときにベース電流を掛けることが出来ず電圧が立ち上がりません。もしかしたらQ1のベース電流はR3の代わりに基板上の別の場所から取っているかもしれません。

ここまでは海外のハイエンド系を含めてほとんどすべての機種でオペアンプレギュレータまたはICレギュレータ、いわゆるNFB型の電源を使っているのに対して、エソテリックは徹底的に無帰還に近い電源回路を採用しているのは大きな特徴です。音質的な差別化としては非常に有効だと思います。オペアンプレギュレータとは方式が根本的に違うので音質傾向も別ものになります。

この回路は基準電圧はD1です。ツェナーダイオード一本による基準電圧ですね。よくツェナーダイオードはノイズが多いと言われますが5V程度までのものは実はかなりノイズは少ないです。こんなにシンプルですけど意外とICリファレンスより高周波ノイズが少ないです。この辺はよく分かっているなと思います。海外製品はICリファレンスが多かったのでここは大きな差別化要因ですね。MSBみたいな念入りなフィルタリングをしなくても良いので多系統にしたときのコスト面ではツェナーのほうが有利です。

この回路だとNFB量が非常に少ないので音質的なメリットはあります。アナログ電圧において無帰還のような電源だと負荷の変動は全く追従できないので測定特性は劣化するのですが何故か音質は悪くないです。音的には開放感があり分離がよくややサラッと色がついた音が特徴です。低音もハイスピードというより若干柔らかくなります。

オペアンプレギュレータやICレギュレータなどのNFBを使った電源回路は特性上は優れていますが、音質的にはやや抑圧的で設計が悪いと音が暗くなったりアンバランスな応答スピードになり癖があると感じる場合もあります。特に負荷の掛け方によっては分離が悪化するという副作用があります。高性能オペアンプを使ってNFB量と帯域を増やすと、負荷の変動をどこまでも強制的に抑えることが出来るので、まるで理想電源のように感じるのですが実はそうではありません。

このメリットを両立できればベストなのですが現実的にはなかなか難しいところがあります。これをどう組み合わせていくのかが音作りのセンスです。

エソテリックは複数機種の音を聞いたことがありますが、サラッとした質感、開放感ある抑圧的ではない音の印象はほぼこの電源回路が貢献している部分も大きいと思います。最新機種は大きな画像がなく回路が不明ですがDAC素子のパラレル化を進めている以外はこの時代と基本的な設計は大きく変わっていないと思います。

パラレル化はとても効率が悪いのですが、それでもパラレルで性能向上をしているのは手詰まり感があります。残念ながら最新のGrandiosoシリーズでは他に向上の有効手段がなかったのかもしれません。36bitと言っていますがそれは本質ではなくパラレル化で無理やりアナログスペックを上げて音質確保しているのが実態でしょう(デジタル領域の違いは音質に支配的ではないため)。

Playback Designs Merlot DAC

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コメントでリクエストいただきましたので書きます。

  • トランスが大きく整流のコンデンサも大きいです。これにより低域が深いところまで伸び、余裕のある音が出そうです。
  • DACを使わないオリジナル設計です。これが最大の特徴だと思います。Merlotのものとはバージョンが違うかもしれませんが基本的な方式は同じだと思います。PlaybackDesignのDACモジュールはここに情報があります。http://www.akdesigninc.com/products.html
  • 72bitの内部処理とありますがこれはFPGAでのDSD変換のための演算処理精度のことでしょう。最終的には全てを高速DSDに変換処理し、そこからLPFでアナログ信号を取り出す発想です。
  • 過渡応答に優れるデジタルフィルタを採用しています。最終フォーマットはDSDですがNOSに近い応答です。フルーエンシーとかAKMのスーパースローオフみたいな感じだと思います。この方向性は雑味があって生っぽい音とは違うのですが独特の質感があります。位相に過敏な方がこの方向性を好むことが多いです。DSDのあの空気感をもっと強くしたような感じで高音に特徴があります。これはこのDACの最大の特徴になると思います。
  • FPGAからのDSD差動出力に等長配線を使用しています。数十Mhzくらいだとあまり意味がありませんが数百Mhz以上では効果的です。高調波の漏洩を抑制するためでしょう。レイアウトもデジタルとアナログの間を3cm程度開けていますのでデジタルノイズのアナログへの混入を嫌っての処置です。
  • 5532を片側4chに使用しています。4段のアクティブフィルタだと思います。ここでDSDをアナログ信号にしています。デジタルフィルタではなく4段のアナログフィルタのみなので過渡応答が早いということですね。ただしこの程度だとノイズシェーピングによる帯域外ノイズは抑制しきれていない可能性が高いです。高音はノイズ成分を多く含むので色付けはかなり感じると思います。
  • 5532のアクティブフィルタだと高周波の帯域抑圧性能が不足しそうです。FPGAから等長配線をしているのに高周波特性が悪いオペアンプを使っていること、サイズが大きく高周波特性が悪いフィルムコンデンサを使っていることは設計に一貫性がないです。デジタルとアナログが別の人が設計してるんでしょうか。このあたりの技術的な制約を過渡応答の優位性に置き換えている可能性があります。
  • アナログ信号素子がMELF+フィルムコンなのは既出の機種と同じです。
  • アナログ電源はLM317+337と平凡です。デジタル設計は頑張ってるのにこれは駄目ですね。もし改造で商売するならこことオペアンプ変えれば簡単に音良くなると思います。
  • 追記:LM317+337なのは変わりないですが合計で8個も使ってます。負荷に応じて分散して配置してるのでその目論見は有効だと思います。負帰還の副作用に対応するためだと思います。当然ながらLM317+337一発の設計よりは優位性があります。あと負荷側のオペアンプ電源端子にコンデンサ自体がありません。レギュレータ出力だけで電圧補正する発想です。こういう所は評価出来ます。

