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最初の自作!Hypex Ucdパワーアンプ


シンプルかつエレガントなUcd方式

Hypex社のUcdというD級スイッチングアンプ(国内ではいわゆるデジタルアンプと言われる類)をご存じの方はどれくらいいますか?多分ほとんどだれも知らないと思います。しかし海外ではそれなりに有名なDIY向けアンプユニットのメーカであり、非常に優秀なD級アンプモジュールです。

UcDの自作について、もっと突っ込んだ記事はこちらに書きました。

少数ですが、実験的にUCDアンプモジュール+純正電源キットを販売します

国内でキット形態のD級アンプというとトライパスのキット(TA2020等)と雑誌の付録にもなったLXA-OTシリーズが有名だと思うのですが、いかんせん100W以上の本格的なパワーアンプを作っている日本人の作例は殆どみかけません。最近だと北鎌倉さんのところがやっていた位でしょうか。しかし海外を見ると大分このあたりの事情が異なり400Wクラスの自作も盛んです。そもそも日本という狭い土地や家庭環境がそうさせるのかもしれませんが、国内のデジタルアンプキットに興味がある層にとって本格的な音質や大出力を求めていないのかもしれません。お金に余裕のある人は完成品を買ってしまうと思いますし…。それとも高い電圧を扱うので危険というのもあるのでしょうか。

ともかく個人的にはICE-Powerからの乗り換えとして非常に興味があったのがこのUcdだったわけです。UCD=Universal Class Dの略です。自分がICE-Powerを購入した直後の2006年頃にUcdは既に存在し、今でも検索すれば元々は開発技術者のBruno氏がPhilips在籍時代の開発品のようで、↓のようなデータシートが残っています。

http://www.nxp.com/documents/user_manual/UM10155.pdf

um10155

データシートの回路図を引用すると↑のようになっているのですが、基本原理はフルディスクリートかつごく少数の部品で実現されています。部品規模だけでいえばちょっと凝ったアナログアンプとそれほど違いはありません。これだけで差動入力>コンパレータ>ゲートドライバ>スイッチング増幅段>出力フィルタ、という構成になっています。この回路をLTSpiceで検証すると確かにスイッチングアンプとして動作していることがわかります。ファイルも置いておきます。

[LTSpiceのシミュレーションデータ]

Ucdはそれまでのほとんどのデジタルアンプ=D級スイッチングアンプと比較しても非常にシンプルな構成です。自分もこのあたりは完全に理解できているわけではないのですが、Ucdの大きな特徴は出力フィルタを含めた負帰還(NFB)回路、三角波を使わないでスイッチング周波数を作り出している(共振周波数を利用?)ことです。一般的な自励式のD級アンプ回路と違い積分器オペアンプがなく直接コンパレータにフィードバックしています。このあたりのアイデアもすごいのですが、そこから更に極限までシンプルなディスクリート回路を1から発想できるというのは本当にすごい技術だと思いました。

ICE-PowerもUcdと同じように出力フィルタを含めたフィードバックを実現していますが、UcdはICE-Powerと比較してずっとシンプルかつ無駄のないアイデアにより実現されています。この出力フィルタをフィードバックに含める最大のメリットは出力フィルタそのものの劣化要因をNFBで修正できることと、負荷抵抗による周波数特性の乱れを押さえることができる点です。下記リンク記事で紹介した測定例でもICE-PowerとUcdだけは周波数特性が乱れていません。

http://web.archive.org/web/20070817050945/http://www.hypex.nl/docs/classeD_393_lores.pdf

http://web.archive.org/web/20070720212803/http://www.hypex.nl/docs/classeD_394_lores.pdf

このようなフィードバック設計は非常に特性向上に有効な手法なのですが、しっかりと国際特許で守られているため大手半導体メーカー(Texas Instruments、International Rectifier社等)からは同様の設計のD級アンプが発売されない理由にもなっていると思われます。なのでUcdとICE-Powerについては特許が切れるまでの間、どれだけ他社の技術が向上しても独自の優位性を保ち続けると予想されます。