音については聞いたことがないので例によって推測なのですが、トランスが大きいので低音は力強く全体的にパワフルで余裕のある描写が期待できます。高域はフィルタ性能が緩いのでNOSに近い雑味がありつつ、ノイズシェーピングの残留ノイズの影響も合わさってかなり荒いと思われます。ゴリッとした質感が好きな人はありかもしれません。

アナログ段は5532とLM317の組み合わせなので国産大手並です。ただし大きな電解コンデンサをおいてないのでPSRRの応答は素直です。問題はノイズ性能です。レギュレータ直結で過渡応答は素直ですが、そのかわりノイズが多くアナログの品位はさほど高くないです。中域の透明感はハイエンドとは言えないちょっと一歩落ちるレベルに収まっている可能性があります。

このDACは高域の質感が最も個性的だと思うのでそこが気に入ったらありです。あとは低域はパワフルで余裕がある筈なので大出力で馬力のある音を好む場合にも適合するでしょう。トータルで言えば大胆かつパワフル、やるべきことはやったから細かいことは気にしない、そんな感じの方向性になると思います。

同社のMPS-3は聞いたことあるのですがケースのデザインそのまんまな音だった印象があります。本機もその傾向はあまり大きく変わっていないと思われます。

Oppo Sonica DAC

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一番上であまり音質が良くないと書きましたが、写真を見ると実は設計はコストも掛けていますし頑張っています。内部設計を見て予想以上に頑張っていたので驚きました。

とりあえず写真から分かるアナログ段の特徴を挙げます。

  • 1.2V電源は1117を使用。DACのデジタル回路用電源なので割り切って一般的なレギュレータの採用です。
  • 3.3V電源は周辺パターンの部品配置からアナログ・デバイセズのADM7151を採用しているように見えます。これは現在のICレギュレータで最高のノイズ性能を持つ一つです。オペアンプを使ったディスクリートレギュレータでもなかなかこのICのノイズスペックを超えるのは簡単ではありません。少し前の時代ではここまでノイズ性能の優れたICがなかったのでオペアンプレギュレータを使うことが高性能&高音質のための有効な手段だったのですが、今はこのような優秀なICがあります。価格は結構高いICなのでES9038と合わせてコストはかかっています。
  • アナログ段はLM4562を使っています。決して悪いオペアンプではありません。ですがこのICは出力電流スペックはあまり余裕がありませんので、ES9038の電流を十分に捌けているのかは怪しいです。もしかしたらこの部分が音質を劣化させている要因の一つでしょうか?とはいえスペックを満たさない状態で出荷しているとは思えないので定格内ギリギリで収まっていると考えるほうが妥当です。
  • LPFで金属皮膜抵抗、フィルム抵抗はAIT、Mytekと同じです。

最大の特徴はES9038であること、それに電源ICにADM7151という最高クラスのローノイズ品を使っていることです。とても真面目にコストを掛けています。国産大手だとこういうコストの掛かるICは回避する傾向があるのでこれは完全に中華の優位性です。これだけなら凄く良い音がしそうですね。

ですが自分もこの製品は音を聞きましたが悪くはないのですが意外と抜け切らない音なんです。何かを圧倒するようなものは何もないです。考えられるのは常識的すぎる設計でしょうか。おそらく彼らは理論的に良いものをしっかり追求しているように見えるのですが、全てが常識的すぎてそれ以上ではないのです。何も突出していない設計が印象的ではない製品を作り上げた可能性があります。

不足しているのはハイエンドにあるようなある種の逸脱、音作りや音決めの確信的な判断、意図的に常識から外れた設計、そういった平凡を抜けた部分かもしれません。それが他者に対する説得力や伝達力が欠けている理由というのは考えられそうです。楽譜通り正確に演奏された音楽が必ず素晴らしい音楽ではない、ということと同じです。

ですがOppoという大衆向けの製品としてはこれが理想的な立ち位置だと思いました。彼らは我々オーディオマニアが予想するよりよほど自分たちの使命をよく理解しており、やりすぎないことの重要性を熟知しているとも考えられます。

ハイエンドではこれまでに紹介したように何かを貫くことや突出することで音楽的な方向性が生まれたりコストが上がったりしていますが、そういった路線では特定の方向性に偏りがちで、それが好きではない人、価格についていけない人、要は製品を選ばない脱落者が生まれます。なのでギリギリの低価格、それでも上を目指すクオリティ、そして平凡すぎるバランス、突出しない代わりに誰もが大きく否定もしない、絶妙な仕上がりです。実際に売れているので結果としても成功しています。これは大衆向け製品としては極めて優秀であるとも言えそうです。

マニアにとってはとてもつまらない製品ですが、誰でも手に入る価格、好みに左右されない中庸さ、これはまさに大衆向けの理想です。たしかに一番上に書いた面積の例えでいうと完璧すぎる正方形は正確な音楽と同じでつまらないものなのかもしれませんが、少なくともこれは出来上がってしまったオーディオマニアが自分の理想の道に導入するような製品ではありません。そうではない普通の人が手にするような製品です。きっとそういったユーザーはまだ自分自身の望む理想の音などは知らないと思います。そういう人にとっては尖っている大抵のハイエンド製品はまだ望ましくありません。

同じ価格帯の国産大手製品よりワンランク良い音が楽しめる、Sonica DACはそんな製品かもしれません。

Oppo digitalはアメリカ企業?

書いたときにOppo digital=中華と取れるような書き方をしてしまったのですが、コメント欄にてご指摘いただきましたので、そこについては正しい情報を記載すべきと判断し追記いたします。

確定情報としてはSonica DACのOppo digital本社はアメリカにあり開発もアメリカ、製造のみ中国という形です。ただし元々は中国の会社BBKが設立したものです。

ここまでが確定情報で以下は個人的な意見です。おもうのは現在の「中の人」としての実態がどちらにあるのかです。これは確定情報がなくグレーゾーンのようです。法人としてはアメリカにあるのが事実ですが中国のOppoとの関係はWikipediaを見ても不明とあります。

個人的にはですが、それには重要な理由があると思っています。最近は韓国astell & kernがドイツブランドを利用したりしていますが、このように欧米ブランドをアジア企業が積極的に利用するケースが増えてきているようです。なので推測でしかありませんがOppoデジタルも同じ戦略だと思っています。もし実態が中国でもアメリカに法人を置いてアメリカの会社だと言うことはイメージ戦略上有利なのは事実でしょう。

Oppoの入念かつ的確なマーケティング力ならそのあたりは経営判断はあってもおかしくはありません。あとはHA1の内部設計に中華の雰囲気がある所もそう思った理由を後押ししています。部品選定のセンスとかレイアウトとかそういうところです。そしてSonicaではGustardと同時期に内部設計が同じような方向性で進化している(詰め込み型から余裕のあるレイアウトに変化)ので中国語圏での設計ノウハウの流行や技術伝搬があるのだと思っていました。

追加情報としてこちらの内容を貼り付け&引用しておきます。インターネットの情報なので噂として捉えてください。

http://www.avsforum.com/forum/18-dvd-players-standard-def/756942-oppo-chinese-brandi.html

オッポは、世界中で12,000人を雇用している家電製造の巨人であるBBK Electronics of Chinaの北米支店である。だからオッポは新しい名前だが、その会社とその背後にある技術はかなり重要だ。

OPPO Digitalはカリフォルニア州マウンテンビューに拠点を置き、巨大な中国のマーケットリーダーであり、 Denon、NEC、BOSEなどの企業の個人ラベルOEMであったBBK Electronicsの米国拠点です。あらゆる種類のエレクトロニクス機器を製造するBBK Electronicsは、中国のマーケットリーダーであり、世界的に拡大して北アメリカの腕OPPO Digitalの創造を目指しています。