ICE-PowerとUcdの特性の違い

次にICE-Powerと比較した特性の違いを書きたいと思います。近いスペックで比較するとICE-Powerのほうは500ASP、UcdならUcd400が相当します。

http://www.icepower.bang-olufsen.com/files/solutions/icepower500aspdata.pdf

http://www.hypex.nl/docs/UcD400HG_datasheet.pdf

出力インピーダンス、S/N、周波数応答などに細かい違いはありますが、注目したいのはやはりUcdのこちらの特性です。

ucd400thd

デジタルアンプとしては異例の美しい特性だと思います。見ての通り低周波から高周波まで歪率が変わりません。これはUcdのフィードバック設計が優秀ということの結果だと思うのですが、製品版のUcdは試作機であるUm10155と比べてさらに一桁近く特性が向上していますから、上記のシンプルなUcd原理回路だけでなく、そこからループゲインとループ帯域を増やす工夫がなされているのかもしれません。また出力フィルタによる劣化の影響もNFBで押さえていますから、これも高域特性の限界を押し上げている一因ではないでしょうか。

ともかく製品版のUcdモジュールでは歪率自体が10Wまでなら0.01%以下に収まっているので大半のアナログアンプと比べても全く遜色ないレベルにあります。対してICE-Powerでは6.67kHzで大幅に悪化しているのが読み取れます。ということはICE-Powerで気になっていた高域の荒さはUcdへの買い替えによって改善できる可能性が高いと思われます。

当時国内では実際に試した人の実績は0でしたが、これをみてUcdを試してみたくなりました。ICE-Powerの音質的問題点を解決できる可能性が高いので試す価値は十分にあります。何しろ誰もやってないということになりますと、そういう面でもやる気が出ます。

自作はケースに入れることを考えるとなかなか手間がかかりますが、これを見つけた当時(2009年頃)では市販の高級品でもこのような特性のD級アンプ製品はなかったし、当時はそれほどオーディオに予算を割けなかった事情もありますので自作にチャレンジすることにしました。海外から購入したのはスイッチング電源の400Wの組み合わせと、トランス電源の180Wの組み合わせです。そして実際にUcdアンプユニットを購入して組み立てたものが次の写真です。このへんは自作というより出来合いのキットのような内容ですね。

SMPS400A400+Ucd400ST

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標準の組み合わせですが、これだけでもICE-Powerとは異次元の高域の綺麗さです。電源にスイッチング電源を使っているのはICE-Powerと同条件ですから、あとはアンプ自体の優秀さによる音質差だと思います。低域のパワーだけはICE-Powerのほうがありますが、それ以外の音の分離や高域の滑らかさではUcdがワンランク確実に優っています。音質で大事な部分についてUcdがより優れていますから、今後の主力になるクオリティだと思いました。期待通りの音質です。

Ucd180HG+トランス電源版

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好奇心のままに購入したUcdのハイグレード版とトランス電源を使用したバージョンです。400Wのトランスは大きくて大変なので200Wくらいのトランスと組み合わせています。Ucdには180Wと400Wの違い以外にもグレードの違いがあります。STグレードとHGグレードの違いは主に2つ、ボード上のコンデンサの質の違いと、入力バッファのオペアンプの違いです。オペアンプはSTはNE5532、HGはLM4542です。

実際に上側のスイッチング電源版の400Wと比較すると音質はトランス電源のもののほうが高域は更に綺麗で優しい音です。スイッチング電源版は低域が明瞭ですが高域はやや荒く感じてしまいます。トランス版は高域の綺麗さ+低音のゆったりとした感じが非常にアナログアンプに近い音質に感じました。とはいえデジタルアンプならではの透明感、音の分離は維持しているのがポイントです。アナログアンプとD級アンプの良い所どりをしたような印象です。

Ucd180ST+トランス電源版

写真はないのですが、友人に作ってもらってこれも比較しました。音はトランス電源版にかなり近い印象です。ということは電源ユニットの違いが音質に対しては支配的であって、STグレードとHGグレードの音の差よりも電源の影響が大きいという結論になりそうです。STとHGの違いは音のキャラクター位です。若干HGのほうがオーディオ的なワイドレンジ、ハリの有る音でしょうか。

音質の要点

それでは最後に、ここまでの重要な音質面のポイントをまとめたいとおもいます。

  • 無改造のUcdではスイッチング電源とトランス電源の音質差が非常に大きい。
  • 400Wと180Wのユニット単体の音の差はあまりない。
  • HGとSTの違いは明確にあるが電源の影響よりは小さい

2010年の時点ではこんなところでした。引き続きいろいろな実験をしていくのでより詳細な音の違いの原因や対策方法も明らかになっていきます。

 

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