Oppoに見る大衆オーディオの可能性

OppoはHA1の頃は国産と同レベルでした。高域に色が強く乗っており、帯域バランスが非常に悪く、よくある派手なドンシャリサウンドでした。ですがSonica DACではそういった欠点は大幅になくなっており、ぱっと聞いて変な音がしないレベルになっています。これは丁度Mojo&Hugo以降の現代的なトレンドの方向性に寄せてきていると感じました。

ですが国産大手はいまだに「わかりやすい派手な音こそ大衆が求める音質」だと思っているように見えます。そういう既存マーケットの都合にあわせて枯れ果てた設計にいつまでも固執し進化を否定しているように見えますので恐らく時間の問題で中華に追い越されます。今回のOppoの最新の設計と仕上がりのバランスはそれを強く予感させるものでした。

現状にしがみついた停滞は衰退と同じです。なぜなら時代は常に進化し変化しているからです。進化を否定した種の大半が滅んだように、変化と進化を拒むメーカーは大半が死滅するという結果が待っている気がします。中華は貪欲に新しいものや良いものを取り入れて進化しています。価格だけじゃなくて中身も負けたら本当に終わりです。Oppoは既に最新チップを普及機採用し、先んじて販売することには成功しています。中身もマーケティングも既に負けてるんじゃないでしょうか。

実際このモデルは注目もされていますし売れています。後追いができているのはSoulnoteのみという現状があるようです。

Sonica DACは調べるほどガレージメーカーにとっては永遠に競合しない製品だと思うのですが、国産大手のような大衆をターゲットにするメーカーはOppoの製品を脅威として見做さなければならないと思います。この製品に勝つためには同等のコストで、さらに高い基礎クオリティを持ち、高いレベルの音楽性のバランスが求められます。

基礎クオリティを上げる方法

ここでは国産大手の設計について、海外製品と比べて疑問だと思う部分にツッコミを入れています。一部現状について批判的な部分もありますので、そういうのが嫌な人はここから先は読まないようにしてください。特に国産大手のファンの方やユーザーの方にとっては納得できないような内容が含まれている可能性があります。

あくまで個人的な将来予測から考えられる現状の課題のまとめです。将来については確定できるような情報ではありません。この通りにならない可能性も十分にありえます。特に大衆の好みが現状のままならこのようにはならないと思います。

上記の点、ご理解の上お読みいただくよう、よろしくお願いします。

DACの音質要因はこちらにまとめてありますが、ここではもう少し具体的な対処すべき内容を上げます。順番はおおまかな重要度です。

  1. アナログ信号回路構成
  2. 電源回路構成
  3. 基板設計レイアウト
  4. ケース内レイアウト
  5. ジッター設計
  6. デジタル設計

国産大手は1、4、6が強くそれ以外が弱い印象があります。5はメーカーによります。概ね共通しているのは2と3が海外勢と比べたときの最大の弱点ではないかと思います。

国産大手の設計でよくあるのが信号回路だけはディスクリートと称して物量投入する内容です。ですが「ディスクリート電流帰還アンプによるストレートな音」なんてもう古い設計だと思います。昔はNFB至上主義、そこからNFBを全否定して無帰還、最近は電流帰還アンプと変化してきていますが、今はさらに次の時代なんじゃないでしょうか。それはそろそろアンプ回路以外の2、3の部分にも力を入れなければならないということです。

たとえばですが電流帰還アンプはICでも十分音いいです。当方もさんざんディスクリートは電圧二段、高速電圧一段、電流帰環、これら全ての方式のものを作って実験しましたが最終的にはICで十分だったのでディスクリートは全部捨てました。海外ハイエンドをみてもICオペアンプで良い音出してるのが現実です。これらから考えると、どう考えてもディスクリートアンプだけで音が決まる時代なんて終わっていると思います。やるにしてもICオペアンプでは絶対にできないような回路でないと意味がないでしょう。それならディスクリートの意義はあると思いますが、そもそもアンプだけでは大した差別化が出来る時代では無いと感じています。

もちろんアンプでも音は変わりますが、それ以外が平凡のままでは結局「長い長方形」なんです。基礎クオリティは面積で例えていますが、総合力を上げるためには短辺の部分を伸ばさなければ長辺だけ伸ばしても効率も悪く向上には限界があります。それはいまだ未対策の部分が足を引っ張っている状態です。現状で短辺にあたる最大の問題は上に上げた2と3、DAC周辺回路のレイアウトや電源まわりが平凡な設計にあります。

別に音を根本的に変えるべきだとは思いません。各社のポリシーと音楽性を捨てる必要はないです。そうではなく基本的なクオリティはそろそろ上げていかなければならないと思うところです。これからはSonica DACの音が基準になっていくと思いますが、基礎クオリティがこの製品以下では存在価値は半減以下になるでしょう。

今回ここで紹介したような内部画像は大分前からネットで公開されているのですが、InvictaのDAC周辺レイアウトの後追いをする製品が全く出てこないことが不思議でしょうがありません。こういう高性能路線は基礎クオリティを上げるための有効手段です。誰もこういう画像を見て研究しないのでしょうか?正直貪欲にハイエンドの真似をしている中華のほうがよっぽど先行きは明るいと思います。国際競争の観点で見ればハイエンドはChord、ミドル以下は当面Oppoを始めとした中華が最大の脅威でしょう。

高音質と評価されている製品のDAC基板を見ると、いまどきベタベタ電解コンデンサなんてほとんどの製品で配置していません。なんで配置しないのかと言えば電解コンデンサの特性が悪いからです。そこから質の悪い電流が供給されるので立ち上がりと立ち下がりに癖のある音になってしまいます。よく「特注のオーディオ用電解コンデンサで高音質」なんて言ってますが、そもそも電解コンデンサ自体が音が悪いのです。電解コンデンサを特注して音質をチューニングしても所詮電解コンデンサレベルから逸脱は出来ません。

もちろんそれがメーカーのカラーだということは分かっています。ですがそれ一辺倒では進化がないということです。そろそろ適材適所でクオリティを上げる部分も組み合わせていくべきではないかと。特にDACまわりの電源は電解コンデンサなどよりももっと高性能な構成を必要としています。オーディオではアンプだけ良くても電源が良くなければアンプの性能も出ません。DACも同じです。そのためのレイアウトであり構成です。それを今回大量の記事で書きました。

基礎クオリティを上げる良いアプローチはInvictaやAIT-DACのような設計です。どちらも帯域の癖が非常に少ないDACです。その理由は電解コンデンサでは達成できない特性をオペアンプレギュレータで実現しているからです。オペアンプは音声帯域を余裕でカバーできるほど低周波まで伸びた周波数特性と高いゲインを持っているのが電解コンデンサとの最大の違いです。これによって素直で波打っていないPSRR特性と低インピーダンス特性が同時に確保でき、結果基礎クオリティが高く癖が少ない音になります。

もうそろそろ電源が平凡なICレギュレータ+特注電解コンデンサ山盛りというような進歩のない構成はもう辞めてほしいです。SonicaDACでさえADM7151を使っています。確かに電解コンデンサがたくさん並んでいると見た目物量感があってコスパが良いようにも見えるのですがただの性能不足です。しかも中にはアナログ段のオペアンプが4580とか5532だったりする製品もあるわけでそんなものはただのコストダウンの塊です。ディスクリートだって大量生産なら高級オペアンプより安いので、結局電解コンデンサもディスクリートも全部コストダウンをしながら物量感を演出している素人騙しだと思うのです。

それを割安で良い製品だと勘違いして買う人も多いのでいつまでもトレンドが変わらないのだと思いますが、正直そういうものが良い製品であるとずっと広告媒体や評論家を使って洗脳しているのも原因かもしれません。元々はお客さんが好んだ音なんでしょうけどね。とにかく顧客と広告どちらに原因があったとしても、これから顧客側の意識が少しずつ変わっていけばメーカー側も変わらざるを得ないと思います。マーケティング的にそういう利益率の高い美味しい製品もある程度残したら良いと思いますが、中華が先んじて時代を先取りする可能性はSonica DACが売れてる時点で高くなっていると思います。

基礎クオリティの低いものばかり使って、音作りで誤魔化す時代は終わりつつあるのではないかと思います。音作りや音の方向性を変えるのではなく、クオリティを底上げしないといけないのではという話です。このあたりを中華製品が上手にチューニング&グレードアップできるようになったら国産が駆逐されるのは時間の問題かもしれません。基礎クオリティとコストパフォーマンスで既に負け始めていますので、音作りまでうまくなったらかなりヤバイです。

素人騙しの安易な音作りだけでは通用しない時代はもうすぐくると思います。その原動力となるのはイヤホン、ヘッドフォン界隈です。この世界は早い速度で進化していますしHugoのような製品が既に評価されました。それがこれから普及価格帯に少しずつ降りてくる時代になっていくかもしれません。今後ますますユーザーの耳が肥えた時、選ばれるのは保守的な古いサウンドじゃ無いと思います。その時に何も準備せず時代遅れに気づいても手遅れです。

 

 

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